つとめて

 俺が姉上と夕餉の支度をしていると、さっき置いて帰った義兄上が、息を切らして駆け込んできた。


「しせらっ、一大事だ。ひさごが呼ばれた」


「急に何、ちょっと落ち着いて。呼ばれたって誰に」


「聞いて驚くなよ、――長上おさがみだ」


俺はうっかり吹竹を取り落とし、そのままかまどに焚べてしまった。しかし義兄上は気にした風も無く俺の肩を抱いて、痛いほど背を叩いた。


「これで将来安泰だな~。妻帯してなかったら、私がなりたいくらいだ」


「はぁぁっ、聞き捨てならないな。姉上という方がありながら」




 姉上と義兄上と過ごしたのは、その日が最後だった。ひさびさに何となく川の字になって寝て、明くる日の早朝、泣き腫らした顔の姉に起こされた。


「もう来たの。お迎えの方々がね、裏口からそっと出て来るようにって」


まさか昨日訪れた宮殿で、今日は湯殿に浸かるとは。俺の身は徹底的に清められてから、長上おさがみの前に引き出された。


「人払いを」


無言でさっと全員が退出し、長上おさがみと二人っきりになった。途端に押し倒される様式美に、いっそ感動すればいいのか。何となく今しかないような気がして、つい疑問を口にした。


「なぜ俺、いや、私をご所望に。義兄はただの調理人の端くれ、亡き父母もしがない漁民だったと姉から聞いています」


「有力氏族からは既にひめを迎えている、これ以上はあやぎり朝にとって害悪だ」


――つまり、俺が取るに足りない存在だからか。


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