第10話 休暇明けと僕の立ち位置


 十日間の夏季休暇が終わって学園生活が始まった。

 やはりというべきか、学園内は急遽開催された第二王子の婚約披露パーティーの話題で持ちきりだった。


 僕の元にも何人か普段話したことのない生徒が訪れて、ローゼの婚約に対して祝福の言葉をくれた。

 僕は本人ではなく兄だけど、妹が祝福されるということはなかなか嬉しいことだと思った。


 秋を過ぎて冬が近づくと、僕は体調を崩すようになった。

 王妃教育は相変わらず続いており、学園の授業が終わってからと休日は朝から夕方までみっちりだ。疲れが出たのかもしれない


「ローゼ、新年から学園の授業が始まると、王妃教育が結構しんどくなるよ」

「ハルトお兄様、かなり顔色が悪いですが大丈夫なのです?」

「うん、ちょっと疲れが出ただけ。それより、いよいよストーリーが始まるんだよね? 大丈夫?」

「お兄様がいるので大丈夫です」


 頼ってもらえるのは嬉しいけど、学年が違うため四六時中ローゼのことを守ってやることはできない。それと僕には一つ聞いてみたいことがあった。


「ローゼ、知っていたら教えてほしいんだけど、乙女ゲームの中で僕の立場はどうなっているの? 悪役令嬢となるローゼの兄というだけ?」

「……話しておかなければなりませんね。驚かずに聞いてもらいたいのです」

 僕としては悪い夢が現実になっていくこと以上に驚くことなどない。だけどこの体調不良が重い病気で、ストーリーが始まる前に死んでしまうんだとしたらショックを受けるかもしれない。


 しかしローゼの話を聞いて違う意味で驚くことになった。

 ローゼの話はこうだ。

 僕は貴族であるにもかかわらず、魔法適性が一属性しかないことに劣等感を抱いていた。クリスラー侯爵家は代々、風魔法の力が強く出ると言われている。それなのに十歳までに風は発現しなかった。まだ風だけであったらよかったんだけど、僕の属性は水だけ。そのことでローゼにバカにされ捻くれていった。

 劣等感を隠し可愛い外見を利用して色々な人に擦り寄っては不意に牙を剥いたりする性格だったそうだ。


 僕はその話を聞いて混乱した。ローゼにバカにされた覚えはないし、性格も違うように思う。一属性であることを気にしていないと言えば嘘になるけど、何をどうやっても覆ることはないんだから諦める他ないと勉学に励んでいるところだ。それで補えるかどうかは分からないけど……

 その可愛い外見を利用してという部分も気になる。僕としては一属性であることよりも、外見が幼く見えることに劣等感を感じている。もっと背が高くキリッとした精悍な顔だったらと何度思ったことか。


 そして僕もヒロインが攻略する対象の一人なのだとか。

 劣等感を抱く僕の陰の努力を認めてくれたため、ヒロインのことを好きになり、ヒロインのためにローゼの悪事の証拠集めをするのが乙女ゲームの中で僕の役割だった。


「ローゼ、僕のルートはもう断たれてるってことでいいんだよね? 僕の性格も違うし、ローゼにバカにされているところをヒロインが庇うことで出会うって言ってたけど、それがまず起きない」

「そうですわね。出会いイベントは起きませんが、いずれ出会うことにはなると思います。その時にどうなるかは私にも分かりません」


 僕は一応は自分の立場を理解した。まさか僕自身がローゼを死に追いやることに協力していたなんて……

 慎重に今後のことを考えていかなければならない。ヒロインという人物と会った時に惹かれてしまうということがあるのだとしたら……

 もしや太古の昔に魔女と呼ばれた人物が使ったとされる『魅了』という力を持っているのではないだろうか。もしくは聖女になると聞いているし、聖女であれば万人に愛される魅力が元々備わっているのかもしれない。会うことがあれば注意しなければならない。

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