2、鬼

 節分。恵方巻だの、豆を食べることはあっても、豆をまくことはしてこなかったように思う。


「どうして豆まきしないのー?」

「どうしてだろうな」


 物心ついたときに、親は離婚した。再婚相手だと紹介されたのはアンドロイド。ぎこちないながらも、なんとか生活してきた。


 新しく家族になった女性は、怒ることがなかった。アンドロイドだから、ロボットだからな。反抗期、思春期、今思うといろいろ重なってた……帰りが遅くなっても、怒らない。


 突っ込まれることが無いから、自由に過ごせて、それはそれで楽だったな。俺も干渉しなかったから、再婚相手が卵子を保存してるなんて気づかなかった。

 余命2年だったという再婚相手は、父親との間に子どもを望んでいた。


 随分と歳の離れた弟ができるなんて。そして弟は今、モニターに夢中で鬼はいるのかと目を輝かせている。


「まぁ、住んでるところが違えば、鬼もいるよ」


 古いしきたりがある都市とかは、やってるんじゃないの?


「おにいちゃん、豆まきしたい!」

「……えぇ?」


 探してみたら、豆はあった。お面付きのものを買ったらしい。やる気満々だったのかなぁ。


 渋々始めた豆まきは、次第にヒートアップしていった。弟は天性の煽りスキルを持っていた、そして、「鬼は外ー!」と投げてきた豆が俺に命中する。


 これがまぁまぁ痛い。


 玄関が開く音がする。買い物に行くと言っていて、もう帰ってきたってことか。


 床、玄関に続く廊下にまで、豆が散らばっていた。これってヤバいやつだな。


「ただいま。お兄ちゃんと楽しいことしてたのね」

「うん、豆まきしたー!」


 女性は怒ることがなかった。アンドロイドだからな。「お兄ちゃん、留守番ありがとう」と箒を手にした。


 「俺がやる。俺が散らかしたんだから」


 少しは怒れよ。アンドロイドの手から箒を奪う。ハッとして相手の顔を見た。何も変わらない、穏やかな表情。鬼は……自分の中にいるのかもな。


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