第17話:8月12日(水)クーラーが壊れたり、ゲームで勝ったりしました

 変な夢を見ました。


 私は山の中に立つ大きなお屋しきの前にいました。


 お屋しきは周囲をお城みたいなヘイに囲まれていて、二階建ての母屋の右手には納屋と蔵がある昔の農家タイプの家でした。


 入り口は立派な門があって、閉じた扉の前に赤い着物の女の子が立っていました。


 その子は昨日も夢に出てきたかわずちゃんに似ている子で、手にはキレイなマリを持っていました。


「かごめ、かごめ、かごの中の鳥は、いついつ出やる、夜明けのばんに、へびとかえるがすべった、後ろの正面だぁれ」


 辺りにはそんな歌声がどこかから流れていました。


 私は吸い寄せられるようにその家に近づいていきました。


 近づくにつれて、空が赤くなって、風がぬるくなって、空気が重くなりました。


 いやだ、行きたくない、そう願っても止まりません。


 やがて扉がギギギィという音を立てて開き始めました。


 女の子がマリをつきながら扉をくぐって振り返り、「もうすぐ会えるね」って言いました。


 そこで夢から覚めました。


 クーラーが止まっていて、びっしょり汗をかいていました。


 シャワーを浴びると、洗面所でお姉ちゃんとばったり会いました。


「クーラーこわれちゃった」って言うと、「なっちゃんも? 私もだよ。昨日の晩、そんなに暑かったかねぇ……」と首をかしげていました。


 朝ご飯で分かったのだけど、どうやら二階のクーラーがぜんぶこわれてしまったようでした。


 明日からおばあちゃんちに行くから、今日直せなかったら大変だとお父さんがあわてていました。


 お母さんは「直らなかったらみんなで一階で寝ようか。キャンプみたいでしょ」となぜか楽しそうでした。


 結局、お父さんの知り合いの電気屋さんが夜に来てくれることになりました。


 二階が使えなくなったので、午前中は一階でピアノをひいていました。


 ヒマそうなお姉ちゃんもと中から加わって、二人で色々な曲をひきました。


 お姉ちゃんは何でもできるけど、ピアノが上手いわけではありません。


 私もピアノは上手くないけど、お姉ちゃんよりはひけると思います。


 一番楽しかったのは米津玄師の「感電」をひいた時でした。


 この曲はジャズっぽくて気持ちいいし、予想外の所で転調するのでおどろきもあります。


 他にはヨルシカの「ただ君に晴れ」もひいていて飛び跳ねたくなりました。


 ヨルシカの曲はピアノがすごく合うので、一人の時もけっこうひいています。


 お昼はお姉ちゃんがソーメンをゆでてくれました。


 午後になるとお姉ちゃんは遊びに行ってしまい、私は一人で宿題をやりました。


 そして、三時からひまりちゃんとFortniteを始めました。


 前まではスプラトゥーンをやっていたけれど、最近はFortniteをやることが多いです。


 無料だし、建築が楽しいのでハマってしまいました。


 ひまりちゃんとデュオを組むと、自然と役割分担ができます。


 私が建築で敵と正面から争って、ひまりちゃんが敵の裏を取ります。


 ひまりちゃんは遠くをうつのが得意で、開けた場所だとたよりになります。


 逆に私は近いところでみんなが入り乱れている方が、反射神経が試されてるみたいで好きです。


 六時まで三時間デュオをやって、三回も優勝できました。


 私たちは優勝のことを「ドン勝」って呼んでいて、これは別ゲームの用語らしいけど、ひびきがいいから使っています。


「やっぱり私たちは最強コンビだね!」


「うん! なつひまペアは最強だよ!」


 通話だけど、ハイタッチしている気分でした。


 お互いお母さんが仕事から帰って来て、ゲームはお開きになりました。


 またやろうねって約束をして通話を切って、私はお母さんのお手伝いでお風呂掃除をしました。


 夕食はぐうぜんだけど、かつ丼でした。


 お姉ちゃんは外で食べて来るらしく、三人で食卓を囲みました。


「明日からおばあちゃんちだけど、自由研究はどうするの?」


 お母さんに聞かれて、私は自由研究のことを何も考えてなかったと思い出しました。


 答えに詰まっていると、お父さんが「まあまあ、いいじゃないか。小学校最後の夏休みなんだから」とかばってくれました。


「それとこれとはちがうでしょ。去年みたいにアサガオ観察なんかは、もうできないだろうし」


「おばあちゃんちなら野菜もたくさんあったろ。それに紙飛行機作りとか、色々あるじゃないか」


「それじゃあいざという時はあなたが手伝うんでしょうね?」


「もちろん。だけど、なっちゃんなら心配いらないよ。なぁ?」


 お父さんはちょっと私のことを高く評価しすぎだと思います。


「うん。ちゃんとおばあちゃんちで自由研究するよ!」


 でもお父さんが信らいしてくれているのはうれしいので、何かおどろかせられたらいいなと思います。


 それからは寝るまでずっと何の研究をしようか考えていました。


 百合子先生は「身の回りのことで疑問に思ったことを調べるだけでいいのよ」って言ってたけど、難しいです。


 結局何も思いつかなかったけど、おばあちゃんちに行ったら疑問が見つかるんじゃないかと思います。


 多分。


 おやすみなさい。

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