第23話:8月18日(火)家族でキャンプに行きました

 ねむれないと思っていたけど、布団に入ったらねむってしまいました。


 ラジオ体操もあと少しになって、人数が増えてきました。


 小学生だけじゃなくてお年寄りの姿も目立ちます。


 最初はやる気十分で参加して、と中でダラダラしてしまい、最後にまたやる気を出すパターンが多いって神主さんが言っていました。


 うちに帰ってご飯を食べたら日記を書きました。


 キャンプ場には持って行かないので、今日の残りの分は明日書きます。


 その後、お父さんの車でキャンプに出発しました。



 蝦蟇ヶ淵キャンプ場(すごく難しい漢字!)はうちから高速道路で一時間半行ったところにある山のキャンプ場です。


 お父さんとお母さんが就職したばかりの頃によくデートでキャンプをした思い出の場所で、私とお姉ちゃんも昔から毎年来ていました。


 去年、私のうちでゆるキャン△のドラマがはやって、お母さんがマンガを全巻そろえました。


 アニメもすごくかわいくて面白かったです。


 だから今日はマシュマロ焼きをやってみたいと思います。


 キャンプ場に行くと中にスーパーがあって、そこでお肉や野菜、冷たい飲み物を買いました。


 そのお店はお父さんとお母さんが学生だった時からあるそうで、魚売り場でいつも同じ思い出話を聞かされます。


 今年も「この人、アジとサンマが見分けられなかったのよ」「だって似てるじゃないか」「似てないわよ。ね~?」という会話に、私とお姉ちゃんは巻き込まれました。


 キャンプ場についたら、お父さんと私で受付に行きました。


「やあ、今年も来なすったね」


「小林さん、ごぶさたです。さっそくいつも通り宿泊とマキをお願いします」


「はいはい。ハンモックのあるところ空いてるから使ってよ。なっちゃんも元気かい?」


「元気です!」


 小林さんはお父さんの大学時代のお友達で、キャンプが好きすぎた結果、親せきとかじゃないのにここの管理人の後をついじゃった人です。


「ゆるキャン△のえいきょうで今年もたくさん若い子が来てるよ。ありがたいことだ」


「わが家でもおおはやりですよ。なっちゃんはなでしこちゃんが好きなんだよな?」


「うん! もちもちしててかわいいの! でもリンちゃんもクールで好き!」


「オレ達のアイドルはやっぱりリンちゃんのおじいさんかなぁ……あっ、マキはいつものとこにあるから、台車で持っていきな」


「ありがとうございます。さっ、行こう」


「うん! またね小林さん!」


 管理人小屋の横にはたくさんのマキが積み重なっています。


 一輪の台車に二束乗せて、お父さんといっしょに押して運びます。


 受付をすませるのと並行して、お母さんは車を運転していつもの場所の近くに停めていました。


「おつかれさま、こっちも大体運び終えたわ」


 私たちが到着したら、四人でテント作りです。


 お父さんは運動神経はまあまあだけどキャンプになるとたよりになります。


 私とお姉ちゃんがテントを建てる間に、お父さんは大きなツールームテントを建ててバーベキューコンロに炭を並べ終えていました。


「なっちゃん、火点けをたのむよ」


 これは毎年こう例の私の仕事です。


 まずは丸めた新聞紙を置いて、細い枝を三角形になるよう立てかけます。


 コツはスキマをたくさん作っておくことと、最初は細い枝から初めて徐々に火を大きく育てることです。


 チャッカマンで三か所くらい火を点けたら、お父さんから手渡される細い枝を上手く配置していきます。


 火が徐々に大きくなってきたら、お父さんといっしょにフーフーして火力を上げ、炭が温まるようにがんばります。


 その間にお母さんはお米をといだり、野菜を切ったり、テーブルを用意してたりしました。


 お姉ちゃんは近くでキャンプしてる人にあいさつしたり、写真を撮ったりしています。


「さすがなっちゃん、手慣れたもんだね~」


「お姉ちゃん、すごいでしょ! さあ、焼肉パーティーだよ!」


 炭に火が点いたら火ばさみで階段状にして火力調整。


 お母さんが飯ごうを火にかけ、そのとなりでお湯をわかします。


 残ったスペースで野菜や肉をお父さんが焼いていきます。


「トントロおいっし! あ~、外のお肉って最高!」


 お姉ちゃんは焼き上がったものからパクパク口に運んでいきます。


 私が食べるお肉がなくなっちゃいそうだけど、焼肉は戦場なので仕方がありません。


「ほら、昨日タレにつけた牛も焼くよ」


 お父さんがジップロックを開けると、香ばしい匂いが広がりました。


 私たちは焼肉をたん能して、食後にはコーヒーを飲みました。


 お父さんが片付けと火の番をしてくれると言ったので、お母さんは散策に行きました。


 お姉ちゃんはハンモックで読書をはじめて自分の世界に入ってしまいました。


 私は森の小道を散歩して、ダンゴムシを集めたり、他の小学生たちと虫取りをしたり、フリスビーに混ぜてもらったりしました。


