10話 初めての飛行船(ギルド)

 ユラはツバキに笑いかけながらそう言うと、「ところで」とリオたちの方を見ながら言葉を繋げる。


「ツバキ、なんでお前はさっき、こいつら吸血鬼を生かした。さっき道の真ん中でぼうっと突っ立ってたのは処罰したヤツだけじゃなかった。んなのお前だって見ていたはずだ」

「そうだね、でもねユラ」

「?」

「俺、彼らを気に入っちゃって!」

「……」


 ーー「またか」とそんな表情を浮かべたユラ。実際ツバキが「気に入ったから」という理由で見逃した連中も沢山いたが、誰も彼もユラやツバキを裏切り、攻撃を仕掛けたようなふざけた連中ばかりだったのだ。


「また攻撃を仕掛けられるんだが……」

「んま、そのときはユラがなんとかしてくれるでしょ?」

「まあそうなんだが……少しはお前1人で戦え。俺に頼るないい加減」

「やだ! 面倒くさいもんっ」


「とりあえずお前ら、俺たちに攻撃を仕掛けないよな?」

「えっまあ……」

「何だよ急に」


「はぁ……まあいい。悪かったな、このちゃらんぽらんな」

「ちょっちょっと待ってよ!! 俺、彼らが気に入ったっていったじゃんか!!! ユラ!! 俺の言葉ちゃんと聞いてた!?」

「聞いてたが?」

「ならさ! ギルドに連れて帰ろうよ!! 俺彼らと話をしてみたいしさ! ねっ? いいでしょ!?」

「……」


 ツバキのその言葉に困ったような表情を浮かべ、黙って頷いた。


「ツバキがそう言うんだ、ギルドまで案内する」

「ギルド?」

「そう! ギルド! 俺たちのギルドは飛行船なんだよっ!」


「飛行船……」


 キラキラと目を輝かせるエリカに、「飛行船、見るのが初めてなのか?」とユラ。エリカは何度も首を縦に振る。


「エリは飛行船も飛行機も見るのが好きなんだよな、昔っから」

「餓鬼のようなヤツなんだよ」

「なっ!? それを言うならリオちゃんやジニアちゃんだって料理が出来ないじゃない! いっつも私に頼ってばっかり!」


 3人の掛け合いを見ていたツバキは笑みを溢し、「さあ行こうか」とそう言った。

 鼻歌を歌いながら飛行船に向かって歩いているツバキと、その光景を見てユラはため息をつく。


「なあ」

「ん?」

「アイツって、いつもあんな感じなのか?」

「ツバキのことか? んーまあ、そうだな。いつもあんな感じだ」

「大変なんだな、お前も」

「まあな。でももう慣れた。あいつの尻拭いも何もかも、な。上がちゃらんぽらんだと、下がしっかりするものなんだと思い知らされたよ」


 ユラがジニアと話してるときにツバキはくるっと後ろを振り向いた。


「え? ちゃらんぽらんって、誰のこと?」

「……お前のことだよ、ツバキ」

「!? まさかの俺!? さいてーだねユラ! 俺もう怒ったから!」

「はいはい、勝手に怒ってどうぞ」


 リオは冷や汗を掻きながらユラに呟いた。


「怒らせていいのかよ、取り返しのつかないことになるんじゃないのか?」

「あぁいいんだよ、こいつ、俺が居ないと何もできないからすぐに頭を冷やして俺に話しかけてくんだよ」

(……いつもこんな小さいことで喧嘩してるのね、この2人は)

「……」


「とりあえず、君」

「?」

「リオくんたち、貰っていってもいいかな」

「兄さんたちを?」

「君はアレだよね、ディルとユウちゃんの担任の先生だよね? 俺は君を信頼しているよ」


ツバキはグロリオサの肩をぽんぽんと叩く。


「分かりました、ディルとユウの保護者が兄さんたちのところに居るのなら安心です。それと」

「それと?」

「これ、魔法学校に編入するために必要な物が書かれた書類です、渡しておいてくれますか?」

「わかった、渡しておくよ。それじゃあね」


 そう言ったあとギルドへと歩いていくツバキは飛行船の目の前に立った。


「ここが俺たちのギルドね、エリカ君は飛行船を見るのは初めてだったよね、どう? 初めての飛行船は」

「えぇ、ええ! スゴイわ! 初めて見た! 生の飛行船!」


 キラキラとした眼差しで飛行船を見つめるエリカ。


「ふふっ」

「さて、中に入るためにはこのブレスレットを」

「あー! それ俺が彼らに渡そうと思ってたヤツ! 抜け駆けはやめてよね! ユラ!」

「はぁ……お前が渡すのが遅いだけだろうが」

「まあこいつのことは放っておいて、客人用のブレスレットだ、失くすなよ?」


 ユラは月や星等の付いた白いブレスレットをリオたちに渡した。


「可愛いのね」

「なんか子供っぽくね?」

「このブレスレットのデザインはギルドメンバーの1人が作ったものだ、あまりそう言うことは言ってやるな」

「ふぅん」


 興味が無さそうにそう返答するや否やツバキはそそくさとギルドの中に入っていってしまった。


「そこにいる警備員に今渡したブレスレットを見せれば中に入れてくれる」


 ユラはそう言うと薄紫色のブレスレットを警備員に見せ中に入ると、それと同時にリオたちも警備員にブレスレットを見せギルドの中へと入っていった。


「とりあえずはツバキの居る執務室に向かう」

「執務室? ギルドには執務室もあるのか?」

「そりゃああるだろ、このギルドは他のギルドとは全く違うんだ」

「ギルドっつーのにギルド掲示板には何も貼られていないのは何でだ?」

「……今は収穫祭の準備中なんだ、その準備期間中は仕事の受注は停止している」

「祭り? 収穫祭?」

「なんだお前ら、祭りのことも知らないのか? 吸血鬼界は凄く殺伐としてるんだな」

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