09話 ツバキとユラとセツナ
「お、まえは……」
「忘れたのか? なあおいリオ」
「は……?」
ーーこいつと俺は初対面のはずで……は? なんでこいつは、俺のことを知っている?
そんなことを思い浮かべていると、そのままセツナはリオの方へと近付きながら言葉を繋げていく。
「お義兄さんはお前を必要としている」
「……お前、急に何言って……」
「オレとお前は似てるんだよ、お前とは同じ境遇ではないけどさ。同じ「純血」で、オレと似たような特権をお義兄さんとカラスさんに授けられて」
コツコツコツという音をたてながらリオへと近付いていく。グロリオサはセツナがもうすぐで目の前に辿り着くという手前で彼らの間に割って入った。
「そこまでだよ、セツナ君」
「てめえ、何がしたいんだよ」
「……別に? オレはただ、お義兄さんに指示されたようにしているだけだよ。お義兄さんはリオを必要としている。ただそれだけのことだ」
「ハッお前、親バカならぬ兄バカだな」
「なんとでも言えよ。オレはお義兄さんを崇拝してるし、心酔もしてる」
「お前はほんとの馬鹿かよ」とジニア。セツナはその言葉にかちんときたようで指をパチンッと鳴らした。
「これでお前は終わりだよジニア。オレにお前の記憶の一部を消され、そのまま廃人となってしまえ」
そう言うとジニアの動きは一瞬で止まり、ドクンとジニアの体は疼き出した。だが、どこからともなく指をパチンッと鳴らす音が聞こえ、ジニアの体の疼きは瞬時に止まった。
「「ルーチェ」を率いてるギルドマスターとそのNo.2には気をつけるんだよ、セツナ君。彼らは恐らく、俺たちの敵だ」
コウモリに言われたことを思い出していたセツナ。そう、そのギルドマスターの名前は「ツバキ」。ツバキは「ルーチェ」というギルドを設立し、少しずつ勢力を強くしていっている強者だそう。
「やあ、吸血鬼君たち。こんな道路の真ん中で何をやっているのかな?」
にこやかに笑うツバキ。そんな彼の表情はにこやかに笑っているものの、目が全く笑っていなく、物凄く不敵な笑みを浮かべていた。
「全く……お前はいつも小さいことで怒るよな、ツバキ」
「あはは、ごめんねユラ。でもここは道の真ん中だよ? 人通りの邪魔はしちゃいけないでしょ、たとえ吸血鬼でもさ」
「それはまあ、そうだが……」
「だから俺は注意をしたんだっ! ふふんっ」
(目の前に敵が居るというのに気楽でいいもんだな、こいつは……)
「ツバキ」
「んー?」
「俺たちの目の前に敵が居るが、処理はどうする?」
「ん? んー……ユラ、アイツの処理、お願いできるかな」
ツバキはそう言うとユラは「分かった」とそう言い、セツナの目の前に立った。
「俺はユラ=ヒューマン、今からお前を処分する」
「は? オレを処分? どうやって? お前、意味分かって言ってんの?」
「当然だ、この世界では“処分=殺す”。だろう? これが当然の節理なんだよ、なあ? はぐれ吸血鬼」
「……」
威圧的な言葉を繋げるユラを見ながらツバキは「アイツ、終わったな」とぽつりと呟いた。
「さて、君たちはどうやってここに来たの?」
「な、なあ、アイツを放って置いて良いのかよ」
「あぁ、ユラのこと? 大丈夫大丈夫! ユラは「ルーチェ」のNo.2。俺よりも強いんだから!」
「ほら、見てみて!」とそう言いながらユラの方を指差すと、「煉獄」の炎で腕を焼かれているセツナの姿があった。
「ぐわあああああああああ!!!!! 腕が!! オレの! オレの腕があああああああ!!!!!!!」
「ハッ……腕くらいなんだってんだ。吸血鬼は急所を破壊しないと死なないんだろ? 腕を焼かれたくらいで騒ぐな、喚くな鬱陶しい」
セツナを睨みながらそう言ったユラ。
「さて、次はお前の急所を見つけないといけないんだが……」
「……!」
ユラはそう言葉を発した後セツナを見ると、怯えた表情をしながらカタカタと震えていた。
「死ぬのが怖いのか? 吸血鬼。……ならここで街の連中に謝ってもらおうか」
「ちょっちょっと待てよ! なんでそいつだけ罰せられなきゃいけねぇんだ!」
ジニアはユラにそう問いかける。
「……ツバキは俺にこいつを処分しろと指示をした。だから罰するんだ、なんだお前、こいつの知り合いなのか?」
「いや、それは……」
「ならお前らも同罪だ。いいよなツバキ、こいつら吸血鬼も処分して」
「え。ちょっと待ってよユラ! 彼らは駄目! 理由は後でちゃんと説明するからさ! ねっ?」
「はぁ……分かった。まぁ、そういうことだ」
そう言うとそのままセツナに視線を戻す。
「お前ら吸血鬼は処分対象になるが、ツバキがやめろと言ったからやめる。だがお前は……」
ユラが言葉を言い終わる前に、セツナはそのまま姿を消した。
「逃げた、か……」
「……ユラ、今の本気じゃなかったでしょ」
「ははっバレたか? 仕方ないだろ? あいつには「煉獄」だけで事足りると思った。ただそれだけさ」
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