04話 ゴーレムを消滅させた特権

 なんであいつが生きているのか。訳が分からなかったが、人間界へと行けば何かわかるかもしれない。人間界へと行く理由が1つ増えた気がする……。


(今の長には俺らの言葉すら聞いてくれないだろう、だったら自分で、自分たちの力で奴に聞くしかない)


 リオは2人の顔を見つめ、黙って頷いた。


「行こう、人間界に」

「あぁ」

「えぇ、そうね」


 リオたちがそう呟いた瞬間、長からの念話はプツッと切れた。長から貰った荷物を持ち、部屋を出た。


 相変わらず空は赤黒い。

 彼らの周りには街頭しかなく、辺りは本当に暗く真っ暗で人間界へと行く街路は街頭がほとんど無い。吸血鬼の目は暗闇に肥えている為、全く問題がないのだが。


 人間界へと向かう道。その右界イーストにはでかい人喰い魔獣が出るという噂があり、あまり吸血鬼たちは立ち歩かない。人間界に行く前にここで魔獣に食われて死ぬ混血もしばしば居るくらい危険な場所。


「魔獣なんて居ないよな、大丈夫だよな」

「大丈夫だろ、万が一のことがあれば俺らの特権で潰せるさ」

「本当に大丈夫かしら……だって恐ろしいのよ? 恐ろしい魔獣が出るって…………」

「お前、ほんとに怖がりだよな、大丈夫だっ、て……」


 ドシンッ ドスンッ


 物凄い音、物凄くデカい足音がリオたちの近くを通過していく。


「近くに居るな、“動く石像ゴーレム”」

「お前の粉砕の特権でどうにか出来ねぇのかよ、辺りのゴーレムを、粉砕……」


 ビビビビビ!!!!


 鞄の中からアラームのような音が響く。この音は“近くにゴーレムが居る”と認識させる為の音。


「!」


 リオは後ろを振り向くと、木々以上に大きい動く石像1体が3人を見下ろしていた。


「グオオオオオオオオ!!!!!」


 大きな声、大きな音。リオたちは目を瞑り耳を塞いだ。それくらい大きい爆音。


 動く石像はジニアに向かって腕を振り下ろす。ジニアは耳を塞ぎながら腕を上に上げ、相手だけの重力を動かした。


 バキッ バキィッ……


 バラバラ……



 奴の腕のみ重力を動かし、そのままそのヒビが全体へと広がり動く石像の全体をバラバラに砕いた。


「よしっ……」

「倒したのは1体だけだ、他にもまだいる!」

「一応3の手に分かれよう、3人で移動してると的になる、合流地点は人間界へと続くゲートだ」


「「「了解」」」


 ジニアのその言葉に、リオとエリカは承諾した。


 リオは2人が居なくなったことを確認し、「すぅ……」と息を吸った後ブツブツと呟く。


「菫コ縺ョ隕ェ蜿九↓莉?↑縺吝?縺ヲ縺ョ謨オ繧呈柑谿コ繝サ謚ケ豸医○繧医?

 繝輔ぅ繝ォ繝「繝ウ繝峨?繧「繝ォ繝翫Ν繝ェ繝?ぅ」

(訳:俺の親友に仇なす全ての敵を抹殺・抹消せよ。

 フィルモンド・アルナルリティ)


 そう呟くとこの街路に居た動く石像たちは全て塵となった。辺りに音もしない。声もしない。リオの周りに何も居ないことは明らかになった。


 リオは静かに歩きながら人間界へと繋ぐゲートへと向かう。



「どうもリオ様、貴方様が一番乗りで御座います」

「ん、そうなの?」

「はい、長様から話は聞いております。お二方が到着するまで、こちらの待機室でお待ちください」

「分かった」

「ところでリオ様」


 ゲートを守る警備員は、きょとんとした顔でリオに問いかける。


「この森に居座る動く石像たちを始末したのはリオ様ですか?」

「ん、あぁ、そうだけど……」

「流石ですね、我々も困っていたのです、この吸血鬼喰い動く石像たちの存在が」

「あはは、そうだったんだね。でもこの俺の力はこの世界を脅かすもの。早々に居なくなったほうがいいんだよ」


 警備員はリオのその回答にくすっと笑みを浮かべた。


「我々の誇りですよ、貴方は。警備員ですらあの人喰い動く石像に手を焼いていたのですし。あの動く石像を殺してくれて嬉しい限りでございます」

「お前らだって、内心俺が居なくなったほうがいいと思ってるんだろ?」


「いえ、誰もそんなことは……」


 警備員の顔を見ながら「ハッ」と鼻を鳴らす。


「あれ、リオは?」

「居ないわね、もしかして、私たちが2番乗り?」


「リオ様は今待機室でお待ちいただいております」


 警備員は2人の声に気付き、ゲート前へと移動をしジニアたちに声を掛けた。


「あらそうだったの?」

「さっさとリオを出せ、純血の吸血鬼」

「……なんだよジニア」


 リオは警備員の真横を通り、ジニアに声を掛けた。

 警備員はリオがジニアに声を掛けた瞬間直ぐに、人間のゲートを開くというのを伝える。


「それではお三方が揃った為、人間界へと続くゲートを開きます。長様から聞いていると思いますが、伝承では我々吸血鬼は日光に弱い。その日光に弱い。というのは単なる噂で、本来は、日光の上では特権の力がとても弱まると言われています。ですがコウモリ一派はその日光を克服しており、やつらの特権の力は人間界では”脅威”となっています。貴方がたはその特権に十分に気を付け、人間界での生活を朗らかなものにしてください」


 そう伝えてくれた後、人間界のゲートを開けてくれた。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


 警備員は一礼をし、リオたちはそのままゲートの中へと入った。警備員は「ゲートを起動します」と言った瞬間辺りは瞬時に明るくなる。



 リオたちの脳内に女性の声で「2041年10月12日 レルファンシエル 転送致しました。」と呟いた。

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