第23話 ヒロインと悪役令嬢の邂逅


>>>ローゼマリー視点


 ハルトお兄様は気付いていないようだけど、お兄様たちと一緒にいると、たまにちらっとヒロインであるアメリーの影が見えることがある。

 アメリーはハルトお兄様を見ている気がするの。

 先日カフェテリアでお茶をしていた時も木の影から見ているのを確認したわ。地味な見た目のために誰からもスルーされている気がするのだけど、それが作戦かもしれないわね。

 もしかしてヒロインはハルトムート攻略ルートに乗るつもりかしら?

 だとしても、残念だったわね。私がお兄様を罵倒する日なんてやってこないわ。


 私はお兄様から離れ、アメリーの後をつけてみることにした。

 校舎の影に隠れてまたお兄様のことをこっそり見ているわね。

「はあ〜可愛い。本当に可愛い」

 お兄様を見ながらブツブツと呟いている姿はどう見ても不審者だ。


「ちょっと貴女」

「ひゃいっ」

 後ろから話しかけるなんて驚かせてしまったかしら?

 飛び上がって変な声をあげたメアリーに、ちょっとだけ申し訳ない気持ちが湧いた。


「ローゼマリー・クリスラー!」

 驚愕の表情を浮かべてアメリーは私のフルネームを呼び捨てにしたわ。


「そうですが、貴女に呼び捨てを許可した記憶はありませんわ」

「ご、ごごご、ごめんなさい。虐めないで……」

 次に彼女は怯えたような目で後退り始めた。

 虐めないでって、私は誰も虐めたことなどないわ。

 ……ん?

 もしかして……

 だとしたら納得いく部分もある。納得できない部分の方が多いけど。


「私の質問に答えていただけますか?」

「は、はい」

「ファビアン様をご存知?」

「え、ええ。第三騎士団団長のファビアン様のことですよね? あ、その、噂で……お会いしたことはありませんが」

 やっぱり……

 ファビアン様はまだ騎士団長ではない。ゲームの裏攻略ルートに乗らないと出てこないキャラで、騎士や騎士を目指している方ならその存在を知っているかもしれないけど、まだ知名度は低い。

 私は彼女にカマをかけたのだ。


「貴女、転生者ね」

「ど、どどど、どうして?」

 彼女はあり得ないほどに動揺して顔色もどんどん青くなっていく。

「私も転生者だからよ。ちなみにファビアン様はまだ知名度も低くて噂になんてなっていないし、まだ団長じゃないわ」

 彼女に種明かしをしてあげた。


「そ、そんな……それで私をどうするのですか?」

「何もしないわ。でも、攻略対象の出会イベントにも出てこないし、髪型まで変えて何を考えているのかは教えてほしいの。私のお兄様を監視している理由もね」

 彼女は腰が抜けたみたいに、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。

「ごめんなさい……」


 そんな泣きそうな顔はしないでほしいの。まるで私が虐めているみたいじゃない。え? もしかしてそうなの?

「虐めたりしないわ。話を聞きたいだけ。それに同じ転生者として、できれば仲良くしてほしいと思っているわ」


 彼女はへたり込んだまま話し始めた。彼女の推しはハルトムートで、でもヒロインとハルトムートが結ばれるのは望んでいないらしい。

「えっと、じゃあお兄様のことは見ていただけ? 貴女はどうしたいの?」

「ごめんなさい。ローゼマリー様の婚約を台無しにしようと画策していました」

 彼女は懺悔を始めた。

 エルヴィンの出会いイベントがやけに早いと思ったら、仕掛けたのはまさかのヒロインであるアメリー本人だった。

 火魔法を使っている生徒の魔力に干渉して魔法を暴走させ、爆発までさせたそうだ。


「貴女、危険なことするのね」

「ごめんしない。もしハルト様に対処が無理なら私が治癒すればいいと思ったんです」

 彼女がなぜそんなことをしたのかというと、彼女は二次創作としてハルトムートがヒロイン設定のボーイズラブ小説を書いていたそうだ。そこでハルトムートとエルヴィンが結ばれるのを夢見た。

 そして彼女が書いた小説の通りハルトムートに聖魔法の適正が発現したため、いけるのではないかと考えて強行に出た。

 結果的に私とエルヴィンの婚約を台無しにすることが目的だから、私に懺悔したと……

 何それ、最高に面白そうな物語じゃない!


「別にいいわよ。私、エルヴィンが好きなわけじゃないもの。私の推しはファビアン様よ」

「そうなのですか?」

「貴女も見ていて分かるでしょう? エルヴィンが好きなのはお兄様だと思うの。お兄様は気付いていないけれど、あからさまよね」

「そう、ですね」

「だから何れ婚約は白紙に戻るわ。それより!」


 語りたかった。日本のことを。そしてアメリーが前世で書いたという二次創作の小説のことも知りたかった。


「もうすぐね合宿! 合宿と言えば……」

「「胸キュンイベント!!」」

「「だよね〜」」


 結果として私たちは意気投合して、私はアメリーという唯一無二の友達を得たのだ。

 ハルトお兄様、私はアメリーのハルト×エルヴィン計画に乗りますわ。

 だってその方が断然面白そうですもの。

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