眩しさを感じ、鋼の意思で無理やり目を開いた。

 見覚えのある和室。目の前にぶら下がっている丸い明りはついていなかったが、障子を通り過ぎた光が目を刺した。

 ひどい夢を見た。

 少年の腕やら顔やらが思い出された。

 そうしていたら、ひどくお腹が空いているように感じた。

 そういえばゼリーが一つだけ残っていたよなと思って枕元に置いてあるリュックの近くにしゃがんだ。中を開けるといつもと同じ持ち物が入っていた。ハサミやらノリやらハンカチやら本やら、備えあれば憂いなしを過剰に具現化したものの様だった。

 しかし、妙に整理されていた。そして、リュックの中身を全て取り出してもゼリーは出てこなかった。

 障子の開く音がした。

「お、ようやく起きたか」

 そう、呆れたように言ってきたのは桃李だ。

「おはよう」

「はい、おはよう」

 挨拶を返してくれたり、時々勉強教えてくれたりする、一つ年上の近所のいとこ。

「お腹空いてるでしょ。お粥、作っといたからあっためるね」

 そう言うと桃李は部屋から出て行った。

「あ、」

 ありがとうって言えてなかった。

 ぽつりとそんなことを思い、体から力が抜け、だるくなり、畳に背中から倒れこんだ。

 程よい弾力に身を任せると、体が休まっているというような感覚になった。ただ、やっぱりゼリーがなかったかと起き上がった。

 中を探して、何にもないのをまた確認しただけだった。今度こそ諦めた。

 体のだるさが大きくなって、また背中側から畳に倒れる。

 そうしていると、そうなるべくしてなるように瞼が降りていった。そこに桃李がおかゆの入った丼の載ったお盆をもって入ってきた。

「お粥あっためたから、食べな」

 そう言いながら畳の上にお盆ごと置いた。

「あぁ、ありがとう」

 肺のあたりだけから出てきたような声で返事をした。

「いいっ」

 消えた、目の前で。

「桃李⁉」

 手を伸ばした。しかし人を触ったような感覚は得られなかった。

 ふと、後ろにいるのではないかと思い振り返ったが誰もいなかった。

 桃李はここにいたのだろうか、最初からいなかったのではないかと頭の中で問いかける。

 桃李のいた証拠はと探すと足元にお粥があった。

 間違いなくいたはずなんだ。

 どこに行ったと部屋を見回しても何もない。自分とお粥、それに照明……だけ?

 カバンは?

 もう一度部屋の中を見てもない。

 桃李なんて、元々いなかったんだっけ?

 膝から崩れ落ちた。その時、右ひざがお粥の入った丼に当たり、バランスを崩したそれが勢いに乗って私の顔面にぶつかる前に消滅した。

 そうですか。

 辺り一面真っ暗になった。自分の体だけが視認できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る