第8話 王妃教育
翌日から本当に王妃教育が始まった。
第一王子ローラント殿下と春に結婚したクララ様は、結婚前に王妃教育を終えている。そのため王妃教育を受けるのは僕とローゼの二人だけだ。
「二人とも来たか」
王妃教育の部屋には、なぜか先生の他にニヤリと口元に笑みを浮かべたエルヴィン殿下がいた。
しかしそれ以降エルヴィン殿下は言葉を発さず、勉強を進めていく僕とローゼをただジッと眺めていた。
もしかして、総合得点で首席を取られたことを恨んで嫌がらせをしているのでは?
そう考えたら納得できた。
王妃教育など男である僕には受ける機会などない。それならとことん勉強してやろうじゃないかと俄然やる気になった。僕はそんな嫌がらせになんて負けないぞ。
お昼になると休憩がある。
「二人とも疲れたか? 来週婚約披露パーティーがあるから覚えておいてくれ」
「来週ですか? そんな短期間でドレスなど用意できませんわ」
エルヴィン殿下の言葉にローゼは焦りの表情を向けている。僕には関係ないことだから二人の様子を見守った。
どんな衣装を着てもいいのなら手持ちのドレスでも構わないが、婚約となると主役二人の衣装を合わせなければならない。僕にはエルヴィン殿下がなぜそんなに婚約披露を急ぐのかが分からなかった。
「問題ない。ローゼ嬢のドレスもハルの衣装も用意してある」
僕は殿下が発した言葉に耳を疑った。『ハルの衣装』そう言ったか?
「はい? なぜ僕の衣装まで用意されているんですか? 僕は婚約者の兄というだけで社交界デビューもしていない未成年ですよ」
王子の婚約ということでパーティーには国中の貴族が集まるんだろう。しかしそこに未成年は加わらない。はずだ……
「問題ない。俺が用意した衣装を着ろ」
何が問題ないのかが全然分からない。問題は大有りだ。王子に逆らえない僕は参加は決定事項なのだと受け入れるしかないのか……
ローゼも何も言ってくれないし、なんなら「お兄様が一緒なら安心ですわ」なんて表情を浮かべている。この表情、どこかで見たぞ。そうだ、王妃教育に僕も参加するようにと父上に言われた時だ。なぜこうなった? これも嫌がらせなのか?
年末にある来年のクラスを決める試験では、適度に力を抜いて殿下を抜かさないようにしようと決めた。
エルヴィン殿下が用意した衣装を着るのは構わないけど、なぜ殿下が僕の衣装など用意したのかが分からない。
タイやチーフをプレゼントされるのなら分かるが、いくら結婚すれば義兄になるとしても、婿が義兄の衣装を用意するなど聞いたことがない。本当に何を考えているんだ? ものすごく奇抜な衣装で、僕を笑いものにしようとしてるんだろうか? しかし、自分の婚約披露の場でそんなことをするとも思えない。殿下の考えが僕にはさっぱり分からない……
僕がいくら反対しようとも、エルヴィン殿下が用意した衣装を着ることは決定された。納得はできないが僕は受け入れるしかなかった。
これも想定内のことなのかとローゼに視線を向けたのだけど、ローゼは目を伏せて首を横に振った。これは想定外なのか……
「明日はハルトムート様の授業が終わってから王城に来ていただき、夏季休暇中は朝から来てください」
「分かりました」
屋敷に帰ると、疲れた体を押してローゼを連れて部屋に戻った。
「ローゼ、これはどういう状況か分かる?」
「全然分かりませんわ。私が知っているのは私とヒロインが学園に入学する時からですもの」
前にもそう言っていた気がする。ということは、あと四ヶ月ほどの間はローゼにも何があるか予測できないということだ。
そういえば、ローゼは悪役令嬢になると言っていたが、その悪役令嬢の兄である僕は、乙女ゲームの中ではどのような存在なのだろう?
存在しないということはないと思うんだけど、触れられていないということもあるんだろうか?
もう今日は頭を使いすぎた。考えること自体が億劫で、その疑問は今度疲れていない時に聞くことにしよう。
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