13話 クロケル

「あ? お前ら、見ねぇ顔だな、新入りか?」

「んや、違うよディル、彼らは新入りじゃない」

「じゃあなんでお前と話してんだよ、新入りじゃねぇならさっさとこのギルドから出て行かせりゃいいだろうが!」

「うーん……そうも出来ない状況なんだよ」


「あはは」と苦笑いしているツバキを横目で睨むディルに、ジジッと横入りで入ってくる輩がいた。


「あ、あー、聞こえてる? 聞こえてるな?」

「……ほら来た」

「「ほら来た」って何なん? ンまーええわ、あんたらのところに居るんやろ? 02[ゼロツー]ちゃん」

「うん居るね」


 扉の前からインカムと同じ台詞を吐く男の声が聞こえ、ガンッと執務室の扉を蹴る音が聞こえた。


「02[ゼロツー]ちゃん、どこにるん? お前らが一番知ってるよなぁ? 早急に教えろ、俺は気が短いんや」

「ははっ教えるわけ無いだろ? お前ら“魔族”に」

「ふぅん、俺らのこと、知っとる口か。んじゃあ俺らのボスがどんな男か知ってるよな? ルーチェのギルドマスター、ツバキ」

「うん知ってるよ、炎の魔法を使うベリアル、でしょ?」

「……」


 するっと扉をすり抜け、そのままツバキたちの目の前に姿を現した。


「やっぱり君だったか、クロケル」

「さっさと教えんと、このギルドを吹き飛ば」

「誰が吹き飛ばすって? 初めましてだな、悪魔のクロケル」

「お前は……!」

「俺のことを知らないわけでは無いみたいだな、このギルドを吹き飛ばす……なんの為に?」

「いや、それは……」

「ユラ〜こいつ、ユウを渡さなきゃギルドを吹き飛ばすって言ってたぜ?」

「ほう、ユウを。……理由は?」


 ユラはクロケルを睨みながらそう言うと、クロケルはびくっと肩を鳴らす。


「ボスからの命令や、02[ゼロツー]ちゃんの回収を」

「ユウを回収。そんなこと、俺が許すとでも?」

「許す許さないの問題ちゃうんや、02[ゼロツー]ちゃんは元々こっち側の所有物。そもそも人形を匿うなんてどうかしてるわ!!」

「それはお前が決めることじゃない。俺が、いや、ツバキが決めることだ。人形だろうと、そうじゃなかろうと、俺とツバキにはユウを、いや、皆を守る権利がある」

「んで?」

「あ?」

「……茶番はそれだけなん? さっさと俺らの所有物の居場所を教えろ言うてんねん、はよ寄越せや、なあ? ユラ」


 イライラし始めたクロケルは右手を横へとずらし、壁に手を付く。


「もうええわ、俺らが02[ゼロツー]ちゃんを隈なく探す」

「俺ら? 今君1人しか居ないよね?」

「まあそうやな、今“は”。になるわ。俺ら魔族は2人行動が主なんや」

「2人」

「……シクラちゃん遅いわ……どこほっつき歩いてんだか……」

「うわあ! やっっと見つけた!! クロくん!!」


 ドゴオオオン!! というけたたましい音を響かせながら執務室の扉を爆破させる。


「はぁ、遅いわシクラちゃん。どこほっつき歩いとるん?」

「あはは、道に迷っちゃって! でもほら、結果オーライでしょ? こうやってクロくんと会えたんだし!」

「まあ、そうやな。ってぇえ! あんた、ボスの命令聞いとった!?」

「え? おれ、フォラスさんの言葉しか聞いてないよ?」

「……」


 クロケルは「駄目だこいつ」みたいな顔をしながらシクラの方を見つめると、その場でクロケルに微笑みかけるシクラ。


「ラスっちにボスの言葉をちゃんと聞くよう伝えなあかんな」


 深いため息をつくクロケルを見ながらいつもにこにこと笑っている。


「んまあ? シクラちゃんは“馬鹿”やけど、ラスっちには能力値的には強くしてもらってるし、俺的には全然構わんわ」

「馬鹿って何!? 酷くない!?」

「酷くないわ、俺よりも阿呆で馬鹿な癖に何言うとんねん。あ。」

「ねぇユラ」

「なんだ? ツバキ」

「敵を目の前に喧嘩始めちゃったよ、舐められてるね? 俺たちも」

「だな。こいつらどうする?」

「うーん」

「処分はお前に任せる」

「潰そっか☆ 処理はお前に任せるよ、ユラ」

「了解。ツバキ、壁の強化を頼む」

「もうしてるよ、壁破壊された後には」

「壁補強はどうする? このままだと敵に逃げられる可能性があるが?」

「それは追々決めようよ、今はこいつらの処分が先だ」


「シクラちゃ〜ん、ラスっちの命令、聞いとるな?」

「うん、ちゃんと聞いてるよ」

「召喚師の力、あいつらに見せたってや」


 クロケルはそう言うと、シクラに全てを任せた。


「んじゃあ俺はこのまま02[ゼロツー]ちゃんの回収行くわ、後は任せたで、シクラちゃん」

「おっけークロくん!」


 クロケルは壁をすり抜け、その場を後にした。


「ユラ、ここは俺に任せて、お前はアイツを追って」

「いいのか?」

「大丈夫だよ、早く! ユラの力でユウちゃんを守って!」


 ツバキのその言葉にユラは黙って頷き、クロケルの後を追った。

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