1章 人間の世界編〜日常①〜

05話 コウモリ一派の話

 ーーここはとある場所にある1つのアジト。レンガ調の真っ暗な部屋に1つのランタンがテーブルの上を照らしており、彼らの周りはほんのり黄色に光っていた。


 そう、彼らはコウモリ一派。1人の純血の吸血鬼に付き従う集団で、相当な実力者たち。コウモリ一派は全員過去に人間や身内に虐められていたり、過酷な運命を背負わされていたり、虐待されていたり、闇売買で売られていたメンバーがほとんど。かくいうリーダーのコウモリでさえ身内たちに虐められていた。コウモリはそんな吸血鬼の世界に嫌気がさし、長の命令無しに勝手に吸血鬼界を出て、人間界で吸血鬼の仲間を集め吸血鬼界に復讐をしようとしていた。



「……アイツ、よく言ってたよ。」

「何を?」

「「今の吸血鬼界が無ければ、今の長が、「混血嫌い」じゃなければ……お前らは“今”、自由を生きてるんだろうな」って」

「あはは、兄さんなら言いそうな言葉」


 そう笑みを溢したあと、すぐに俯きながらぐすんと鼻を鳴らした。


「セッちゃ。泣いてるの?」


 きょとんとした顔でセダムの顔をそのまま覗き込むスズラン。セダムは右手でスズランの頭にポンッと手を置き「うん、ごめんね……スズ、ありがとう」とぽつりと呟いた。


「セダム、コウのところに行くか?」

「うん、そうしてくる……」


 そう言うと立ち上がり目に涙を溜めながら、コウモリのところへと向かって歩いて行った。


「セッちゃ……」

「昔のことを思い出したんだろ、大丈夫だ、アイツに任せておけば」

「スズちゃ~ん!」


 壁に手をつき、ひょっこりと顔を出しながらスズランの顔を見ていた。スズランはきょとんとした顔で「んー? どうしたのー?」とそう言った。


「兄さんが呼んでるよ? 急用だって!」

「兄さんが? なんだろ~! 行ってくるね!」


 そう言うとパッと立ち上がり小走りでコウモリの部屋へと向かっていった。


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「大丈夫だよセダム。君のご両親は生きてるし、生き別れたお姉さんも生きてるから」


 セダムは目に涙を溜め、コウモリに頭を撫でられながら宥められている。彼は「うん、うん」と泣きながら答えると「顔を上げて、セダム」と声を掛けられセダムは顔を上げた。

 コウモリは机の引き出しを開け、レターセットとペンと1枚の紙を机の上に置いた。


「兄、さん、これは……」

「君のご両親とお姉さんは生きてるって言ったでしょ? 君のご家族に手紙を書くといいよ。住所はこの紙に書いてあるから」


 ぴくっと肩を鳴らした。「え?」と驚いたような表情をする。


「びっくりしました……生きてたんですね、俺の、家族……てっきり、もう……」

「俺は君たちを信用してるし、君も俺を信用してほしい。俺は君たちを大切に思っているよ、セダム」


 セダムは机の上に置かれたレターセットと紙とペンを手に取り、そのまま立ち上がった。


「はい、ありがとう、ございます……兄さん」


 頬を赤くし、優しい笑みを溢す。コウモリはその表情を見てにこっと微笑み、扉を開け居なくなるのを待った。


「人が悪いですよ兄さん。あんな“嘘”をつくなんて」

「……ルピナス、何が言いたい?」

「セダムの両親と姉は既に亡くなっている。と言ったんです。本当のことを言った方が良かったんじゃないですか?」

「君は本当にそう思う? セダムのご家族が亡くなったって」

「え。貴方も俺も、セダムの家族が死んでたところを見ましたよね? ……え、まさか、あの子の魔法を使って……?」


 冷や汗を掻きながらぽつりとそう言った。


「うん、使ったよ。コスモスの、「死者蘇生」の“魔法”を」

「無闇に使ったらあの子の寿命は……ーー!!」

「それを知ってて彼女は使ったんだ、「死者蘇生」の魔法をね」

「寿命なんていくらでも塗り替えられるよ、だってあの子の魔法はそういう魔法だからね」

「だけど俺はそんなの……!」


「「俺だったら使わせない」、か……ふふっ」


 何かを感じ取ったように急に笑みを溢すコウモリは、部屋の目の前に居るスズランに声をかけた。


「スズ? そこに居るんだろう?」

「はい……」


 スズランは扉を開け、とぼとぼと部屋に入ってきた。


「どうしたの、元気ないね」

「だって兄さん、コスちゃの魔法を使ったって言ってたから……僕、コスちゃが死んじゃうのやだ!」


 そういった瞬間「ううううう」と唸るスズランを驚いたように見つめるコウモリは直ぐに立ち上がり、そのままスズランの方へと歩いていく。


「やだあ……死んじゃうの、やだあああ…………」


 泣き出してしまったスズランをぎゅっと抱きしめ、「俺の仲間は絶対に死なせないし、殺させないから。だから泣き止もうよ、スズ」と、頭を撫でながらそう言った。


「兄さん、僕ね、みんなに生きててもらいたい。おじいちゃんが、そういう人だったから……」

「うん、知ってるよ。君の買い主さんはとても優しい人だったもんね」

「うん、凄く優しい人だった、だから……」

「スズ、そんなお願いを持ってる君にお願い事があるんだけど……」

「お願い事?」


 きょとんとした顔でコウモリの顔を見つめる。


「あの忌々しい吸血鬼界から、俺たち家族を殺そうと目論んでる吸血鬼が来てるんだけど、その吸血鬼たちを1人を除いて殺してほしいんだよ。カラスと一緒にね」

「えっ? そんなのやだ! 僕、兄さんたちと一緒にいたい!」

「でしょ? 俺は今こんなナリだし、幹部であるカラスとスズにお願いしたいんだ、引き受けてくれるかい?」


 スズランは「うん!」と頬を赤らめにこっと笑みを溢しながらそう言った。


「それじゃあにーちゃにもそのこと伝えてくるね! 兄さんッ!」


 そう言って彼は部屋を後にした。


「本当は君も行きたいんじゃないのかな? ジニア君、人間界に来てるみたいだよ」

「……? ジニアって、誰ですか?」

「そっか、ごめんねルピ。今の君に、彼の名前を言っても分からないよね」


 ぽつりとそう言ったルピナスの目は既に光を失い、まるで、コウモリに操られているようだった。

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