3、ひなまつり

 小さい頃から、女の子向けのものが好きだったと思う。

 それは、高校生になっても……というか、段々と意識するようになってきて。はっきりと女の子が身につけるものが好きだ。


 親の都合で転校してきたらしい女子生徒、転校初日は珍しさから姿が見えなくなるほどに人だかりがあった。

 だがそれは、数日経てば普段通りの平穏な教室へと戻る。


 綺麗な黒い髪、かんざしが合うなぁ。


「じっと見てきて、何か用?」

「いやっ、その、ごめん! 綺麗な髪してるなって……あ、そのっ、キモいよね。本当ごめん」


 女子生徒は指先を少し、毛先に絡ませた。


「手入れなんて何もしてないんだけど、そう言われるのはちょっと嬉しいかも」


 ふふっ、と笑ってくれた気がした。



 土曜日、なんとなく行った買い物で、衝動買いをした。

 店員さんからはプレゼント用ですかと聞かれた。そうだよな、櫛なんて、それもデザインが完全に女性用だからな。

 櫛に惹かれて買ったのもあるけど、綺麗な黒い髪のあの子に似合うと思ったから。



「これを私に? 誕生日でもないのに」


 誕生日だったらリアクション良くもらってくれたんですか? 違うよね? あぁ〜……なんで勢いのままに行動してんだよ! 相手引いてんじゃん!


「男の子なのにこれを選ぶセンスが凄い」

「ほ、褒めてる?」

「もちろん! 私これ好きよ」


 好感触! 良かった。


「結構良い値段したでしょ。櫛に見合うお礼、なにができるかな……」

「俺が一方的にやったことで……お礼は別に」

「今週の日曜、うちに来ない?」



 日曜日、お呼ばれしてしまった。学校で待ち合わせて、一緒に電車に乗る。ついた場所は、ひな人形を販売してるお店だった。


「ここはおじいちゃんがお店してたんだけど、足腰辛いらしくて、今お父さんが必死に継ごうとしてるの。珍しいでしょ。ちゃんと人形なんだよ?」


 衣装や飾り、いろんなカスタムが出来るってことで3Dプリンターが多い。つまりはデータ販売。

 ここでは販売もだし、作る場所があるってことだ。代々受け継がれてる、凄い。


「男の子で、あなたみたいな人は初めて」

「えと……なにが?」

「人形をひとつずつ、しっかり見てくれることよ。大人が子どものためにって買うから、同い年で興味ある人なんていないし」

「俺さ、小さい頃から、女の子が持ってるものが好きなんだよね。だからひな人形も、飾れるなら、やってみたいし」


 少し沈黙があった後、「ひな祭りのはじまりは、流し雛。女の子のためなんて考えられてない。後付けの言葉に振り回されず、好きでいなさいよ」


 スパッと言いきられた。でも何でだろ、すっきりした。


「櫛を買ってたときは、迷いなんて無かったんでしょ?」

「うん、無かったね」


 今度は顔を見て、笑い合った。


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