02話 確信もない、道理もない、なんもない

 知らなければどうってことはない。だけど……


「なぁジニア」

「ん、リオ、どうした?」

「………………」

「?」


「さっきの、さ……」


 ブツブツと小言のようにそう言うリオを、きょとんとしながら見つめている。きょとんとした顔は途端に笑顔へと変わり、ソファを立ち上がりリオの真横へと座った。


「なんだよ、“ルピナス”のことか?」

「……お前の幼馴染の事、詳しく教えてほしいんだ。もしかしたら昔、お前の幼馴染と会ったことがあるかもしれないから」

「ぷっ急に何言ってんの? お前」


 フフッと笑みを溢すジニアの顔をリオはまじまじと見つめた。


「いいよ、教えてやるよ。親友の頼みだしな」


 ジニアは床に体操座りで座り、部屋の上部を見ながら口を開いた。


「アイツは、俺の幼馴染でお前がさっき言葉を漏らしてた、「記憶操作」の特権を持ってるんだよ。ルピはさ、俺とは違う純血の吸血鬼で、人間界に行った直ぐにさ……」


 表情が瞬時に暗くなり、直ぐに言葉を詰まらせる。


「奴に付いていっちまった」

「奴?」

「……ブルースターだよ」

「アイツ、俺にずっと「“力”が欲しい。お前を守れる力が」って言ってた。ブルースターに付いていけば力が貰えると思っていたらしい」


 ・

 ・

 ・

 ・


「馬鹿だよ。俺も、アイツも。……俺がしっかりしてたら、アイツを、ルピを、奴のところに行かせることは無かったんだ」


 、そんな生ぬるいものじゃなかった。

 ジニアの中にあるのはそう。――奴に対する「


 ただ1つだけだった……。




「…………アイツからの連絡、途絶えてんだ」


 俯きながら手元にあったスマホ画面を俺に見せてきた。そこには


 

 2031/5/10

 ジニア:そっちはどうだ? (既読)

 ルピナス:全然気楽!ボスもみんな優しいし! (既読)

 ジニア:そっか、お前が元気そうでよかったよ、何かあったら連絡しろよ (既読)


 2031/9/04 (AM)

 ジニア:ルピ、連絡無いけど、なんかあった? (既読)



 の文章の羅列。だけど日付がおかしい、今は2031/9/7。

 ジニアが言うには、

「ルピは連絡はマメなんだ、こういうときは絶対1日経てば連絡は来るんだけど……既読スルーなんてことはまずないんだ」

 とのこと。


 じゃあルピナスに何かあった。

 っていうのが妥当なんだろうけど、何の確信もなしにそんなこと言えるはずもなかった……。



「……連絡が途絶えるのはよっぽどのことがあるんだろうけど、今はそいつの安否確認が必要なんじゃないか?」

「そうか、電話!」


 ハッとしたように顔を上げ、急いでルピナスへと電話を掛ける。


「どちら様かな?」

「誰だお前、ルピは、ルピナスはどこだ!」


 ジニアのこの怒り様。ルピナス以外の奴が出たに違いない。


「ルピナス? あぁ……もしかして君は、リオ君のお友達のジニア君かな?」

「……質問に答えろ、俺の幼馴染は、ルピはどこにいる」

「ふふ……俺の近くにいるよ。君の幼馴染はさ、馬鹿で、愚かで、道理がなってない。」

「は?」

「殺してるとでも思ってるのかな、俺が“道具”を殺すわけがないだろう?」


 ――ふつふつと怒りが込み上げているのが、俺でも分かる。近くにいる俺やエリは、ジニアの心のうちの言葉が分かる為、瞬時に「これはやばい」と俺とエリとお互いの顔を見合わせ、ジニアに電話を切るよう説得をした。


「そこにいるのは、リオ君かな?」


 誰が押したかわからないが、電話通話モードがスピーカー設定になっていたらしく、静かな部屋にブルースターの声だけが響き渡った。


「……誰だお前」

「こう言えばわかるかな? ……君とはいずれ会える、自己紹介はその時にでも取っておこうか。ふふふ……」


(あれ、これ、どこかで……)


「やっぱり君は、特権が既に発現していたんだね」

「おまえ、急に何言って……!!!」

「ふふっ……安心しなよ、君は絶対俺のところに来るよ。“セツナ君”と同じようにね」


 そう言った瞬間、ぷつっと電話が切れた。

 エリカは困惑しているリオの方を見つめながら「リオちゃん、元々特権が発現していたって一体どういうこと?」とぽつり。


「あの話には、まだ続きがあるんだよ。医者に診せにいったときは俺の周りには赤色が漂っていた。1日後くらいにとある占い師に止められたんだ。その占い師は黒いフードを深く被っていて、表情や顔がよくわからなかった。その時その占い師に言われたんだよ、「お前を診てくれたあの医者はヤブ医者だよ」って……」

「ヤブ医者? 純血の吸血鬼なのよね? その人」

「……医者の全員が全員、そんな特権持ってるわけねぇだろ、偽造工作なんてよくある話だ」


 苦痛に歪んだ顔をしながら胸元を抑えながらそう言うジニア。


「偽装……俺には特権が、発現していた……?」

「……もしかしたらリオちゃんの特権は、「未来予知」の可能性があるわね」


 ぴくっと肩を鳴らしたリオはすぐに「よかった……」と安堵の表情を浮かべた。その安堵の表情を浮かべたのを見たエリはすぐに「緊張ほどけた?」と優しく声をかけてくれたのだった。


 俺の問題は終わった。

 次の問題は…………



 ジニアの幼馴染の、ルピナスの問題だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る