第18話 ヒロイン発見
今この生徒会室には僕とローゼの二人だけがいる。
コンラート先輩は授業が長引いており、エルヴィン殿下は王宮での用事で午前で早退している。マルセルくんは学園内にはいるはずだけど生徒会室には来ていない。
「お兄様、とうとう見つけましたわ。ヒロインであるアメリー・クラッセンを」
「そうなのか、ずいぶん探し出すのに時間がかかったんだね」
新年に入学してからもう春を超えて夏に差し掛かろうとしており、半年近くも月日が経っていた。
ヒロインはどの攻略対象とも接触した形跡がなく、本来であれば入学早々に生徒会に入るはずがその兆候もない。今のところ僕の生活には大きな変化はなく、僕に届く釣書は全て父上が断っており、教会の依頼はたまに受けることがあるがそれだけだ。
王家もエルヴィン殿下が抑えているのか、一度だけ聖人として陛下に挨拶をしただで、それ以上は何も言ってこない。そういえば第一王子ローラント殿下の奥方様が懐妊したとの噂があるが、まだ正式な発表は行われていない。
マルセルくんを日常的に褒めるということは続けているが、困ったことにエルヴィン殿下やコンラート先輩まで「俺のことも褒めろ」「私のことも褒めてください」と褒めることを要求してくるようになった。それは誤算だったが、今のところマルセルくんはヒロインに傾倒したという話が出ていないから、この提案は間違いではなかったということだ。
「それでアメリー嬢の様子は?」
僕はローゼに先を促した。妹を処刑に追い込むきっかけになる存在なのだから、その存在は無視できるものではない。
「それが、髪型が違っていたのよ。ロングヘアではなく肩に付く辺りで切られて後ろで一つに結んでいたの。しかもゲーム内ではかけていなかったメガネをかけていたのよ。目立たないようわざと地味な見た目にしているみたいに。だから見つけられなかったのよ。ちなみにクラスはBクラスよ」
容姿が想像と異なるため見つけられなかったのか。入学式では後ろ姿から何人か当たりをつけていたんだけど、その生徒たちも違ったのだろう。
「アメリー嬢は聖魔法を使うんだよね? 教会は聖女認定したら騒がれると思うんだけど」
「それが学園内では聖魔法を一切使っていないみたいで、聖女認定もされていないのよ」
それは不思議だ。軽い治癒程度なら日常的に使いそうだし、聖女に認定されるくらいの力を持っているのに使っていないのはおかしい。僕が聖人認定された時に騒がれたのを見ていて、注目されたくないと思ったんだろうか?
「見に行きたい。僕も姿は認識しておいた方がいいと思うんだ。知らずに近付かれて何かあってはいけない」
「そうね。じゃあさっそく今から行きましょう」
こうして僕とローゼは生徒会室を後にして歩き出した。
「Bクラスは今日の最終授業が魔法訓練だからみんな残っていると思うわ」
そう話すローゼの横に並んで魔法訓練場へ向かう。ローゼの表情は硬く足取りは少し緊張した様子だった。
僕も少し緊張している。一目見ただけで何か運命を感じてしまったらと思うと、少し怖いんだ。
訓練場の中を覗くとBクラスの生徒は皆残っているようで、各自が魔法耐性のある的に向かって練習していた。
「あの子よ、あの奥から二番目の的のところにいる地味な子」
「確かに地味だな」
そう呟きながら視線を送ると、アメリー嬢がちょうどこちらを向いて目が合った。ハッとした様子で慌てて目を逸らされ、彼女は体ごと向こうを向いてしまった。
見た瞬間に何か感じるものはなかったが、まるで僕のことを意識しているような行動に嫌な予感がした。
「ローゼ、見たか?」
「ええ。確実に何かありますわね。私がお兄様を罵倒していたらすぐにでも近寄ってきそうですわ」
「それは不自然だよ。今のところ僕たちは仲のいい兄妹ってことで通っている。いきなり罵倒を始めたら今後の行動も考え直す必要が出てくる」
僕は聖人認定されている上に、もう一属性ではないから罵倒される理由がない。それどころか僕を罵倒なんてしたら、エルヴィン殿下の婚約者であるローゼが非難される可能性がある。危ない橋は渡らないでほしいんだ。
何があるのか気になるところではあるけど、直接行動は起こさず観察に止めることにした。
観察や偵察はそれなりに自信がある。ローゼが言う『ハルトムートの設定』とやらでは、僕の性格とは異なっているけど、ローゼ断罪のため悪事の証拠を集め出したのはハルトムートだと聞いている。
その諜報能力についてはローゼが言う通りだった。そんな訓練を受けたわけでもないのに、いつの間にかそんなことが得意になっていた。
「ハルト、こんなところにいたんですね。生徒会室にいなかったから探しましたよ」
後ろからコンラート先輩に話しかけられ、僕とローゼは生徒会室に戻ることにした。
「探していたって、僕に何か用事ですか?」
「会いたかっただけですよ」
コンラート先輩はとてもいい笑顔でそう告げてきたけど、なぜそんなことを言うのかが分からない。コンラート先輩は度々「会いたかった」と言うんだけど、その言葉の意味は未だに分からない。
揶揄っているのとも違う気がしている。
生徒会室に着いてもコンラート先輩は僕が座るソファーの隣に座って、先日借りた地層の本の話をするだけだった。
なるほど、地層の話がしたかったのか。なかなか地層の話など楽しいと言ってくれる人はいないから僕も気持ちは分かる。先輩、同士ですね。
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