第12話:8月7日(金)家族で海に行きました

 かわずちゃんと遊ぶ夢を見ました。


 おままごとをして、私とかわずちゃんが双子の姉妹という設定でした。


 私は現実だと妹だけど、夢の中ではかわずちゃんのお姉ちゃんでした。


 かわずちゃんがやっているお店にはたくさんのお魚が並んでいました。


「くださいな」と私が言うと、かわずちゃんは「なっちゃんの大切なものと交換ね」と言いました。


 ポケットを探ると、神主さんからもらったカエルの形をした棒付きキャンディーがありました。


 それをかわずちゃんに差し出すと、かわずちゃんが長い舌を伸ばしてすごい速さでそれを口の中に持っていきました。


 おどろいて目が覚めました。


 キャンディーは机の引き出しに袋に入れて保管しておいたけど、見たらなくなっていました。


 お母さんは机の中まではおそうじしません。


 だから、私がどうにかするしかないはずです。


 首元の鈴が一回リンと鳴りました。


 時間なので、私はラジオ体操に出かけました。


「おはようなっちゃん。夏休みに入ってから一回も雨降ってないね」


 水上神社につくと、巴ちゃんが話しかけてきました。


「おはよう、巴ちゃん。梅雨でぜんぶ降っちゃったのかもね」


 そう答えつつ、私たちはどっちが昨日のことを言い出すか探っているみたいでした。


「おはよう、ふたりとも。よくねむれた?」


 おくれてやってきた絵理ちゃんは明らかにねむれなかった人の顔をしていました。


「絵理ちゃんが一番ねむれてないでしょ」


 巴ちゃんはそう言ってニヤって笑うと「昨日のことさ、やっぱり現実だと思う?」と小さな声で言いました。


「熱中症のまぼろし……そう思ったけど、三人で同じまぼろしなんて見ないよね」


「私もなっちゃんと同じく、まぼろしじゃないと思う。だけど現実だったのかは……」


 うでを組んで考えているとラジオ体操が始まってしまいました。


 体を動かしたら頭がすっきりしました。


 ラジオ体操の後、ずっと言いたかったことが三人ともどんどん口から出てきました。


「あの赤い水、キモかったね」


「飲んだらどうなってたんだろう」


「赤い字の貼り紙もキモかった」


「意味わかんなかったよね」


「一番はでっかいヘビでしょ。外国産かな?」


「さっちゃんのお母さん……いや、"あれ"が一番キモかったんじゃない?」


「私たちよくにげられたよね」 


「つかまってたら食べられちゃってたかも、あれに……」


「絵理ちゃん、体育の成績一なのにカベ越えるのすごく速かったよね」


「なっちゃんこそ、二階からジャンプしたのすごかったわ!」


「なんかすごく跳べたんだよね、あれにお尻から落ちちゃった」


「表札から変だったよね」


「真っ黒! 窓も板でふさがれてたし……」


「どう考えても入っちゃダメな家だったね」


 私たちは息があらくなるくらい一気にしゃべって、同時にだまりました。


「……あのさ」


 巴ちゃんが私と絵理ちゃんの顔を見ながら、落ち着いた口調で言いました。


「あの日のボイスレコーダー、聞く?」


「聞きたくありません」 


 すぐに絵理ちゃんが頭を横に振りました。


「なっちゃんは?」


「私は……」


 どうしようか迷ったけど、今さらこわいことを思い出す必要はないかなと思いました。


「みんな無事だったから、もうあの家のことは考えたくない」


 そう言うと、巴ちゃんは少しだけ残念そうな顔をしましたが「わかった」とうなずきました。


「私たち三人のヒミツにしましょう」


 絵理ちゃんが小指を出したので、三人で指切りしました。


 帰り道を一人で歩きながら、私はふと巴ちゃんが左手で指切りしたことを思い出しました。


 巴ちゃんは右利きだし、普通は右手でするのではないでしょうか。


 そういえば、巴ちゃんは私に声をかけてきた時からずっと右ポケットに手を入れたままでした。


 あそこにはずっとボイスレコーダーがあったのかもしれません。


 巴ちゃんは昨日私たちが帰ってから、それを一度でも聞いたのでしょうか。


 それとも聞きたいけれどこわいから、私たちといっしょに聞くために今日持ってきていたのでしょうか。  


 おうちに帰ったらお父さんも起きていて、家族そろって朝食を食べました。


 水着の上に服を着て、うきわとかパラソルを車に積んで海へ出かけました。


 お姉ちゃんは明日英語の大会があるので、車の中でもイヤホンで英語を聞いています。


 私は助手席に座ってお父さんとしりとりをしたり、CDに合わせて歌ったりしました。


 お父さんは九十年代の外国のロックが好きで、私には歌詞の意味が分からないけれど、リズムが分かれば何となく歌えます。


 一時間くらいして海に着いたら、海の家のちゅう車場に車を停めました。


 係のお兄さんたちはみんな真っ黒に日焼けしていてすごかったです。


 鈴はサビちゃうとイヤなので車の中に置いてきました。


 お父さんが荷物を持って、お母さんがパラソルを立ててくれました。


 私はお姉ちゃんと日焼け止めをぬり合いっこしました。


 お姉ちゃんの肌はすべすべでうらやましかったです。


 準備体操をしたら海でたくさん泳ぎました。


 遠浅の海はとうめいで、お魚がたくさん泳いでいました。


 私の近くにはずっとお父さんがいてくれて、ふたりでもぐりっこしたり、泳ぎの競争をしたりしました。


 アミでお魚をつかまえようとしたけど、速すぎて無理でした。


 お姉ちゃんははじめパラソルの下でお勉強をしていたけれど、と中で「がまんできない!」ってさけんで海に飛び込みました。


 お母さんは家族で一番泳ぎが上手いので、お姉ちゃんが来るまではずっと一人でテトラポットと浜辺を往復していました。


 つかれて浜辺にもどると、お母さんが海の家で焼きそばとかき氷を買って来てくれました。


 砂が混じっていたけど味がこくておいしかったです。


 お姉ちゃんとお父さんは私たちより後で、タタミのところに上がってラーメンを食べていました。


 午後は、お父さんと流木と砂でお城を作りました。


 波で何回かくずされたけど、と中でお姉ちゃんも合流して、最強のお城を作りました。


 その後、お父さんとお母さんはパラソルの下で休んでいると言ったので、お姉ちゃんと二人で泳ぎました。


 お姉ちゃんは泳ぎがキレイで人魚みたいでした。


 私は平泳ぎとクロールしかできないけど、お姉ちゃんは背泳ぎとかバタフライもできるからすごいです。


 私も高校生になったらお姉ちゃんみたいになれるかな?


 夕方に近づいてきたら、寒くなる前に片づけをしました。


 砂を落とすシャワーはちょろちょろとしか出なくて大変でした。


 着替えるところはベニヤ板とスノコでしょぼかったので、お父さんの提案で私とお姉ちゃんとお母さんは車で着替えることにしました。


 ドアをしめて窓にシートを張って、一人ずつ着替えました。


 帰り道で温泉に寄って、ごわごわになったかみを洗いました。


 日焼け止めはぬったけど、お湯がすごくしみてきつかったです。


 だけど、温泉のレストランで食べたお風呂上がりの天ぷら定食はすごくおいしかったです。


 おうちについたらすごくねむくなってしまって、日記をつけずに寝てしまいました。


 だから、これを書いたのは本当は明日の朝なんです。


 また海に行きたいなあ。


 おやすみなさい。

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