媛彦談《ひめひこだん》∶カクヨム版

@yosinumayosi

ひさごの章

媛彦制

 先の王朝のさいごは実にあっけないものだった。男子は尽く夭折し、代わりに女子を擁立した。その治世もしばらくは良かったが、年頃になるとあらゆる兼ね合いから夫選びは難航し、配下の諸氏族も反旗を翻した。その機を他朝が逃すはずも無く――征したのは我らがあやぎり朝。だがそれも今や危うい状況だ。なにしろ男子どころか女子すら産まれない。


「ひさご、何をもたもたしておる。もう始まっているのだぞ」


「申し訳ございませぬ、義兄上。道が混んでおりまして」


 俺はいそいそと姉婿の後ろに並び、壇上の長上おさがみをちらりと仰ぎ見た。男盛りの壮年に差し掛かった我らが長上おさがみも、やはり内心気が気でないのだろう。何せ宮殿の庭に流れ者の祈祷師二人組を招き入れ、そこへ臣下どころか大衆までもを呼び寄せたのだから。


祈祷師のうち、老婆の方が妖しげなまじないを唱えながら火を焚くと、若い女の方は受け身も取らずバッタリと地面に倒れガタガタと震えだした。ここまではよくある神かがりだ。どうせ気休め程度の世迷い言を繰り返して、わずかばかりの謝礼をせしめて去っていくのがせいぜいと言ったところか。


「…………陰陽和合がなされておらぬっ。陰の気に対して陽の気があまりに強すぎる……介添じゃ、美童がその身を持ってあり余る陽の気を鎮めつつ、陰の気と交わることによってのみ子は授かる」


「わかったな、皆の者。大御神さまがそう仰せじゃ。ひめもこれに倣い、あやぎり朝にひこを迎えよう」


「義兄上、これはいったい……」


俺は状況がつかめず姉婿を仰ぎ見たが、何やら深く考え込んでいて、こちらを見向きもしなかった。つまらなくなり、先に帰ると周囲に言伝て一人この場を去った。


「おやまあ、もう終わったのですか。さっき出ていったばかりでしょう」


「そうなんだ姉上、本当に訳わかんなくてさ。帰って来たら義兄上に聞いてみて」




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