第8話:8月3日(月)お姉ちゃんが帰ってきました!
ラジオ体操に行ったら、一週間記念でお菓子をもらいました。
カエルの形をした棒付きキャンディーです。
でも、神主さんは私にだけ「キャンディーはできたら食べないで持っていなさい」と言って、代わりに冷たいみかんアイスをくれました。
十一時くらいになったら、お母さんと麦わらボウシを買いにイオンへ行きました。
お母さんのやつはひものところが赤いんだけど、私は水色がほしくて、ちょうどあと一つ残っていました。
お母さんは「お父さんと冬子にはナイショよ」って、いっしょに革ひものブレスレットも買ってくれました。
ベージュで留め具は金色の大人っぽいデザインでした。
私はさっそくボウシをかぶって、左手首にブレスレットをつけました。
お昼はレストラン街のおそば屋さんで月見そばを食べました。
その後、お母さんが本屋で雑誌を読み始めました。
イオンでお母さんが雑誌を読んだら、三十分自由にしていいという合図でした。
私は何となく本屋の横のゲームコーナーに行きました。
そこに同じクラスの山本浩平くんが一人でいました。
浩平くんはちょっと不良でやんちゃだけど、体育の授業だとすごく活躍します。
でも部活には入っていなくて、放課後はいつも学校の裏山とか、蛇山とかにいます。
浩平くんに話しかけると、「なんでここにいるんだ」ってすごくびっくりされました。
「お母さんと買い物に来たの。浩平くんも?」
私のその言葉は、浩平くんにとってあんまりいい意味じゃなかったみたいです。
浩平くんがすねちゃったので、ゲームで勝ったらちゃんとお話しするようにって言いました。
対戦ゲームをやって、私の圧勝でした。
ひまりちゃんときたえているから負けません。えっへん。
浩平くんは実はゲームコーナーにいるだけでゲームはあんまりやらないそうです。
「ここはうるさいから好きなんだ」
私は静かなところの方がどっちかって言えば好きだけど、浩平くんはそうじゃないみたいです。
「おうちは好きじゃないの?」
そう聞くと、浩平くんはあきれた顔で「なっちゃんってけっこうズケズケ聞いてくるな」と言いました。
「うちはキライだ」
その時、浩平くんのお腹がぎゅう~って鳴りました。
「何か買ってあげる」って言うと、浩平くんは「腹なんかへってない! かまうな!」って強く言いました。
だけど、そこで浩平くんのお腹がぎゅぎゅぎゅう~って鳴りました。
私は浩平くんの手を引いてフードコートへ行きました。
そして、おこづかいでハンバーガーとポテト、コーラを買いました。
二人でイスに座っても、浩平くんは食べようとしませんでした。
時計を見るともうお母さんと約束した三十分がたちそうでした。
「もう時間! お母さんのところに行かなきゃ! もったいないから残りお願いね!」
私が立ち上がると、浩平くんは「……なあ、今度なんか困ったら言えよ。助けるから」って言いました。
私は「うん、ありがとね!」って言って、お母さんのいる本屋にダッシュしました。
お母さんがなんでも一冊買ってくれるって言うから、文乃ちゃんが面白かったって言ってた「ぎぶそん」を買ってもらいました。
音楽をする小説らしいです。
帰って読むのが楽しみ!
おうちに帰ってきたらピアノの練習をして宿題をやりました。
夕方に冬子お姉ちゃんが合宿から帰ってきました。
三日ぶりにお姉ちゃんに会えてうれしくて抱きつくと、「いい子にしてた? お父さんとお母さんにかまってもらえて楽しかったでしょ」って言われたので「お姉ちゃんがいなくてさびしかったよ!」って言いました。
お姉ちゃんは照れてました。
ご飯の後、お姉ちゃんがいっしょにお風呂に入ってくれました。
そこでお姉ちゃんに「なっちゃん、その鈴もいっしょにお風呂に入るようになったね」って言われました。
「私が合宿行く前は脱衣所に置いていたのに、今は首から下げたままなんだ。大丈夫? サビちゃわない?」
私は言われて初めて鈴といっしょに入浴していることを知りました。
こわい夢を見た日から、寝る時もずっと鈴を下げています。
でも、お風呂にも持っていくようになっていたことは知りませんでした。
お風呂から上がると、お姉ちゃんが髪をかわかしてくれました。
明日は水曜日の振りかえでピアノのレッスンがあります。
いっぱい練習したから山岸先生がほめてくれたらいいな。
おやすみなさい。
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