 夢中で野山を走っていたら夕方になっていました。


 小川にかけられた手すりつきの木の道をキャンプ場に向かってもどっていると、カエルの鳴き声がしました。


「なっちゃん」


「かわずちゃん!」


 橋の上に着物姿のかわずちゃんが立っていました。


「かわずちゃんもキャンプなの?」


「この山はお気に入りなの」


「そうなんだ! 私もだよ! 空気がすんでて気持ちいいよね~」


 かわずちゃんと並んで歩きながら川の流れをながめました。


 そしたら、チラッチラッと小さな光が足元から浮き上がってきました。


「すごい! ホタルだよ!」


 おばあちゃんちではホタルをゆっくり見られなかったので、私は興奮してしまいました。


「ほんと。おいしそうね」


 かわずちゃんはよく分からない例えでホタルをほめました。


「すごいな~、電気もないのに光るなんて」


 川のあちこちから次々に舞い上がったホタルは、手すりに止まったり、空中をふわふわ飛んだり、私の服に止まったりもしました。


「あっ、かわずちゃんの頭にもホタル止まってるよ!」


 光るカンザシがかわずちゃんをかわいく飾りました。


 かわずちゃんは「どこ?」と両手でホタルをつかまえようとしましたが、ホタルはスッと飛んでいき闇の中に消えました。


 私たちは光の道を歩いていきました。


 そして、橋が普通の道になったところで、気が付いたらかわずちゃんはいなくなっていました。



 テントにもどると、お母さんがカレーピラフを作っていました。


「なっちゃん! もうちょっとおそかったら探しに行くところだったよ」


 お父さんがほっとした顔で、私の頭に手を置いてなでました。


「あっちの遊歩道、ホタルがすごかったんだよ!」


「今年もちゃんといるんだね、ホタル。あとでみんなで行こうか」


「うん!」


「ほらなっちゃん、スペアリブ焼くよ」


 お姉ちゃんがトングを手渡してくれたので、私は大きな肉のかたまりをアミの上に並べました。


 お父さん特製の卵スープ、お母さんのピラフ、スペアリブ、トマトとチーズをのせたクラッカーが夕ご飯でした。


 食べ終えたらマシュマロを棒にさして火であぶりました。


 一回目は溶けすぎて火の中に落ちちゃってお姉ちゃんに笑われました。


 二回目はちゃんとできて、口の中で甘くて熱いマシュマロがとろりと溶けてくれました。


 一つ食べたら手が止まらなくなって、家族四人で無言でマシュマロを焼き続けました。


 それからお父さんが小さなギターを出してきたので四人で歌を歌いました。


 キャンプに来るといつも歌う定番曲から、ゆるキャン△の曲まで、十曲くらい歌ったらだいぶねむくなりました。


 お姉ちゃんといっしょに歯をみがきに行って帰ってくると、お父さんとお母さんがたき火の前に座ってお酒を飲んでいました。


 もうねむかったのでお姉ちゃんとテントに入りながら「なんかラブラブな雰囲気だね」「オトナの時間って感じする」とコソコソ話し合いました。


「なっちゃんは好きな人とかいるの?」


 テントの中で並んで寝転ぶと、お姉ちゃんが恋バナを始めました。


「分かんない。お姉ちゃんは?」


「あたしはいるよ。好きな人」


 お姉ちゃんに好かれるなんて、よっぽどすごい人なんだと思います。


「どんな人?」


「うーん……ドジで、天然で、何考えてるか分かんない人かな」


 ぜんぜんすごくなさそうなのでおどろきました。


「そんな人がいいの?」


「いざって時はちゃんとかっこいいんだよ。それに、ドジなところもかわいいっていうかさ……」


 テントの中は暗いから、お姉ちゃんの顔はぼんやりとしか見えなかったけれど、とても楽しそうでした。


「お父さんだってそうでしょ。お母さん、お父さんが完ペキだったら結婚してなかったと思うな」


 そう言われるとたしかに分かる気がしました。


「お父さんみたいな人なの? その人?」


「ちがう……って思ってたけど、もしかしたら似てるかも」


「そうなんだ……いいなぁ、私もいつかお姉ちゃんみたいに恋したい」


「大丈夫、なっちゃんなら。なんてったって私の妹なんだから」


「それどういう意味ー?」


「チョーカワイイって意味よ」


 お姉ちゃんはそこで私をぎゅっとしてわしゃわしゃ~ってしました。


「お姉ちゃん~!」


「なっちゃん~! うりうり~!」


「もう! お返し~!」


「おっ、やったな~!」


 二人でもみくちゃになってくすぐり合い、同じタイミングで大笑いしました。


 テントの外からは虫の声と、火が燃える音と、少しだけの話し声が聞こえました。


 キャンプの夜って感じがして、体から余計な力が抜けていく感じがしました。


「おやすみなさい」


 そう言ってめをつぶると、意識がふわふわして、空に浮かんでいくみたいでした。


 私はこの夜、ぐっすりとねむりました。

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