27話 食事①

 ーー食事時間開始、10分前


 スイートルームの前からノックする音が聞こえ、リオは扉を開けた。


「迎えに来たぞ、3人共」

「あ、ユラ団長」

「ユラさん」

「さあ行きましょうか、私お腹ぺこぺこ〜」


 ユラは「早くしろ」。と言うように、3人にそんな視線を移す。3人は部屋をそのまま出て、ユラの方へと歩いていった。


「……行くか」

「そうね」


 ユラは先頭に立ち、3人を食堂へと誘導した。


「なあ、ユラ団長」

「ん?」

「なんで団長が俺らを食堂に誘導すんだ? タルトのヤツでいいじゃねぇか、何もツバキさんのNo.2が俺らなんかを……」

「悪いか?」

「いやっ、悪くは、ないが……」

「お前らはツバキのお気に入りだ、あいつのお気に入りなら、俺もお前らを気にかける必要もあるだろう?」

「……その、お気に入りっつーの、何なんだ?」

「たまにあるんだ。「強い」とか、「弱い」とかそんなの関係無しに、目がキラキラと輝いていたから。とかそんな意味のわからない理由で、勝手に「お気に入り」と称して、勝手に仲間に引き入れようとする」

「あー、云うなれば、お人好し。ってヤツだな」

「まあ、そうなるな。……んで、ここが食堂な」


 大部屋を指差し、リオたちを先に中へと入れると、最後にユラは室内へと入っていった。


「あっユラさん!」

「わあ! ユラさんだー!!」

「今日はユラさんもこっちで食べるんですね! 嬉しいなあ〜!」

「あれっ? ユラさんユラさんっこの人たちは?」


 ユラが室内へと入ると、室中にいたギルドメンバーたちがわらわらとユラの方へと近づいて行った。


「あぁ、こいつらは自警団の新入りだ」

「? 新入りってことは、ユラさんの下についてる感じですか?」

「いや、No.2のタルトの下に付いてもらっている」

「タルトくんの下? わあ……ほんとに? スゴイなあタルトくん」

「お前らもちゃんと励めよ、頑張れば実力は付いてくる」

「!! ありがとうございます、ユラさん!」


「あれ、ユラさんじゃないですか」

「ん?」


 タルトは4人の後ろから声を掛けた。


「お、タルトか」

「タルトさんスゴイですね! ユラさんから聞きましたよ!」

「何を?」

「タルトさんが新入りを教育係として付けているそうじゃないですか! スゴく羨ましいです!」

「ははっそうでもないさ、オレは別に、大したことはしていないよ、そうですよね、ユラさん!」

「謙遜すんなよ、タルト。お前は俺が認めている唯一の亜人なんだから」


 そう言うとユラはタルトの頭をぽんぽんと軽く叩くと、頬を赤らめ、もごもごと何か言葉を発した。


「まさか、まさ、か、ユラさんが、オレの、頭を……! 嬉しいなあ……嬉しいなあ……」


「ほんとにユラさんのことを尊敬しているのね、タルトさんは」

「だな。こいつらの言う通り、ユラ団長とタルトの関係性は羨ましいと思うし、滅茶苦茶微笑ましいぜ」

「ははっ、そうだな」

「ユラさんっユラさんっ! 今日の献立はユラさんの大好物の、ベリートマトのサラダと三日月星のプリンですよ!」

「うわっなんか聞いたことのないメニューだ」

「ベリートマトって、普通のトマト、だよな?」

「三日月星のプリンなんて聞いたことないわよ」


 3人がメニュー内容に困惑していると、タルトがメニューの説明をした。


「ベリートマトって言うのは、この国、レルファンシエルの特産物なんだ。ベリートマトが生息しているのはカルガル森林と、ファンクション神殿前の森の2つだけ。滅多に取れない代物なんだけど、街の人たちが「お世話になったお礼に」ってことで、ベリートマトが取れた際は街の人たちが持ってきてくれるんだ。とっても甘くて美味しいんだよ?」


 にこにことした表情のままそう言うタルト。リオは「んじゃあ三日月星のプリンはなんなんだよ」とそのまま続けた。


「三日月星のプリンっていうのは、名前の通り、三日月の形をしたプリンだよ? そのプリンの作り方がかなり特殊でね? 何でも、食べられる星の欠片の粉末を使ってるとかどうとか……」


「食べられる、星の、欠片!?」

「うん! この三日月星のプリンは一口食べるとほっぺたが落ちそうになるくらい、とっっても! 美味しいんだ!」


 キーンコーン キーンコーン


「あ、チャイム音だ」


 頭上からチャイム音が聞こえ、さっきまで立っていた面々も全員席につく。ユラはいつの間にかリオたちの側から離れており、全員の目の前に立っていた。


「リオ、ジニア、エリカ、こっちに来い」

「「はーい」」


 3人はユラの方へと向かって歩いていく。ざわざわと周りはざわめき始めた。


「あれ、吸血鬼じゃね?」

「わっマジだ」

「え、ほんとに?」

「それは知らなかった、あの人たち、吸血鬼だったんだ……!」


「今日付けでこのギルドに入ってもらった3人だ、自己紹介」

「リオ、よろしく」

「ジニアだ」

「私はエリカ、よろしくね」


「ユラさん、そこの吸血鬼の所属はどこなんですか?」

「自警団だ、既にタルトとは顔合わせは済んでいる。タルトにこいつら3人の全てを任せている」


 またざわざわと周りはざわめき始める。


「すっげえ〜タルト! お前、すげえな! 吸血鬼ってたしか素行が滅茶苦茶悪いって噂されてるヤツだろ? そんなヤツらの教育係として選ばれるなんてすげえよ!」

「ほんとほんと! 私だったらすぐ挫折しちゃうかも!」


 パンッパンッとユラはその場で手を叩く。


「だからお前ら、こいつらと仲良くしてやってくれ」

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