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糸花てと
1、振り袖
見上げれば配管が空を覆う。隙間から少し見える青が、唯一の自然かしら。
成人の儀。
モニターに映る振り袖を着る、娘と同じ歳の子たち。
娘が生まれてから、一年、また一年と過ぎる。
うちもいつの日かを考え、用意していた。でもそれは、袖を通さないかもしれないと予感がしてる。
生まれつきの病気で、立つことさえも難しく、最近は笑うこともなくなった。
「レンタルって、値段どれくらいだろ」
「何をレンタルするの?」
「……着物?」
そう言った娘は、モニターに目を向けた。映像では華やかな振り袖の綺麗な子が、インタビューを受けている。
「派手な格好してこなかったから、似合うか自信ないけど……そもそも病気だから着れないじゃんね〜」
そう自虐的に言う娘、なんて答えるのがいいの……。
着れないけれど、実物を見れば気は晴れるかしら。そう思って振り袖を持ってきた。娘の病室が近づくにつれて、やっぱり悲しむだけなんじゃないかと思えてくる。
「お母さん!」
「えっ、先生……。どうかしました? 娘に何か……?」
「そうじゃないんです。すみません、驚かせましたね。提案したいことがあって――」
担当医の話を聞いてみたら、VRゴーグルで振り袖を着てみたらというものだった。
もちろん映像、データだから着物を着た際の息苦しさがない。
「だけど、どうしてこんな話を? 先生に相談しましたっけ?」
「娘さんと同じ病室の子が、様子を見ていたようで、言うだけ言ってみてほしいと強くお願いされてしまって」
歳が近い子の考えだ。通ずることがあるかもしれない。
「先生、お願いできますか?」
娘を車椅子へと移動させ、被るようにVRゴーグルをつける。
手首につけたセンサーは、本物を触った際に感じる重さをデータ化させて、体感させるためという説明を受けた。
持ってきたのが無駄にならずに済んだ。
「わぁ……、綺麗」
娘の楽しそうな声。やって良かった。
「疲れない? 大丈夫?」
「まだ! もう少し着てたい」
ふと合わせる視線。先には、男の子が見ていた。担当医に提案してくれたのは、あの子かしら。
ありがとう、そういった意味を込めて会釈をした。そしたら一度はドアに隠れて、顔をのぞかせたと思ったら、会釈した。
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