根津十太の葛藤

ぼちゃかちゃ

少年

 泣いている少年がいた。私が3カ月前まで来ていた中学校の制服を着て道路にしゃがみ込んでいた。住宅街のど真ん中。誰一人として家を出こなかった。近くにいるのは進学祝いにといとこからもらったリュックを背負っている私と、隣を歩く蓮薙はすなぎ先輩だけだった。

 不意に先輩が男の子の近くまで行き、大根役者もかくやというような演技めいて仰々しい声で言った。

「おぉ、どうした迷える子羊よ。道に迷ったのか? そうか迷える子羊よ、道に迷ったんだな。なんて言ったって迷える子羊だからななーはっはっはっはっは」

 そんな先輩に安堵したのは私だけだったようで、少年はまだ泣き続けていた。

 あまりにも先輩に任せておけなくなったので二人に近寄った。

「蓮薙先輩そんなんじゃだめですって。もっとこう、ね、相手に寄り添うように話しかけないと」

 そういうと

「そうかい? それじゃあ君がこの子と話してくれ」

 愉快そうにそう答えて半歩引いた。

 私は少年に触れられるほど近くまで行って、しゃがんだ。

 話しかけようと顔をあげると、やせ細った少年がいた。

 肉がほとんどついていない指に笑顔を浮かべるほどの筋肉もない頬。鼻、耳、目、そして髪の毛の存在だけが骨ではなく、人間ということを示していた。

「お前大丈夫か!? いや大丈夫じゃないよな、ちょっと待て 弁当の残りがあるからそれを。いやいきなり固形物はだめか。ゼリー! 余ってたゼリー、ゼリーが一つだけあるから食べなさい」

 背負っていたリュックの中を漁り目的のそれを取り出した。

 すると少年は顔をあげた。

「…………ぁよ。…………たよ」

「どうした」

 少年の口元に顔を近づけた。

「ぉなかすいたよぉ」

「そうだよな、だから、ほら」

 そう言って包装されたゼリーを差し出した。

「……ぃがと」

 そう言って少年はゼリーを受け取り、そのまま丸のみした。

「……ぃたよ」

 目が血走っていた。いつの間にか口から溢れるほどのよだれが出ていた。

「おおぉなぁかぁすぅいたよぉおお!!!!」

 発狂した。

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