25話 アリアとトリット

「なら、なんで……」

「チッ。イケ好かねぇんだよ、吸血鬼ってのは」

「……そうだな、お前はそういうヤツだよ」


 ユラはディルに向けてそう言うと、リオたちの方へと視線を向けた。


「すまないお前ら。こいつは吸血鬼が嫌いでな、あと新人いびりが好きなんだ。悪趣味なヤツだよ」

「ま、気にしないさ。新人いびりが好きっつーのは悪趣味だと俺も思うけどさ」


「あっ! リオくんたち! おぉ〜い!」


 ツバキは手をブンブンと振りながらリオたちに声をかけた。


「あ、ツバキさん」

「話は終わったのか? ツバキ」

「うん、俺たちの事情を話したらさ、依頼期間の延長してくれるって」

「そうか、ならよかった。たまにプライドの高いヤツも居るから、そいつがプライド高くなくて良かったよ」


 ユラはそう言うと、執務室の方へと歩いていった。


「……」

「明日も早いし、早めに寝たほうがいいよ。あぁあと、晩御飯の時間は夜の8時〜9時半の1時間半だから、間違えないようにね。朝ごはんは夜と同じ時間、お昼は12時〜1時半だよ、みんなと食べたくなかったらそこの紙に申請を出して!」


 ツバキは廊下に置いてある《朝食・昼食・夕食を個別に食べたい人用》と書かれた用紙が置いてある机を指差した。


「「わかった」」

「あー、あと、これも伝えておくね。タルトから聞いてると思うけど、君たちが使ってるスイートルーム。この部屋は一旦君たちが使っていいよ、このギルドには建築士が居てね、新入りが入る毎に部屋を1部屋ずつ追加していってるんだ、それで君たちに聞きたいことがあるんだけど」

「? 聞きたいこと?」

「そう。部屋のことなんだけど、本来は1人1部屋が基本なんだけどね? 君たちは1人1部屋が良いのか、3人1部屋がいいのか、どっちがいいとかある?」

「このギルドの基本が1人1部屋なら、俺たちはそれで構わない。こいつらの部屋に遊びに行くことは可能なんだろ?」

「うん! 自由時間であれば可能だよ。ありがとう、建築士にそう伝えておくね。あぁあともう1つあるんだけど、さっき俺が指差したこの用紙の隣に家具追加の用紙があるんだけど、君たちがこのギルドで生活する中で必要必需品だと思った家具や道具をこの用紙に書いてくれれば俺とユラが発注しておく。っていうシステムもあるんだ。そしてこの備考欄には、なんでこの家具や道具が必要なのかを必ず書いてね。あ、君たちが必要必需品だと思っても俺とユラが不要だと思ったら発注は出来かねるから、その辺は気をつけてほしいな」


 机の上に置いてある用紙をリオたちに見せながら説明をする。


「あと動物。動物を飼うにはちょっと特殊な用紙に書いてもらうからね、きちんと受理されれば1頭飼いも、多頭飼いも出来るよ」


 家具受注の用紙の隣には《動物を飼いたい方用》と羊皮紙に書かれた紙も置いてあった。

 ジニアはその羊皮紙に触れ、1枚だけ取りツバキに聞いた。


「なんでこの紙だけ質がいいんだ?」

「それはね、この用紙だけは受注場所が違うからだよ?」

「受注場所が、違う? どういうことだ?」

「それはね、この用紙は」


「俺たち、世界政府に送ってもらう物になるからだ」

「あ。やあ、久しぶりだね、アリア、トリット」

「お久しぶりです、ツバキの兄貴」

「その“兄貴”っていうのやめてよね、アリア」

「いえ、兄貴は、兄貴ですから」


 リオたちの後ろから黒いスーツに身を纏った政府の人間が姿を表した。


「見ない顔ですね、こいつらは新入りですか?」

「そう! かなりいい顔してるでしょ?」

「配属先は?」

「自警団だよ」

「……こいつらが、役人の仕事を? きちんと出来るのか? 見窄らしい顔のヤツらに」

「まあ、なんとかするよ。3人とも、彼らは世界政府ーファクトエディションーという組織に所属しているアリア・レイスとトリット・ディスカナス。君たちの仕事は街の安全とギルドの安全を守ることと同時に、この羊皮紙の用紙を世界政府に届けてもらうこと、そして、街で悪さをしている吸血鬼たちの抹消許可、殺人許可、捕縛許可を取りに行くのも君たち、自警団の仕事なんだ」


 ツバキは3人に、ギルドと政府の繋がりを説明した。3人は「なるほどなー」という顔をしながらツバキの方を見ると、アリアとトリットはそのまま真っ直ぐツバキの方へと歩いていった。


「ほら兄貴、頼まれていた魔族のヤツらの情報です」


 アリアはそう言うと、ツバキに複数枚の書類を渡すと、ツバキはそのままその書類を受け取った。


「なんだか悪いね、情報屋に頼もうと思ってもユラが許してくれなくて……どうせなら無償で情報提供してくれる君たちに頼ろうかな。みたいな感じ」

「大丈夫だよ、俺たちは兄貴たちのギルドには大きな仮があるんだ、これくらい朝飯前だよ。んじゃあ俺たちは戻るから」


 アリアはそう言うと、ツバキたちに背を向け、そのまま入り口に向かって歩いていってしまった。


「あっ! アリア先輩! 待ってくださいよー!」


 そそくさと行ってしまったアリアを追いかけるように、トリットはツバキに軽く会釈をし、その場を後にした。

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