26話 世界政府の説明

 ツバキは「あはは」と笑みを溢しながら、「なんかごめんね、彼ら、騒がしかったでしょ」とそう言った。


「いや、特に騒がしいとは思わなかったな。なあ? 2人共」

「あぁ。普通に騒がしいから。というより、「見窄らしい」っつー言葉にムカついたが」

「うーん。アリアは多少口が悪いんだ、少しは大目に見てくれると助かるよ」

「政府の人間だからって、大目には見れないな」

「政府の人間だろうがなんだろうが、あとでとっちめてやる!」

「あー……それはやめておいたほうがいいかも」

「理由は?」

「…………言ってなかったんだけどね、彼ら世界政府ーファクトエディションーは全員、「神」で構成された組織なんだ。だから天使様に力を授けてもらった俺たちハーフエルフですら、神の勢力、力、権力に太刀打ちが出来ないんだよ。未成年を働かせることはこの世界では禁止。それが絶対的なルールだ。政府の人間が、このギルドでは未成年を働かせていることに関して、黙認はしてくれてはいるんだけど、それは“あくま”で、俺が奴隷たちを高値で買って、彼らに居場所を与えているからなんだよ。もしこのギルドが闇ギルドで、買った奴隷をまた高値で売り捌いてるってなった場合、政府の権力であっという間に潰されてただろうね」


 リオは「これが、最高権力者……」と、ぽつりとそう呟くと、ツバキはそのリオの言葉に黙って頷いた。


「ところでツバキさん」

「? どうしたの? エリカ君」

「リオちゃんとジニアちゃんは鈍感で気付いていないみたいだけれど、あのアリアとトリットという世界政府の人たちは一体何者なの?」


 丁度3人の近くにいたディルはぴくっと肩を鳴らし、そそくさとその場を後にしてしまう。


「“神”。だよ」

「「神!?」」

「そう、世界政府である最高権力者たちは全員、神で構成されているんだ」

「神。そんなものが、実際に居たなんて……」

「君たちの世界にも居るはずだよね? 神」

「……。」

「あははっそうだよね、思い出したくないか。君たちにとって“は”、神は最低な存在みたいだし」


 ツバキのその言葉にジニアは口を開いた。


「そうだ、最低な神だ! 俺たち種族混血を嘲笑い、陥れた、最低な神だ! そのクソ野郎のせいで、俺の親友はコウモリの奴らのところに行っちまったんだ!!」

「…………ジニア、それは少し、言い過ぎだと思う」

「リオちゃん?」

「……! リオお前、なんでそんなこと!!」

「……お前も知ってるだろ? 俺の祖先たちが先祖代々、吸血鬼界を創った神を祀っていたことを」

「たしか、そんな言い伝えが……」

「…………神だからといって、吸血鬼界を創造した神を貶すのはやってはいけないことだ」

「……」

「実際は、長の混血嫌いが引き起こしたこの問題。何もかも全部、創造神のせいにするのはお門違いだと、俺は思う」

「あれ? その言い方だと、リオ君は神のことを嫌ってはない。っていうことかな」

「まあ、そうなるな。神は神でも、悪い神は少なからずは居ると俺はそう思ってる、この異世界に、天使と悪魔が居るように、光と闇はこの世界にもあるんだ、だから……」

「そっかそっか、自分の先祖たちが祀って、崇めていた創造神を貶されたり陥れられたりしたら誰だって嫌だもんね。分かるよ? その気持ち。うーん、じゃあどうしようかな。ラガルドたちに書類を渡したり、話したり、申請書を渡したりするのは交代で3人にやってもらおうかな。って思ってたんだけど、ジニア君とエリカ君がこの世界の神も嫌い。って言うのなら、この仕事はリオ君にだけやってもらおうかな」

「俺、ですか?」

「うん。この街ではゼウスっていう全知全能の神を祀り、崇めてはいるんだけど……あっそうだ、会ってみる? 全知全能の神に」


 ツバキのその言葉に驚いた表情を見せた3人。ツバキはにこにことした表情で、「じゃあ行こっか、ファクトエディションに!」と、3人に向けてそう言った。

 ジニアは「うーん」と首を傾げながらツバキに向けて口を開いた。


「もう夕方だけど、アンタが政府の奴らのところに俺たちと一緒に行ってもいいのか? 明日の準備とかあるだろ、別日にしたほうがいいんじゃねぇの?」

「あ、もうそんな時間経っちゃった? そうだね、ジニア君の言った通り、別日にしようか」


 ツバキはジニアの言葉に対し肯定するようにそう言うと、「それじゃあご飯のときまでかいさ〜ん!」とにこにことした表情でそう言う。


「あ、ツバキさん」

「んー?」

「食堂って、どこにあるんですか?」

「あ、食堂? 場所は気にしないでいいよ、食事の時間の10分前になったらユラが迎えに来てくれるよ。初日だけ、だけどね」

「わかった、ありがとうございます、ツバキさん」

「いいっていいって! それじゃあね!」


 そう言うとツバキは、そのまま執務室へと向かって行った。

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