22話 自警団としての見回り①

 ユラはタルトを連れてスイートルームへと向かって歩いていく。スイートルームへと着き、コンコンとノックをした。


「入りますよ」

「ん。聞いたことのない声。……誰だ」


 ジニアはちょこっと扉を開けながらそう言うと、タルトはぴくっと肩を鳴らした。


「すまないなジニア」

「……お前」

「お前ら3人には、俺が率いる自警団に入ってもらうことになった」

「自警団?」

「街の安全を守り、ギルドを守る自警団。この世界で悪さをしている吸血鬼を裁くのも自警団の役目だ」

「なるほど。そういやさ、このギルドって商業ギルドだったよな」

「……あぁ。お前たちを見る限り外での仕事に抵抗は無いように見える。まあ実際、このギルドは各地を旅して回っているんだが、色々な場所を見て、色んな場所の内情を知ったり、そういうのを新入りのお前らにもやってもらいたい。良い暇つぶしにはなると思うぞ? そんで、こいつをお前らの教育係として付けることにした」


 ユラはそう言うと、タルトの頭にポンと手のひらを置く。


「1人? まじで?」

「本来なら3人3組が常識だろ? なんで1人で?」

「こいつを甘く見るなよ? お前ら。まあ色々と、頑張れよ。……あとは頼んだぞ、タルト」

「ユラさん、わかりました」


「あぁあと、俺はユラな。「隊長」でも「団長」でも「ユラさん」でも、お前らの好きに呼んでくれ」


 ユラはそう言うと部屋を後にした。


「オレはタルト・ヴァーデンビッヒ、自警団のNo.2及び管制室の整備を任されてるんだ」


 タルトは自身の名前を言いながら3人に自己紹介をする。


「あぁ、よろしく。俺はリオ」

「俺はジニアだ」

「私はエリカよ、よろしくね」


「女の人、だよな?」


 タルトはエリカの方を見ながら困惑したような表情で見つめていた。


「えっ?」

「いや、エリカは正真正銘男だよ」

「え、だって今、私って……それに女のような……あぁ、そういう趣味のヤツだったか。すまないな」

「そういう趣味」

「ははっ特に意味は無いんだ、申し訳ない。とりあえず互いの顔合わせは終わったし、今日は街を案内するよ」


 ニッと微笑みながらタルトはそう言うとスイートルームの扉を開けた。


「なあタルト」

「ん?」

「ツバキのヤツが「スイートルームは客人用」って言っていたんだが、俺たちはもうこのギルドの一員だろ? 部屋はどうなるんだ?」

「あー……ツバキさん、リオたちに何も言ってないんだな。とりあえずこのスイートルームに居ていいと思うよ、人数が増える度に建築員が部屋を人数分増やしていっているんだ。新しく部屋ができるまで客人用のスイートルームを使えるようになってる」

「ほう。そういうのがあったのか。納得したよ、ありがとう」

「全然! あとはいこれ。君たちの今付けてるブレスレットと交換で赤いブレスレットを渡すよ」


 タルトは3個の赤い星のブレスレットを手に持っている。3人は手首についてたブレスレットを取り、そのままタルトにブレスレットを渡した。


「ありがとう」


 そう言うと赤い星のブレスレットを3人に渡すと3人はブレスレットを手首に付ける。


「それじゃあ行こうか。……この街とはそろそろお別れでさ、かなり寂しくなるよ」

「どういう意味だ?」

「あれ? これも聞いてない? 今この街でフェスティバル・シャムロックという収穫祭が開催されるんだ。この収穫祭は毎回のようにやっていてね、オレたちルーチェが街を本格的に離れる前日に行われるんだ。街の人たちが「今まで物産を回してくれてありがとう」、そういう意を込めてね。まあ言えば、お別れ会的な物だと思ってくれると嬉しいな。あぁあと、祭りの警備もオレたち自警団がやることになってるんだ、交代制だから安心して! ちゃんと君たちも観光出来るよ」


 タルトと話をしながら歩いていると、いつの間にか外に出ていた。


「さて、街を案内する前に1つだけ注意点があるんだけど」

「注意点……?」

「そう。この街に限ったことじゃないけど、極力戦闘は控えること。わかった?」

「それはなんでだ?」

「君たちは吸血鬼だよね? 吸血鬼は天族や魔族、神たちが使う魔力よりはかなり劣るけど、人間たちが使う魔力以上の力を持ってる、そんな君たちがこの街でドンパチやったらどうなると思う?」

「……俺たちがお前らに捕まる」

「そう。街の人たちも優しい人たちばかりとは限らない。血の気が多い人たちも中には居るからさ、そこは気をつけてね、お酒を飲むと血の気が多くなる人も中には居るくらいだから」

「分かった、気をつける」

「うん。さあ行こうか、すぐこの街から離れるけど、オレたちは祭りの準備の警備も任されてるからちゃっちゃと終わらせるよ」


 飛行船の前から離れ、タルトは3人に街の案内を始めた。

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