01話 純血と混血が仲良くするのは禁止

 この吸血鬼のセカイには朝と昼と夜が無い。

 無い。というよりかは朝・昼・夜と共に赤黒く真っ暗な夜に毎日包まれている為、いつ朝でいつ夜かが分からないというそんなセカイ。


 そしてここは、吸血鬼のセカイで云う下界の「ノース」。俺たちは「下界」であったり「ノース」であったり、呼び方は様々。ノースは所謂落ちこぼれたちが住む街で、人間の世界で云うならスラム街に近い街。吸血鬼界で落ちこぼれ認定されていたリオは、1人だったら両親の力でなんとかなったであろう純血の吸血鬼で、吸血鬼と人間が交わったことで落ちこぼれ認定として堕ちてしまった混血の吸血鬼と仲良くしていたということで、それが全体的な視野に入れられ、強制的にノースへと送り込まれてしまった。

 よく父親に言われていたのが「純血の吸血鬼ともあろうものが、混血の吸血鬼と仲良くするなど言語道断。即刻縁を切りなさい」の一言。「なんで?」とリオが聞くと「そういう“しきたり”なんだ、もし万が一俺の忠告を受けずに混血の連中と仲良くしようものなら、お前を混血の連中が住む下界ノースに強制的に行かせなくてはならないんだよ」と。

 つまり混血の吸血鬼は、純血の吸血鬼が扱える神からの授かり物である「特権」を扱えない。(という伝承で、その扱えない理由は定かではない。)特権を扱えない吸血鬼は、この純血が住んでいる優雅な生活は必要が無いらしい。だから長は下界というセカイを作り、特権が現れようが人間との血が混ざってる混血や、混血と仲良くしている純血の吸血鬼も同様に、全員下界に送り込まれるシステムとなっている。


 ……リオは両親の言われていた忠告事を全て無視し、いけないことだと理解し分かっていても、混血の友達を切り捨てることも出来ず常に仲良くしていたため、そのままノースへと強制的に送り込まれてしまった。



 ◇


「なあジニア、エリ。俺、思い出してたんだけどさ」


 料理を作ってくれているエリカはくるっとそのままリオの方へ後ろを振り向き、ジニアはいつものようにソファの上でゲームをやっていて、ゲーム画面にはLOSEと書かれた文字。LOSEと書かれていたゲーム機をそのままソファへと投げ飛ばしながら、リオの方へとそのまま視線を向けた。


「ん?」

「はああああ……お前が声かけたせいで負けちまっただろうが。どうしてくれんだよ」

「…………それは悪かったよ。」

「それで、何を思い出していたの?」


「俺がお前たちと仲良くして、ノースに送り込まれたことを思い出してた」

「あぁ……そんなことか。別にそんなこと気にすることないさ、だってお前は後悔してねぇんだろ?」


 ジニアのその言葉にリオは黙って頷いた。ーー後悔してない、するわけがない。だって友達と、あいつらと一緒に居ることが出来るのだから、今は凄く幸せだ。


「下界ってさ、凄く住みにくいって親から聞いてたからどんなものかと思ってたけど、結構住みやすくてびっくりしたよ」

「まぁリオちゃんが居た上界サウスよりかは住みにくいかもしれないわね」


 エリカのその「住みにくいかも」という言葉にリオは「それは違うよ」と言いながら、首を横に振った。


「俺は一番サウスが住みにくかったよ。純血なのに特権が現れなくて、親からも、サウスに居た友達からも勝手に落ちこぼれ扱いされて。けどさ、今は……」


 エリカとジニアはリオの次発する言葉が分かる為、鼻で笑ったり、微笑んだりしつつ照れくさそうにリオの方を見ていた。


「凄く幸せだよ。だって友達とこうやって一緒に居ることが出来るんだから」

「なんか真っ向からそう言われると凄く照れるな。なぁエリカ」

「そうね、そんなの私たちは分かり切ってることなのに」


「そういやお前、急に特権が発現したんだろ?」


 ジニアの言ってる通り、リオには既に特権が現れている。なんで今になって特権が発現しているのかわからないが、ちゃんと医者にも診てもらって「特権が現れない体」と立証されていた。


 それがなぜ医者にもわかるのかというと、基本産婦人科の先生たちは、純血の小さい胎児から中学生卒業までに持っている特権を見る目を持っているとのこと。それが医者たちの特権らしい。

「赤色」なら無特権、「黄色」なら今後発現する、「青色」なら発現している。に分かれているらしい。

 医者が言うには、リオの周りには「赤色」が空中に漂っていた、との事。だから「リオ君、君には特権は発現しない。この意味わかるよね?」と念を押されて言われてしまった。

 ーーと、そう医者に立証されたのにも拘わらず、リオには「粉砕」の特権が現れてしまっていたのだ。


「粉砕の特権ってさ、吸血鬼界を脅かす力、だよな。なんでそれがリオなんかに……」

「本来なら吸血鬼界を脅かす力が発現したら地下牢に入れられるのが鉄則よ、けれどリオちゃんには何者かが付いている。だから長もあなたには手を出せないんじゃないかって」


「……なあ2人とも、話が変わるんだけどさセツナって奴覚えてる? 確かアイツもリオと同じような特権持ってたよな」

「「崩壊」の特権よね、確か。しかも彼と同時期にリオちゃんの特権が発現するなんて、おかしいわよ」


 ◇


 ーー罪、罰。

 

 何故それがあいつらにかからないのか、恐らくそれはブルースターの手先の奴の「記憶操作」の特権のせいだろう。

 あれ? ……なんで、俺、わからない……ブルースターの事、そいつのこと、何も分からないのに……


 セツナって奴も、この世界を脅かす特権の持ち主で、こいつも俺と同じで特権が現れない純血の吸血鬼だった。……何か思い出せるのに頭にもやがかかったようで何も思い出せない……。


 誰かがそのことを思い出すのを阻止しようとしているのか……?


 いったい、なんのために……? 


 エリカとジニアが話しているのを見ていた俺は、ふと口を開け言葉を無意識に発していた。

 “ブルースター”、“セツナ”という名前を聞いた瞬間2人は驚いたような顔をして俺のほうをじっと見つめる。


 訳も分からなく2人に急に見つめられたリオは慌てふためくしかなかった。そんなリオをじっと見つめながら、ジニアは小声で

「記憶操作……? まさか、な……アイツが、そんなこと……」と小声で呟いた。


 エリカは聞こえていなかったようだがリオははっきりと確かに聞こえたのだ。

 ジニアが、記憶操作の特権の持ち主のことを知っているということを。

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