第24話 合宿の始まり
長時間馬車に揺られるのは、学園に通うために王都に来たとき以来だ。一年と二年が合同で行う合宿は二年に一度の開催のため去年はなかった。
三年生のコンラート先輩は参加できないのかと思っていたら、生徒会として生徒と教師の間のような立場で参加することになった。これで攻略対象がみんな揃うというわけか。
合宿ではヒロインと攻略対象の仲が深まるイベントがあると聞いてローゼのことを心配していたのに、なぜかローゼはとても楽しそうに準備をしていた。ローゼの推しと言っていたファビアン様は参加しないし、そんなに楽しみなんだろうか? 友人と泊まりで出かけるのが楽しみなのかもしれない。
僕は油断できないと思っているのに大丈夫なんだろうか?
合宿は王都から馬車で半日ほどの場所にある騎士団の施設で行われる。この施設は騎士学校に入った時にも訓練で使うと聞いている。
僕たちの今回の合宿の目的は、魔法訓練の実践と生徒たちの交流だ。普段はクラスや学年が違う生徒とはあまり関わりがない。この合宿で親睦を深めようというわけだ。
学園はほとんどの生徒が貴族のため何かあってはいけないと、第一騎士団、第二騎士団からかなりの数の騎士が同行している。魔法訓練を行うことも理由の一つだろう。
前に参加したことのあるコンラート先輩から話は大体聞いている。魔法訓練は訓練場でも行うが、騎士付き添いの元で森でも行う。
他者に危険があるほど魔力のコントロールが悪い生徒や、合宿中に問題を起こした生徒は森での訓練には参加できない。
一年生も入学当時はコントロールの悪い生徒が多かったが、夏を過ぎて秋にもなればほとんどは問題なく使えるようになっている。
強制参加ではないので、森に行きたくない生徒は魔法訓練場で訓練することもできる。
森には弱いといえど魔物が出るのだから、特に女生徒や攻撃魔法が苦手な生徒は参加したくないと思う者も多い。
僕は当たり前だが参加希望だ。騎士が同行してくれるというのも大きい。騎士と一緒に森を歩けるなんて、とても楽しそうだ。こんな機会はなかなかないから、騎士には色々な話を聞いてみたい。
ちなみにコンラート先輩は合宿に参加した際、森でクマの魔物を倒したらしい。それってもう騎士の領域ですよね?
通常はクマなんて出ない。ウサギなど小動物の魔物やスライムが何種類か、動きの遅い虫の魔物も出ると聞いているけど、大型の魔物なんかはもっとずっと森の奥深くまで行かないと出ない。コンラート先輩は一体どこまで行ってそんなものを倒したんだろう?
馬車は六人から八人乗りでクラスごとに乗るんだけど、僕たちは生徒会ということで一つの馬車に押し込められた。
僕とエルヴィン殿下、コンラート先輩、マルセルくんの生徒四人と教師が二人だ。
ローゼは女子が一人なんて嫌だと言って、クラスの馬車に乗ってしまった。
「ハル、俺の隣に座れ」
「ハルトは私の隣です」
「俺は絶対にハルトさんの隣に座る」
そうなる予感はしていたんだけど、席を決めるのに三人が揉めて、結局仲裁に入った教師が僕を挟んで座ることになり、向かいにエルヴィン殿下とコンラート先輩とマルセルくんの三人が座っている。
向かいに座る三人の厳しい視線が教師に注がれているのがちょっと申し訳ない。
しかもこの馬車は騎士団で用意してくれた馬車ではなく、王家からエルヴィン殿下が持参した豪華な馬車だ。馬車持参ってそんなのあり?
他の貴族からも、「自分の家の馬車を出したい」と言われそうなものだが、そこは王族は特別ということで納得してもらったらしい。権力使ったんですね……
早朝に王都を出て、施設に到着したのはお昼を過ぎてしばらくした頃だった。
『今日はこのまま解散。敷地外に出る時は必ず騎士の誰かに付き添ってもらって下さい。夕食の時間には食堂に集まるように』
教師が声を張り上げていたが、半数くらいしか聞いていない気がする。
荷物を部屋に運びながらこの後どうするかを考える。食堂に行ってもいいし、魔法訓練場に行って練習してもいい。森の奥まで行かなければ騎士に付き添ってもらって森に行ってもいいし、勉強してもいいし何もせず色んな人と話をしていてもいい。
部屋割りはクラス関係なくランダムに六人ずつの部屋に分かれている。ここには貴族の権力は介入できない。
僕は指定されたBー3と書かれた部屋に入った。そこにはエルマーと他は知らない生徒が四人いた。誰も知っている人がいないかもしれないと少し不安だったけど、友人のエルマーが一緒でホッとした。人と話すのが苦手なわけではないけど、いきなり知らない人と同じ部屋で寝るというのは少し緊張するんだ。
「エルマー、同じ部屋でよかったよ」
「まあでも部屋なんて寝るだけだろ? ほとんどの時間は施設内や森で過ごすことになるって聞いてる」
エルマーには兄がいるから、合宿のことはお兄さんに聞いたんだろう。ちなみにお兄さんは領地にいて、もう既に結婚をして子どももいるそうだ。
うちの兄は次兄のカミル兄さんは騎士になったばかりだし、長兄のヘルマン兄さんはまだ結婚していない。ヘルマン兄さんはいつも忙しくしていたし、社交シーズンに王都に来ていた時も僕とローゼは王妃教育で忙しくてほとんど話す暇がなかった。実は婚約者とかいるんだろうか? まさか知らないうちに結婚しているってことはないよね? それはないか。
部屋に着替えなどの荷物を運ぶと、みんなで自己紹介だけをして解散することになった。
僕が『聖人』だということを知っているようで、距離が遠くすぐに他の四人は部屋を出ていってしまった。
人と仲良くなるって難しいんだな……
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