第24話:8月19日(水)キャンプから帰ってきました
キャンプの朝はどんな季節でもひんやりしています。
お姉ちゃんはまだねむっていました。
起こさないようにテントを出ると、遠くから小鳥の声が聞こえました。
もう起きてたき火している人が一人、散歩をしている人が一人、他に人の姿は見当たりませんでした。
キャンプ場全体にうすいキリが出ていて、神ぴ的な感じがします。
朝日を見ようと、見晴らし台に向かって歩きました。
と中で飲める水の出る水道があったので、顔を洗って水を飲みました。
森の小道を抜けていくと、小鳥たちがついてきました。
見晴らし台は小高い丘にあって、周囲は木が少なく牧草が生えています。
キリも晴れてきて、丸々とした丘の向こうがほんのりと光っているのが見えました。
新せんな空気を胸いっぱい吸い込んで、両手を大きく動かしながら歩きます。
ラジオ体操の代わりです。
「うわぁ!」
見晴らし台につくと、ちょうど目の前に広がる重なった山の向こうから朝日がのぼってくるところでした。
高い山同士が重なって、空の向こうにカベを作っています。
そのてっぺんにささったうすい雲。
朝日があたると雲はとう明になって青い山のカベと同化しました。
だれもない見晴らし台で、私はキレイな朝日をひとり占めしました。
写真を撮っておけばよかったと思う一方、目で見たからこんなに感動したのかもしれないとも思いました。
世界で私だけが知っている朝日を、今でも目をつむると思い出せます。
「キレイだったなぁ……」
朝日がすっかりのぼったので帰ろうとすると、管理人の小林さんが丘を上ってきていました。
「おはようございます!」
「なっちゃんじゃないか。おはよう」
小林さんは道のごみ拾いをしていて、大きなビニール袋とトングを持っていました。
「朝日は見れたかい?」
「はい! すごかったです!」
「だろ? オレもここの朝日が大好きでね」
テントまで送ってくれるというので小林さんと並んでゴミ拾いをしました。
そこでお父さんとお母さんの大学時代の話を聞きました。
明らかにお父さんに気があるけど告白しないお母さんと、お母さんにほれてるのにどん感で気づいていないお父さん。
大学のサークルでも、みんなそのことに気付いていてくっつけようと色々な作戦をやったそうです。
「結局、ここでのキャンプが成功したんじゃないかとオレは思ってるんだけどね。二人で朝日を見てから帰ってきたら、何となくそうじゃないかって雰囲気があったし」
「どっちから告白したんでしょう?」
「さあ、本人たちに聞くしかないだろうね。オレとしちゃお父さんの方だと思うんだけど。そうじゃないとあのお母さんがOKしないと思うし……」
「どん感なお父さんが気づいてあわてて告白してたら面白いですね!」
「だろ? さ、ウワサをしてたら二人とも起きているようだから、オレは行くよ。楽しんでね」
「はい! ありがとうございます、小林さん!」
小林さんは軽く手を振ってゴミ拾いにもどりました。
私はテントの前でコーヒーをいれているお父さんとお母さんのところに走っていきました。
「おはようなっちゃん。ココアにしといたよ」
「ありがとうお父さん!」
「朝日を見て来たんでしょう? キレイよね、ここの朝日は」
「うん! とっても!」
席につくと、お父さんとお母さんが何となくいい雰囲気で目配せしていました。
やっぱり二人にとってここの朝は特別なんだと思います。
「ねえ、小林さんから聞いたんだけど、お父さんとお母さんはどっちが最初に告白したの?」
すると、二人してブッとコーヒーを吹きだしてせき込みました。
「私も気になるなぁ……あっ、おはよう」
テントからお姉ちゃんもずるずるとはい出してきて伸びをしました。
「お、お父さんよ! ねぇ?」
「あっ、ああ……そ、そうだな、お父さんだ! うん!」
お母さんは笑顔だったけどすごい圧力を感じました。
「それより冬子、コーヒーだぞ! ほら、濃いめだから!」
お姉ちゃんはお父さんからコーヒーを受け取ったら、そこにマシュマロを落としました。
「ありがと。ふ~ん、お父さんから告ったんだ?」
「も、もうその話はいいだろ! ほら、なっちゃんも、ご飯作るぞ!」
お父さんは強引に話を打ち切って、スキレットを火にかけました。
お母さんも「そうよ! ジブリのご飯作りましょ!」と立ち上がって卵やベーコンを取り出します。
そんな二人を見て、私とお姉ちゃんは顔を見合わせて笑いました。
朝ご飯を食べてからのんびり読書したり日記をつけたりして、十時前に片づけをしました。
チェックアウトして車に乗ったら、小林さんが「これ持ってって」と近くの高原で作られているヨーグルトをくれました。
車が発進し、「また来いよ~!」と手を振る小林さんがミラーの中でどんどん小さくなっていきました。
蝦蟇ヶ淵はシャワーのないキャンプ場なので、いつも定番コースの温泉に寄って帰ります。
高速道路に乗って三十分くらいのところにある『宵山温泉』です。
ここは宿泊もできる大きな温泉宿で、日帰りでもくつろぐことができます。
女湯の大浴場は黒い石でできていて、お湯はとう明な緑色をしています。
露天風呂もあって、打たせ湯もありました。
かみの毛がかゆくなってきたのでお風呂に入るのが楽しみでした。
私たちは四十分くらいゆっくり入っていて、お父さんは先に上がってマッサージ機に座ってくつろいでいました。
食券を買って広いお座しきでお昼ごはんを食べました。
私とお父さんは天ぷらうどん、お母さんはかつ丼、お姉ちゃんは湯どうふ定食でした。
ご飯の後、高速に乗る前に道の駅に寄って新せんなお野菜と乳製品、ベーコンを買いました。
帰りの車はお父さんとお母さんが交代で運転していて、私とお姉ちゃんはずっと後ろの席で歌を歌っていました。
一泊しかしてないのに、うちに帰ったらすごくなつかしい感じがしました。
キャンプはホテルとかに泊まる普通の旅行とちがって、いつも同じところへ行くのに、その度に特別だったなって思うから不思議です。
今回のキャンプもすごく楽しかったです。
だけど、後片付けまでがキャンプなのです。
お母さんとお姉ちゃんはキッチンで食べ物関係、私とお父さんはテントとかの機材関係を庭でキレイにしました。
シートをしいていても地面の砂とか葉っぱとかがテントの裏にくっついています。
それをホースの水で落として、物干し竿にひっかけておきます。
ポールはちゃんと種類ごとにまとめて、切れているところがないと分かったら袋に入れます。
片づけをして少し休んだらもう夕方でした。
夕ご飯に食べたグラタンとサラダ、小林さんからもらったヨーグルトはすごくおいしかったです。
今は大満足で二日分の日記を書いています。
明日は家庭科の宿題でお母さんといっしょにお菓子を作ります。
うまくできたら、みんなにもおすそわけしようと思います。
失敗したら、あげません。
おやすみなさい。
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