07話 セツナ①
(やっぱりあの情報は本当だったんだ……兄さんたちがこの世界に来てるって……)
「兄さん……兄さんにはもう、あのことを話さないといけないんだね……」
ぽつりとそう言った青年の声は風でかき消され、リオに届くことは無かった。けどリオは自分の弟が近くにいることを瞬時に察知し「?」と頭に疑問符を乗せ、後ろをくるっと振り向いた。
(あれ、今、グロリオサが……)
「リオちゃん? どうかしたの?」
「お前の弟が近くにいたのか?」
「ん、あぁ……今、そんな気配がして……」
「俺が調べた、コウモリの全てをさ……」
(コウモリの、全て……?)
2人には嫌な心配を掛けたくない為、2人には一切聞こえないように読心遮断を使った。
「リオ、どうした?」
「んーいや、なんでもない!」
リオはそう言うと、先に行ってしまった2人に向かって小走りで走り出した。
「さて、と……寮の前でお出迎えしてあげないとね。驚くかなあ~~ジニア君とエリカ君は」
口角を上げながらグロリオサはそう言い、学校の寮の方へと向かって歩いていった。
「リオ? どこ行くんだ?」
「学校、行かないの?」
「あぁ……そうだったわね、一応は下見に行きましょうか」
そう言いながらそのまま3人は立ち上がり、リオと一緒に学校へと向かって歩いていった。
ーー 一方その頃……
「カラス、君が付いていながら失敗って、どういうことかな?」
「それは……その……」
「兄さん、にーちゃを、責めないであげて……?」
目に涙を溜めながらスズランはコウモリに訴えかける。カラスは“失敗”に及んだ理由全てを伝えた。
「仕方がなかったんだよコウ、アイツらには俺の特権が効かなかった。恐らくお前の特権も効かないと思う、だから戦略的撤退をした」
「……なるほど。3人一緒に居ないと発現しない特権。か……ふふ……」
テーブルに肘をつけあと手のひらに顎を乗せ、そのまま不敵な笑みを浮かべている。
「兄さん、3人共に居ないと発現しない特権。と言うのは何なんですか? 普通の特権とは何が違うんですか?」
「たまに居るんだよ、そういう特権を扱える吸血鬼が。1人でも欠けるとその特権は一切発現しないが、3人一緒に居ると……」
「だから兄さんはリオを欠けさせて、他2人を殺そうと……ーー」
「ふふ……違うよルピナス。なら特別に君たちに教えてあげよう」
口角を上げ、ぽつりとそう言ったコウモリ。
「カラス、君は知っているだろうけど、俺がリオ君を望み、求める
「え。粉、砕……? あの吸血鬼界を脅かしていたあの特権……?」
「そうだよ。そしてその粉砕の特権は、俺とカラスが付けてあげた。セツナ君と一緒にね」
コウモリが「セツナ」という名前を出したとき、ぴくっと肩を鳴らしたスズラン。
「僕、セツナ君が苦手です」
「けどねスズ、俺はセツナ君と仲良くしてなってほしいって思ってるんだよ?」
「それは、どうしてですか?」
きょとんとした顔でコウモリの顔をじっと見ている。
「それはねセツナ君も君と同じで不遇な人生を送っていたから、かな」
コンコンとノックの音が聞こえ、コウモリは「どうぞ」とノックをした主に声をかける。
「失礼致します。不遇な人生を送っていたなんてそんな大袈裟ですよお義兄さん。あんな出来事が起きたから今のオレがありますので、オレはオレのあの人生を不遇だと思っていません」
「聞こえてたみたいだね、セツナ君。俺はやっぱり君の出来事は不遇としか思えないんだよ」
悲しそうな表情を浮かべながらセツナにそう言った。セツナはやはりそうは思っていないようで、首を何度も横に振った。
「オレはお義兄さんと出会えて今はとても幸せですよ? オレの不遇な人生があったからこそ、オレはあなたに、出会えたのですから」
口角を上げ、にこっとコウモリに向けて笑みを浮かべる。
「でも俺は……君たちを幸せには出来なかった。あの吸血鬼界がある限り、君たちは幸せになれない……だから、俺は」
「それ以上は言わないでくださいお義兄さん。オレたちはあなたの野望の為に戦います。一緒に幸せになりましょう。一緒に吸血鬼界を正しましょう。粛清しましょう。今のオレたちなら、それが出来ますから」
セツナはコウモリに近づき、震えている手のひらを掴みながら真っすぐな目でコウモリの目を見つめた。コウモリは瞼を閉じたあとすぐに開き「ありがとう、セツナ君」とぽつりと呟いた。
「それと」
ぽつりと呟いた後くるっと後ろを振り向き、びしっとスズランの方に指をさす。
「オレもお前が嫌いだよ。苦手じゃない、大嫌いなんだよ」
その「大嫌い」という言葉にぴくっと肩を鳴らし、声を震わせながら「ぼ、くも貴方が苦手です、ですが……!」とセツナの言葉にそのまま繋げた。
「だけど、何? どうせしょうもないことを言うんだろ? 「僕は貴方と仲良くなりたいんです」とか。あはは、超しょうもないね、オレはお前が嫌い。仲良くするつもりもない。それで十分だろ?」
目を真っ赤にしながらスズランに向かってそう言った。
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