第22話 ローゼの変化


「ローゼ、最近生徒会に参加していないのはなぜ?」

 最近ローゼは生徒会室に顔を出す回数がかなり少ない。そのせいで僕は生徒会室では不機嫌なエルヴィン殿下と、僕を好きだと揶揄ってくるコンラート先輩とマルセルくんの三人に挟まれて気まずい思いをしている。この窮地を救えるのはローゼしかいないと思っているんだ。


「アメリーを調べるためですわ」

「そっか。それなら仕方ないね」

 命より重要なことなどない。それは分かっている。ただ、生徒会室に行くと居心地が悪くてローゼに一緒にいてもらいたいと思ったんだ。


「ハル、俺以外に髪を触らせるな」

 今日はまだコンラート先輩もマルセルくんも来ていないんだなと思って、エルヴィン殿下と共に生徒会室の中に入ると、殿下はまた勝手なことを言い出した。僕は殿下にも髪を触っていいと許可した覚えはないんだけど。


「では僕の髪は誰も触らせないことにします。そこには殿下も含めます」

「は? ハルは俺に髪を触られるのが嫌だったのか?」

「そんなことはないですけど……」

 殿下が詰め寄ってくる。僕はちょっと怖くなって一歩ずつ後退していったんだけど、とうとう壁まで追い込まれてしまい、もう後ろに下がることはできなくなった。


「なあ、そんなこと言うなよ」

 さっきまで目を吊り上げていたくせに、眉尻を下げて青い瞳は不安そうに揺れている。なんでそんな顔するんですか? 追い込まれているのは僕の方なのに、まるで僕が殿下のことを虐めているみたいじゃないですか。

 僕はなんて答えればいい? 殿下にそんな顔させたいわけじゃないのに。


「いい加減俺の気持ちに気付けよ。今は言えないんだ。俺だって伝えられるなら伝えたい」

「気持ち、ですか?」

 言えない気持ち? 僕はなんのことか全然分からなかった。


 その後すぐにコンラート先輩が生徒会室にきて、僕は殿下から解放された。なんのことなのか気になったけど、詳しくは聞けなかった。言えないって言っていたし、聞いたところで答えてもらえる可能性は低そうだけど、せめてヒントだけでもほしかったな。


「ーーってことがあったんだよね。ローゼは何か心当たりある?」

「ないわけじゃないけですけど、ストーリー外のことですし確証がないことは言えませんわ」

「そっか。それでアメリー嬢のことはどうなったの? 生徒会にはまだ入らないの?」

 僕の周りも困ったことは多いけど、一番重要なのはヒロインの動向だ。

 僕が問うと、ローゼは澄ました顔で「まだ調査中ですわ」とだけしか答えてくれなかった。


「それよりお兄様、攻略対象との仲を深める合宿イベントがもうそろそろ訪れますわ」

「そうなのか。出会いの次はなんだ? そういえば僕の出会ルートは無いってことでいいの?」


 僕のヒロインとの出会いイベントは回避されたと思っていいとのことだった。

 次のイベントは一年と二年の合同合宿で起こるらしい。

 何が起こるか分からないのと、ヒロインを泳がせてみたいと言ってローゼは内容を教えてくれなかった。

 今まではかなり詳しく教えてくれていたのになぜだ?

 出会いイベントを全て潰したことで何か予期せぬ変化が起きているのだとしたら、それは仕方ないことなのかもしれない。ローゼがいいならいいんだ。


「そういえばお兄様のルートの合宿イベントですが、例によって私がお兄様を罵倒し、お兄様は部屋にもいづらくなって一人で夜に屋上に行きますの。そこで星を眺めているところにヒロインが来ますわ。とっても綺麗な星空で、少し寒いので二人は寄り添って密着して仲を深めますの」

「そっか。僕のイベントが発生しないことは決定だね」

 それなら僕が夜に屋上に行かなければいいだけだ。

 

 ローゼはいつものローゼに見える。誰かを虐めたりする呪いにはかかっていない。

 だけど……何か隠しているような気がしてならない。イベントの詳細を話してくれないことも、アメリー嬢の動向も、本当は知っていて僕に伝えないでいるのではないかと思った。

 でも分からない。なぜそんなことをする必要があるのか。それとも僕がただ少し疑心暗鬼になっているだけなのか?


「私は引き続きアメリーのことを調べますわ」

「そうだね。魔法訓練場で目が合った時もおかしな態度だったし、何かを隠しているのか、それとも何か企んでいるのかもしれない。気をつけて」

 妹一人に任せて危険はないのかと心配だったけど、どうしても一人でやりたいらしい。

 ローゼを疑うなんてどうかしてる。僕は小さく首を振って妹のことを見守ることを決めた。

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