第45話 進まない捜索
ファビアンの第三騎士団は春を待たずに順に遠征に出発して行った。
父上には「第三騎士団を何度か訪れていたそうだが何をしている?」と聞かれたが、春に魔物が活発になるのだから事前に対策をと相談していたのだと伝えた。
ファビアンは孤児院出身の成り上がりだが、意外にも頭がキレる。この言い訳もファビアンが考えたものだ。
完全実力主義の第三騎士団は主に魔物討伐をしている。だからわざわざファビアンに相談に行った理由にもなる。
コンラートの調べで、例のハルを騎士学校の入試で貶めたカールとかいう男はアッサリと排除できた。元々ホラント侯爵家でも持て余していたようで、侯爵家から縁を切られ平民に落とされた上、横領した全額を借金として背負って辺境の炭鉱へ送られたそうだ。
そしてハルがいなくなって一ヶ月もすると、教会も勘付き始めた。クリスラー侯爵ももう黙っていることはできないと腹を括って、ハルがいなくなったことを公表した。
それからは酷かった。みんなが責任の擦り付け合いだ。ずっと黙っていたくせに今更、「騎士学校が不当に彼を不合格にしたせいだ。ずっとあの決定はおかしいと思っていた」などと言い出す奴や、「教会が彼が望まない奉仕をさせていたからだ」と言い出す奴、「賊に狙わせたと聞いた」とか、「夜会で余計なことを言った奴がいた」とか、ハルのいないところでどんどん話は広がっていってしまった。
「あの家が怪しい」とか「この家が彼を攫った」とか、根拠のない足の引っ張り合いまで起きた。
ファビアンからはいい知らせは届かないし、怪しいと密告があった家を調べても何も出てこなかった。
教会も独自に探し始めているようだ。
そんな混乱した状況の中、貴族たちは社交シーズンを終えてそれぞれの領地へ散っていった。
進展はない。ハルが仲良くしていた騎士学校に入ったクルトを訪ねたが、成人の儀で会ったのが最後だと言われた。エルマーを探したが、彼は冒険者になると家を出ており、所在が分からなかった。
庭園のチューリップが一つ二つと咲き始めると、兄上に第二子が誕生した。第二子も王子だ。これで王家も安泰だな。
「父上、兄上には二人目の男児が産まれた。もういい加減婚約解消に同意していただきたい」
「お前にも後継が必要だろ」
「何度も言っているが、俺に後継など不要だ。必要となる理由が無い。ローゼマリー嬢を結婚する気のない俺に縛り付けておく気か? まだ未成年のうちに解放してやるべきだ。一人の女性の人生を狂わす気か? 父上が認めないのなら強硬手段に出るまでだ。穏便に済ませたいのであればサインを。すでにローゼマリーのサインはある」
「お前に幸せになってもらいたいだけだ」
白々しい。どの口がそんなことを言うのか。互いに望んでいない結婚などして幸せになれるはずがない。もっと早く婚約を解消していれば、ハルと婚約していれば、ハルが出ていくことはなかったのではないかと何度も考えた。
こんな時だけ父親面するこの男を説得できなかった不甲斐ない自分も嫌だったし、明確な理由も告げずに許可を出さない目の前の男にも腹が立つ。そんな奴が幸せなど語るな!
「俺の幸せを邪魔しているのは父上だ!」
俺は机に拳をダンッと叩きつけ、そのまま部屋を退室した。
俺は翌日、兄上の部屋に向かった。
「どうしても俺はローゼマリーと婚約を解消したい。彼女もそれを望んでいる。俺はハル以外と結婚しない」
「王族の結婚は感情だけで決められるものではないよ」
「ではローゼが良くてハルがダメな理由を教えてくれ。兄上には子が二人いるんだから子が産めないという理由は無しだ」
「そう言われると難しいね。王家としては『聖人』を迎えた方が利がある。そこを除外して考えても、二人とも王妃教育を終えているし、正直どちらでも構わないよね。私もクララとはお互いに望んだ結婚だったわけだし、ここまで頑なに許可を出さない父上の考えは正直よく分からない」
昔から兄上と奥方は仲が良かった。互いに望んだ結婚だったからか。
「兄上、もしハルが国外に出ていて、この国に戻らないようなら、俺はこの国を出てハルを探しに行きたい。王族だからダメだと言うなら、俺は王族から籍を抜く」
「それはダメだ。とにかく私が父上に掛け合うから少し待て」
なぜこんなことに……
もう俺は限界だ。ハルがいないと生きていけない。何も上手くいかない。
そう思っていたが、翌日、兄上が一枚の書類を持って俺の部屋に来た。
「ほら、婚約解消が受理された知らせだ」
「ハルがいないのに、こんなもの受け取っても……」
「父上はお前に『幸せを邪魔しているのは父上だ』と言われたことで目が覚めたようだ。私が行った時にはもう書類にサインをして提出した後だった」
ずっと望んできた婚約解消だったのに、ハルがいないんじゃ意味がない。もう遅い。
「今更……もう、ハルはいないのに、もう遅い……」
俺は兄上が差し出した、婚約解消が受理された知らせの紙をグチャっと握りつぶした。
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