12話 弟

 ラクナはそう言うと荷物と、分断した腕を取り、コウモリとセツナに一礼する。


「リハビリは、本日はもう暮れですので、翌日からでも構いませんか?」

「ん、うん、大丈夫だよ」

「ありがとうございます。それでは明日の朝、セツナ様のお部屋にお邪魔いたします、それでは失礼致します」


 そう言うとそのまま部屋を後にした。


「どう? セツナくん、新しい腕は」

「まあ、これから何とかなると思います、思ったほどダサくは無いですし」


 セツナは義手をグーにしたりパーにしたりしながらコウモリと話す。


「次は負けません。ユラにも、ツバキにも。本日は申し訳ありませんでした、お義兄さん」

「ううん、いいんだよセツナくん。明日からリハビリ頑張ろう!」


 ◇


 ユラはリオたちにそう言うとリオは首を横に振り、そのまま口を開いた。


「それは違う」

「? 何が違うんだ?」

「吸血鬼のセカイでは、純血が一番上で、一番下に見られているのが混血なんだ」

「……俺たちの世界とは真逆なんだな。だが、それとこれとは別だろ? なんで混血が祭りを知らないで、純血だけ祭りを知っている?」


 “違う”。その言葉だけで、瞬時に「混血の居た場所では祭り毎はやっていない」という答えに陥ったユラ。


「……それはカネが無いからだな」


 ジニアのその受け答えに黙って頷いたエリカ。


「お金が無くちゃ何も出来ない。私たち混血は、下界と呼ばれる場所にいたから……だからお祭りをしたくても出来なかったのよ」

「ふむ。やはり俺たちエルフの世界事と同じような現状に陥っているのか……辛かっただろ、迫害対象にされて」

「最初はな。でもリオが俺たちの友達になってくれて、そうでも無くなった!」

「そうね、リオちゃんだけが私たちの友達だもの」


「ははっなんか照れくさいな、真っ向からそう言われるとさ」

「……ほら、執務室に着いたぞ、一旦その話はあとで聞くから、ツバキと話をしてくれ」

「あんたはどこ行くんだよ」

「俺か? 俺はこれから仕事があるんだよ、ツバキによろしくな」


 ユラはジニアの肩をポンポンと叩き、その場を後にした。


 コンコンとノックをし、内側から「どうぞ」と声がかかり、扉を開けた。


「あれ? ユラは?」

「仕事があるとかどうとかで、さっき外の方に行っちまったよ」

「ふぅん、ま、いいや! 今日君たちを執務室に呼んだのはほかでもない、ユウちゃんのことだ」

「ユウ? 誰そいつ」

「この子」


 ツバキは1枚の写真を机の上に起き、リオたちに見せた。


「あら、可愛い子」

「この子は俺の義妹なんだけど」

「けど?」

「この義妹が厄介でね。魔族の幹部である人形師、フォラスが造った人形なんだよ」

「造ったって……なんでそんな動かねぇ人形なんかがこのギルド内にいるんだよ!!」

「動かない? 誰がそんなこと言った?」

「?」


 またコンコンとノック音がリオたちの背後から聞こえた。


「入るね? お兄様」

「うん」


 ツバキがそう言うと、扉が開き、写真と同じ女の子が姿を現した。


「この子が「ユウ」ちゃん。フォラスが造った人形」

「……こいつが、人形……?」

「? お兄様、この人たちは?」


 きょとんとした表情をしながらツバキにそう問いかける。


「まだ彼らの答えは聞けてないんだけど」

「……?」

「ユウちゃん、君を守ってくれるーー」

「私にはディルが居るよ? ディルが私のことを守ってくれるから大丈夫!」

「でもなー、ディルは弱いから……」

「弱いからっていう理由で、ディルに」

「ご、ごめんね? ユウちゃん、俺が悪かったよ」

「お兄様は、ディルの強さを知らないから……」

「そうだね、ディルは強いよ。リミッターを付けてなければ、ね」


「拒否られてんじゃん」

「んじゃあ俺たちは必要ないってことだよな」

「あ、待って! 待ってよ君たち!」

「? どうしたの? お兄様」

「隠しても意味ないから単刀直入に言うんだけど、3人共、俺とユラの作ったギルドに入ってほしいんだ」


 ツバキのその言葉に3人は顔を見合わせたあとそのままツバキの方へと視線を移した。


「それってどういう意味だよ」

「人手が足りないの? この部屋に付くまで辺りを見ていたけれど、人手が足りないとは到底思えなかったわよ?」

「……俺たちの手が必要ってことか? それは何で……」


「それは順を追って説明するよ。あ、その前に、ユウちゃん、ディルを連れてきてもらえるかな?」

「うん、わかった!」


 ユウはそう言うとそのまま部屋を後にした。


「ディル? さっき名前が出てたヤツだよな」

「うん、そうだよ。もし入るってなったとき、一番君たちに噛みつきそうな子なんだ。でも根は良いヤツだから仲良くしてくれると嬉しいな」

「……入るってなったらな」

「ふふっ助かるよ、ありがとう」


 ノックをせずに扉を開け、「なんだよ兄貴」とそう言いながら部屋に入ってきたディル。


「紹介するよ、彼はディル=ヒューマン。俺とユラの、“弟”だよ」

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