第34話 報告と気付き
「ーーってことがあったんだ」
僕は王都の屋敷に帰るとローゼの部屋に向かい、今日あったことを話した。
ファビアン様はローゼの『推し』だ。僕だけ勝手に会って仲良くなったなんて怒るかもしれないけど、黙っていて後でバレた時の方が怖い。
「とうとうファビアン様と……」
「お兄様、やりましたわね!」
ローゼの部屋には今、僕とローゼの他にアメリー嬢がいる。ローゼはアメリー嬢とかなり仲良しのようで、度々うちに招いている気がする。
だからまた来ているのか、という感想なんだけど、ファビアン様のことをアメリー嬢がいる時に話してもいいんだろうか?
ローゼがいいならいいんだろう。それにローゼは怒るどころか喜んでいる。なぜだ?
「それより単刀直入に聞きますわ、お兄様、エルヴィンのことどう思ってますの?」
「どうって? なんのこと?」
妹の婚約者としてどう思うか? そんなことを僕に聞いてどうするのか。ローゼと殿下の結婚は早ければローゼが成人した年に行われる。それまでアメリー嬢も含め何事もなければ。それは決定事項で、僕がどうこう言うことではない。
それなのに、ローゼは思ってもみなかったことを口にした。
「恋愛感情として好きかどうかよ」
「れ、恋愛!? な、何言ってるんだ? エルヴィン殿下はローゼの婚約者じゃないか」
「今の動揺って……」
アメリー嬢がローゼの方を見て呟いた。動揺したことは認める。だけど、急にそんなことを聞かれると思っていなかったから動揺しただけだ。ただ驚いただけ。違う、断じて違う。僕は殿下に恋なんて……
こんな時に限って合宿の屋上でのことが蘇って、胸がギュッと締め付けられた。気付きたくなかった。認めたくなかった。絶対に叶わないって分かっているのに、ローゼにだって申し訳なくて、僕は……
ローゼとアメリー嬢は顔を見合わせて、手を取り合ってうんうんと笑顔で頷き合っている。
「お兄様、私エルヴィンなんて全然好みじゃありませんの。前から言っていますが私はファビアン様推しなの。あ、だからってファビアン様とどうこうなりたいわけじゃないわ。眺めるのがいいのよ」
「分かる〜」
アメリー嬢はローゼの意見に賛同した。何が分かるんだろう? 僕には何も分からない。
ローゼが殿下のことを好みでないのは分かったが、さっきの恋愛の話も含め、そんなことを僕に告げてローゼは何をしたいんだろう?
「とにかく私はいずれ婚約解消するので、遠慮なくエルヴィンを奪っていってください」
「は? 婚約解消? それは断罪と婚約破棄をされるというゲームの展開の話ではなくて?」
「それはもういいの」
もういい? もう断罪も処刑もないということか? それなら喜ばしいことだ。
しまった、アメリー嬢がいる前で『ゲーム』の話などをしてしまった。恐る恐るアメリー嬢を見ると、満遍の笑みで謎の応援宣言をされた。
「私は陰からハルト様を応援させていただきます!」
「二人とも仲良しなのは分かったよ。仲良しならいいんだ」
ローゼは酷い虐めをする呪いにかかった様子もないし、ヒロインであるアメリー嬢とは仲がいいみたいだから、仲違いするはずの二人が仲良くなったことで最悪のシナリオは回避されたのかもしれない。
最近ローゼの笑顔が増えた。断罪予定まであと一年以上あるけど、妹の命が救えたならいいんだ。
「報告はそれだけだから、僕は部屋に戻るね」
「あ、お兄様、今度ファビアン様との訓練を見学させてくださいね」
「うん。分かったよ」
僕はローゼのお願いに了承の返事をすると、部屋を出て自分の部屋に戻った。
今日は色々ありすぎる一日だった。考えなければいけないことはたくさんあるけど、今は何も考えたくない。
妹の命が救われたならよかったけど、それなら予定通りローゼはエルヴィン殿下と結婚するんだろう。
自分の気持ちになど気付きたくなかった。いや、本当は気付いていた。いつからかは分からないけど、気付くと殿下を目で追っていた。
認めたくなかった。
ローゼの口ぶりからして、僕の気持ちに気付いているのかもしれない。でもローゼが言うほど簡単に婚約解消や好きな人を奪うなんてできないんだよ。だって彼は王子で、僕は三男とはいえ貴族だ。
やっぱりこんな想い、持ってはいけなかった。
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