第11話 体調の悪化


 先日ローゼも新入生のクラス分け試験を受けた。本人は『そこそこ』と言っていたけど、新入生代表挨拶はローゼで決まりだと思っている。なぜなら僕の妹は優秀だからだ。


「それでヒロインとやらはいたの?」

「なぜか見つけられませんでしたわ」

「そっか。皆が試験に集中しているのだから、うろうろ人を探し回るわけにはいかないし仕方がない」

 ローゼが見つけられないというのは気になったけど、あと十日もすれば入学するのだし、生徒会に入ると聞いているからすぐに会うことになるだろう。


 その後は忙しさと未だ続く体調不良によりそれどころではなくなったのだけど、卒業パーティーの準備が行われている時にある噂を耳にした。


『新入生に聖魔法の使い手がいるらしい』


 いよいよかと思った。聖魔法の使い手がいるという噂の他にも、聖女がいるとも言われていたが、どの噂でもそれが誰なのかは明かされていなかった。中には死人を生きからせたなんて噂もあったけどそれは嘘だろう。


 卒業パーティーで三年生を無事送り出した翌日、パーティーの片付けを終えてフラフラと廊下を歩いていた僕はとうとう倒れてしまった。



「ハルトお兄様」

「あれ? 僕、なんで家にいるんだっけ?」

 目が覚めると、ベットの傍にはローゼと侍女がついていた。ここはクリスラー家の僕の部屋だ。

 曖昧な記憶を遡って考えてみるけど、家に帰ってきた記憶はない。ゆっくりと上体を起こしベッドに腰掛けると、侍女が部屋を出ていった。


「お兄様は学園で倒れて、そのまま五日も眠っていたのですわ。もしかしてお兄様も前世の記憶が蘇っていたり……」

「いや、それはない。とても体調が悪かったのは覚えているけど、そうか、僕は五日も……」

「体調はどうなのです? 年も明けて二日後には学園が始まりますが、無理はなさらないでくださいね」

「うん。体調はそれほど悪くないかな」

 体調と言われ体に意識を向けてみると、卒業パーティーの頃に比べたらかなりマシになったように思える。やはり疲れていたのかもしれない。

 ずっと眠っていたから疲れが取れたようだ。学園が始まる頃には治っているだろうと考え、このまま学園が始まるまで休むことにした。


「僕がヒロインと会うのは予定ではいつだっけ?」

「エルヴィンとの出会いイベントで彼女が生徒会に入ることになって、生徒会室に連れていかれた時なので、一ヶ月後くらいだと思います」

「そっか。じゃあ初めはエルヴィン殿下の出会いイベントに注意しないといけないってことか」

「ええ、いよいよ物語が始まりますわ。私の断罪へのカウントダウンも……」

 ローゼはとても深刻そうな表情をしている。処刑となる未来が見えているのだから仕方ないが、僕は全力で妹を救う気でいる。


「学園への入学は避けられないけど、できるだけイベントは回避しよう。僕がいるから大丈夫だよ。ローゼもヒロインを見かけたからといって簡単に近づいてはいけない。すれ違っただけで虐めの呪いにかかるかもしれない」

「分かりました。不安ですが、お兄様が味方になってくれるのはとても心強いです」

 少なくとも僕のルートは回避されている。出会いイベントは起こりようもないし、性格も違うのだから。

 他の攻略対象は分からない。入学したらヒロインの情報を集め、まず最初に起きるエルヴィン殿下の出会いイベントとやらを阻止するためにもしばらく殿下と行動を共しようと考えた。


「うっ……」

 急に訪れた眩暈と吐き気に胸元に手を当てて俯いた。

「お兄様!」

「大丈夫。ずっと寝ていたのにいきなり起き上がって色々考えたせいだ。僕は少し休ませてもらうよ」

「分かりました。もうすぐ侍女が食事を運んできますから、食事をしたらゆっくり休んでください。私は部屋に戻ります」

「うん。ありがとう」


 ローゼが部屋を出て間もなく、侍女がスープとパンを運んできた。

 食欲は無かったけど、五日間も寝ていたのだから何も食べないのは体に悪い。スープをゆっくりと喉の奥に流し込み、パンを小さくちぎってスープに浸し柔らかくして口に運んだ。


 この体調の悪さには困ったものだ。医者にも見てもらったし、聖魔法の使い手にも見せたけど原因は分からなかった。

王都にいる聖魔法の使い手は、それほどレベルの高い治癒は使えないらしい。治癒は怪我などに効果があるもので、病気全てを治すことはできないから、レベルが高くても僕の体調を治すことはできないかもしれない。

 学園の授業は問題ないが、生徒会の活動もしているからそれの負担が大きいのかもしれない。王妃教育は通常よりも随分進みが早いそうで、今年からは週に三日に減らされる。

 きっと大丈夫だと自分に言い聞かせても、原因不明ということで不安は拭えなかった。

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