第4話:7月30日(木)神社のお祭りがありました
今日は水上神社の夏のお祭りがありました。
朝のラジオ体操にやっぱりかわずちゃんはいませんでした。
ラジオ体操が終わって帰ろうとしたら、一人になったところで「なっちゃん」と呼ばれたのでふり返ると、かわずちゃんがいました。
かわずちゃんは前に会った時と同じ、青地におたまじゃくしが描かれている着物で、帯は白と黒のシマ模様でした。
「かわずちゃん、一昨日かわずちゃんと遊ぶ夢を見たよ」
「私もなっちゃんと遊ぶ夢、見たよ」
私が笑うと、かわずちゃんも笑顔になりました。
目を合わせて話すと相変わらず少しい和感があったけど、結局どうしてか分かりません。
でも、私たちはすっかりお友達でした。
「かわずちゃんはお祭り来ないの?」と聞くと、かわずちゃんは「ごめんね」と言ってから「代わりに私の鈴をお祭りに持って行ってほしいの」と言いました。
私は最初からそうするつもりだったので、「もちろんだよ!」と答えました。
かわずちゃんはうれしそうに「ありがとう」と言ってくれました。
午後は公民館に行ってはっぴを着ました。
帯をしめるのに苦戦していると、神主さんが手伝ってくれました。
優しそうな神主さんは私の鈴を見てちょっとおどろいていました。
私が「かわずちゃんにもらったの」と話すと、神主さんは真面目な顔で「これは古い物だから大切にしなさい」と言いました。
私は「はい!」と元気にお返事しました。
その後、神主さんが白いフサフサがついた棒をふって「みたま」というのをおみこしに入れました。
そして、みんなでハチマキをして子どもみこしを担ぎました。
かたに棒を当てて、「わっしょい! わっしょい!」って言いながら子どもみこしをゆらします。
笛とかたいこの音に合わせて「わっしょい! わっしょい!」って言ってると、みんなで一つの大きなかたまりになったみたいな感じがして楽しかったです。
二回あった休けい時間では、ちゅう車場できゅうりの一本づけをもらいました。氷で冷やした麦茶もすごくおいしくて生き返ったみたいな気持ちがしました。
水上神社に帰ってくると、神主さんが「おつかれさま」と一人一人におかしの入った大きなふくろをくれました。
私がふくろを受け取ると、神主さんは「もしもこわい夢を見てもこの鈴があれば大じょう夫だからね」と言いました。
それと「夏休みの最後の日に神社へ来て、この鈴をもとあったところにもどすこと。いいかい?」と言いました。
よく分からないけど、私は「分かりました」と答えました。
でも、かわずちゃんがくれた鈴を岩の上に捨てるのはイヤなので、かわずちゃんがいいよって言ったらもどすことにします。
絵理ちゃんたちとは五時に浴衣で会う約束をして一度お別れしました。
おうちに帰ってお母さんに着付けをしてもらいました。
冬子お姉ちゃんもお祭りに行くのか聞いたら、部活動のお友達と夜の花火を見に行くそうです。
花火の時間はおそいから、私はお留守番です。私のお部屋からでも見えるから別にいいです。
水上神社に集まると、四人ともちがう模様の着物でした。
絵理ちゃんは赤地に黄色い梅、巴ちゃんは緑地に音ぷ、さっちゃんは白と赤のシマ模様にツバメ、私は黄地にススキとトンボです。
みんなで金魚すくいと、射的をして、水風船を買いました。
私は二ひきしかすくえなかったけど、さっちゃんは五ひきもすくいました。
だけど、さっちゃんのおうちでは飼えないというので、大きな池のある絵理ちゃんが巴ちゃんの二ひきも合わせて引き取ってくれました。
射的は私がスイッチを落としたけど、もらった箱の中に入っていたのはスイッチの形をした大きな消しゴムでした。すごくがっかりしたので、これからは二度と射的はやりません。
水風船はよくはずんで楽しかったけど、すぐに割れてしまって悲しかったです。
同じクラスの男子たちが型ぬきをしていて、絵理ちゃんはバカにしていたけど、私はちょっと興味がありました。
でも、やりたいとは言えなくて、こっそり割れた型だけもらってきました。
その後、クレープとりんごアメを買いました。
さっちゃんは他にチョコバナナと牛くしも食べていたけど、私はそんなに食べられないのですごいと思いました。
七時くらいに水上神社でみんなとお別れしました。
絵理ちゃんとさっちゃんは山手町に住んでいて、巴ちゃんは高岡町に住んでいるので、神社の近くに住んでいる私はいつもみんなを見送ります。
背中が小さくなって、曲がり角で見えなくなるのがいつもちょっとだけさびしいです。
「なっちゃん」
みんながいなくなると、どこからかかわずちゃんがやって来ました。
かわずちゃんはいつも私が一人になると出てくるので、きっとすごくはずかしがり屋さんなんだと思います。
「お祭り、楽しかったね」
「うん! かわずちゃんも行ったの?」
「ずっと見てたんだ。なっちゃんのこと」
「そうなんだ! 声かけてくれればよかったのに」
私がそう言うと、かわずちゃんはニコってして私の金魚を指さしました。
「その金魚、どうするの?」
「おうちの水そうに放すよ」
「私、金魚って大好きなの。もしなっちゃんがいいって言うなら私にちょうだい」
私はなやみました。かわずちゃんには鈴をもらっていたのでお願いには答えてあげたいけど、せっかく取れた金魚だったからです。
「おかしじゃダメ?」
「おかしはいらない。金魚がいい」
「うーん……じゃあ、いいよ」
迷ったけど、私は金魚をあげました。
なぜなら、私だったら金魚よりおかしの方がいいからです。
かわずちゃんはおかしより金魚なので、私よりも金魚のことを大事にしてくれそうだと思いました。
「ありがとう、なっちゃん」
「うん。かわいがってあげてね」
そう言うと、何がおかしかったのか分からないけど、かわずちゃんは声を出して笑いました。
初めて笑い声を聞いたけど、のどから「ゲコゲコゲコ」みたいな音がしていて、なんだかカエルの鳴き声みたいで変な感じでした。
かわずちゃんとお別れしておうちに帰ると、めずらしくお父さんがいました。
お父さんは会社のえらい人なので、私が寝る時間になっても帰ってこない日が多いです。
お父さんは私を見て「なっちゃんの浴衣、すごくカワイイぞ!」って大きな手で頭をなでてくれました。
ご飯の後はお父さんといっしょに社会のドリルをやって、すごくたくさん進みました。
お父さんは物知りですごいと思います。
明日はカブトムシを取りに行く予定だったけど、お母さんがお勉強をしなさいって言いました。
お勉強が早く終わったら行ってきていいのでがんばります。
おやすみなさい。
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