第2話 王都へ
その後もローゼは度々僕の部屋に来ては、乙女ゲームのストーリーで思い出したことがあると話をしていった。
僕はローゼの悪い夢にとことん付き合うもりではいたけど、それがあまりにも長い間続くため、少しうんざりした気持ちになっていた。
というのも、話はするのだけど特にこれといって何か行動を起こすわけではないからだ。きっと新しいシナリオを考えついたということだろう。
どうやったらローゼをこの悪い夢のごっこ遊びから解放してあげられるのだろうか。そればかり考える日々に少し疲れていた。
もうすぐ十三歳。僕は学園に通うために領地を出て、ローゼと離れ王都に行くことを楽しみとさえ思っていた。
「え? ローゼも王都に行くの?」
「ええ、お父様が私も来年は学園に入るのだから王都の屋敷で暮らしなさいって」
そう言われると納得できる気もする。僕たちの仲がいいのを知っている父上が、ローゼを一人にするのは可哀想だと思ったのかもしれない。ヘルマン兄さんは領地にいるんだけど、領地のことで忙しくしていてローゼの相手をしている暇はない。
父上も母上も王都と領地を行ったり来たりで忙しそうだ。カミル兄さんは今は学園に通っているけど、もうすぐ卒業して騎士学校に入る。
せっかくローゼと少し距離を置くことができると思ったのに、これからも悪い夢の話を聞かされ続けるのかと思うと、なんともいえない気持ちになった。
決してローゼを疎ましく思っているわけではない。悪い夢の話をしていない時は一緒にいて楽しいし、成長する度に可愛いくなっていくローゼを自慢に思っているのは本当だ。
そしてローゼはとても聡明だ。兄の僕が知らないような王国のことを知っていたり、文字や計算や歴史についてもよく知っている。
年末、僕とローゼは共に馬車に揺られ、王都へ向かうことになった。
「ハルトお兄様、敵情視察に行きましょう」
「敵状視察? どこに行くの?」
「もうすぐカミルお兄様が学園を卒業するでしょう? そして騎士学校に入るわ。騎士団の訓練を見に行きたいの」
「分かった。王都に着いたらカミル兄さんに聞いてみよう」
敵状視察……
確か第一騎士団団長の子息が攻略対象の一人と言っていた気がする。だけどその子息はローゼと同い年だ。騎士団に行ってもいるわけがないと思うんだけど……
それともローゼも騎士に憧れていて、騎士の格好いい姿を見たいんだろうか?
僕は騎士を目指しているから騎士団の訓練を見に行けることはとても楽しみだけど、女の子が見て楽しいのかは分からない。
「カミル兄さん!」
王都の屋敷に到着し、荷物を馬車から運ぶのを手伝っていると、カミル兄さんが歩いてきた。久しぶりの再会だ。兄さんは髪を短く刈り上げており、頭頂部の毛をツンツンと立てていた。前に会った時より背も高くなり体格もがっしりとしたように見える。
「よう、ハルト。元気だったか? ローゼは疲れたとか言って部屋に篭ったぞ」
「ですね。馬車に長時間乗ったせいでしょう。ローゼと話をしていたんですが、騎士団の訓練を見学できないでしょうか?」
さっそくローゼと馬車の中で話したことを兄さんに告げた。
ワクワクしていた。領地でも侯爵家の私兵の訓練を見学したことはあるし、私兵の訓練に混ぜてもらったこともあるけど、やはり国営騎士団は格が違うというか、やっぱり国営騎士団は男の憧れだ。
「いいぞ。俺も宿舎に入る前に見ておきたいと思っていたんだ」
「いつ行きます? 今からですか? 明日ですか?」
前のめりになっていつ行くかを聞いたら、兄さんに温かい目で見られてちょっと恥ずかしかった。
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