06話 カラス、スズランvsリオ、ジニア、エリカ

 彼らが転移してきた国の名前はテラシティア。そのテラシティアという国の一角にある街レルファンシエル。この街は現在進行系で栄えており、その栄えている理由というのは、「ルーチェ」というギルドのギルドメンバーたちがレルファンシエルやその他の街々に赴き商売をしている。云わばギルド「ルーチェ」は商業ギルドで、様々な街へと行き、商売をして、それで生計を立てている。というそんなギルドである。

そしてこの国では、創造神や神々を教会内で祀っており、毎日全家庭が花々や食事等を教会へと持っていき、祈りを捧げている。レルファンシエルで祀っているのは全知全能の神ゼウス。ゼウスが遥か昔好んで食し、彼の妻であるヘラと共に愛食していたのがレティマッチャとシルフストロベリーで作られたタルト。毎月このタルトを教会内にある祭壇に、彼の愛したタルトと同じ味付けで、同じ盛り付けで持っていくのが習わしなのである。



 ウ〜〜 ウ〜〜 ウ〜〜!!!

 

 煩わしい音の警報が辺りに鳴り響く。この警報は自警団に吸血鬼がこの街に現れたと知らせるための物。


「? 何の音かしら」

「警報?」

「怖い音だな、移動しようか」


 リオたちはこの警報に恐怖し、今いた場所から移動しようと歩き始めた瞬間、バサッバサッという音と共に黒い羽根が複数枚頭上から落ちてくる。3人はハッとした表情で上を見上げると、カラスと、その隣にいるスズランがリオたちを見下ろしていた。


「何? 何の音?」


「やばい!」

「吸血鬼が来た!!!」

「巻き添えを食らうぞ!!!!」


 街の外に出ていた人間たちは、カラスたちが現れた瞬間すぐに家の中に入って行ってしまった。


「ふふ……逃げろ、逃げ惑え、ゴミクズ共。……俺たちが今お前らに粛清をしてやる。なあ? 今さっき吸血鬼界から来た新人君たち?」

「……ッ!」


 ーーカラスたちと目が合い、ぐわっと凄まじい殺気を感じた。今まで感じたことのないあり得ないほどの殺気。どんだけの人間、吸血鬼を殺してきたのだろうか。1人や2人……いや、数えきれないほどの人数かもしれない、すごく恐ろしい。


「なあお前らさ、今までどんだけの人間を殺してきた?」


 単刀直入にリオはカラスに聞いた。


「人間を、殺す? 俺たちが? フフ……俺たちが殺すのは吸血鬼と、忌々しい魔族だけだ。人間など殺しても、アイツの腹は膨れないんだよ」


 ふふ……と笑みを溢しながらぽつりとそう答えた。


「アイツ? アイツってコウモリのことか?」

「お前らに答える筋合いは無い」


 カラスは右手を上にあげ、リオたち擦れ擦れに七色に輝く綺麗な結晶を作り出した。


「ぅおっっびっくりしたな……」

「もしかしてこれが……?」

「ええ、これが、「結晶」」


「なるほど、お前“ら”がコウのお気に入りか」


 リオの顔を見ながら、我が物顔でそう言った。


「お前ら? 何の事だよ」

「セツナのこと、覚えてないのか」

「は? 急に何言ってんだよ、知らねぇよそんなヤツ」

(ふむ……ルピナスの記憶操作が未だ効いてるのか、まぁいい)


「コウモリの命令だ、そこの奴以外のお前らは今、俺らが始末する」


 リオを指差しながらカラスはそう言うと、ジニアとエリカは「は?」と言うように1歩前へと出る。


「お前、急に何言ってんの?」

「リオちゃんを狙ってるの? その理由は何?」

「お前らに答える筋合いはない」


 カラスはまた右手を上にあげ、「次は外さない」と言うような目線を2人に向けた。


「今のはわざと外したのか」

「当たり前だ、挑発だよ」


 ジニアもまたカラスと同じように右手を上げた。すると2人の重力はたちまち変わり、地面に足を着くくらいに重力を変えた。


「スズ」

「うん、分かった! にーちゃっ」


 スズランも右手を上げ、ジニアとエリカの重力をまた変えた。


「2人とも!」

「俺たちに付いてこい、リオ」

「は? なんで? なんで俺がこいつらを置いてお前らのところに行かないと行けねぇの?」

「コウがお前に会いたがってるんだよ」

「それはお前の都合だろ? 訳わかんねーこと言ってんじゃねぇよ」


 リオは右手を右側に移動させ、そのまま上へと瞬時に移動させる。するとパラパラ……という音が聞こえ、近くの建造物がプルプルと震え始めた。


「これが粉砕の特権の力か」

「リオとエリカを開放しろ」

「断る。と言ったら?」

「お前らの頭上にこの建物を落とす」


「ふふ、もし仮にこの建物を崩したとき、近くにいる人間を殺すのか?」

「今居ねぇだろ。お前の目ェ大丈夫か?」

「なるほどな、理解した」


 カラスはリオの言葉を拒否するように首を横に軽く振った。リオは「そうか」と言葉を漏らし、人差し指でシュッと地面へと移動する。するとさっきぷるぷると震えていた建物が一気に倒れ、カラスをそのまま下敷きにした。


「にーちゃ?」

「あと1人だな」

「誰があと1人だって?」


 自身が下敷きになる前に瞬時に交わしていたカラスは、リオたちの真上へと移動していた。


「リオ、奴は強い。一旦立て直そう」

「けど、お前らが……!」

「そうですよお? 僕の重力はそう簡単には崩せませんッ」

「ハッ俺はてめぇと同じ重力操作の特権使いだ、重力を相殺させることなんか簡単なんだよ」


 ジニアは自分とエリカに向けて重力を動かすと、「ギキギギギ……バギィィイイインッッッッ」という凄まじい音と共に重力をそのまま相殺した。


「えっ!? そんなやり方あったんですか!?」


「知らなかった」というような驚きを一切隠せないスズラン。


「覚えておけ。重力と重力を合わせれば、相殺できる。とな」

「そうですね、覚えておきます。ですが……」


 カラスは宙に浮きながら、ジニアとエリカを結晶で固めた。


「これで僕たちの仕事は完了したね、にーちゃ」

「あぁ、そうだな」


 そして2人を閉じ込めた結晶にヒビが入り、「バキィインッ」という凄まじい音と共に結晶はそのまま砕け散ってしまった。


「は?」

「えっ? にーちゃの、特権が効かない?」


 リオは結晶が砕けた光景を見ていたため、何で結晶が砕けたのかよく分からないでいた。


「え、なんで、結晶が効かないんだ?」

「あれ? 生き、てる……」

「いやだって今……アイツの結晶で固まって……」

(なんで今……アイツら、一体何をした? 何故俺の結晶が効かない……)


 不思議そうに見つめるカラスはスズランに、一旦退却することを命じた。


「にーちゃがそう言うなら仕方がないね」


 にこっと笑みを溢し、そのままカラスの腰に抱きつきその場を後にした。


「なんで、アイツの攻撃が効かなかったんだ?」

「さぁ……私たちの体、謎すぎるわね」


「……」


 今の光景を見ていた1人の人間。その人間の顔は、リオと瓜二つの顔のように見えた。

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