第12話 武闘家シスター

「はいはーい、三名様ご到着ですー」


 バンシーが滑るように停車した。クレインは荷台から降りる。遠くに雪の被った霊峰が見える。崖の上に、教会があった。それは黒鉄の城壁を構えていて、まるで王宮のように広大で沢山の建造物が並び立っていた。教会というよりもそれは城下町の都市群といった方が正しい。


「教会というにはスケールが違うのではないか」

「ご主人様、教会というのは我が国の三権の一つであり、その総力は騎士団に匹敵します。この教区は一つの王国と捉えてもいいかもしれません」


 カトラリーが遥か高く、閉ざされた門に触れた。黒い門に黄金色の紋章が浮かんだ。


「なんだそれは魔法か」

「魔物避けの神聖術です。大地のマナを消費する魔法とは違い、これは祈祷による神からの祝福です。解除の祈りを捧げますのでお待ちを」


「それ、私にやらせて。やりたかったの」


 ロップは黒鉄の門に右手で触れた。左手を握り拳にして自身の胸につけた。


「20ある祝福の言葉。人を構成する神の螺旋。これは第一となるもの。叫ぶプロタート!」


 ロップのぴっちりしたバニーガールの身体がゆるやかに発光した。輝きに吸い取られるように、門に浮かぶ紋章の光が消えていく。黒鉄の門が鳴動し、自動的に上へと引っ張られていく。


「凄いなロップ、よく知っていたな」

「冒険者なら誰でも知っているよ。魔物の討伐をする時、危険区域に立つ教会には中継地点としてお世話になるからね。一度来てみたかったんだよね、冒険者にとっては手厚いサポートが受けられるみたいで」

「ギルドと教会は協力関係にあるのだな」

「ところでこの門どうやって開いたの、誰もいないんだけど」


バンシーが門をくぐっていく。門番はいない、完全に無人のようで機械的に動いていた。



「この教区では細かいことは気にしない方がいいと思います。神の力ですから」


 門内には広い庭があり、立て看板があった。『ようこそ、冒険者の皆様。左、馬小屋。右、第一教会』


「だってさバンシー」


 左には馬小屋があって、他の冒険者の持ち物だろう馬達が繋がれていた。


「僕を仲間外れにしないでよ。こうすれば一緒に行けるでしょ」


 馬の姿が霞んで、黒い蚊柱になった。中からフリフリドレスの金髪褐色幼女になった、バンシーが現れた。

 馬車の荷台とバンシーの蟲は他の馬と一緒に置いていく。ロップの長すぎる杖など必要最低限の物資だけ持っていく。


「はいはーい、可愛いバンシーちゃんがお訪ねだよ! ごめんくださーい」


 第一教会と書かれた建物の扉を、バンシーがポニーテールを揺らしながら叩く。ここを通らないと教区の他の場所に行けない道順になっているようだった。


 門を開くとだだっ広い教会。祈りのための座席と祭壇。ステンドグラスから差し込む陽光に照らされた、厳かな場所に人はいなかった。


「んっ……んっ! あぁっ! んんん~っ!」


 くぐもった声と、ポタポタと何かが垂れるような水音が聞こえる。人の姿は見えない。祭壇の向こう側にいるのだろうか。


「なに!? なんかえっちな声が聞こえるんだけど!」

「メイドたるもの静かに聞いてないフリをするのは得意です」

「みんな、一旦外に出よう」

「ちょっと見学しに行ってきまーす!」


 バンシーは腕を広げて、てててと祭壇の方に走っていった。裏を覗いて「うわっ! はげしー!」と馬耳をピコピコさせていた。


「おい、こら! バンシー!」


 クレイン達は急いで後を追った。鎧の姿だが、クレインは早かった。

 決して見たいわけではないと、己の心内で叫びながら。


「んっあっ! ふぅあ! あんっ! きついー! あと……いっかぁい!」


 祭壇裏では教会のシスターが喘いでいた。床に這いつくばり、淫靡な桃色の髪を乱しながら腕立て伏せをしていた。


「んあああっ! 二百回ぃいい!」

「……何をしているんだ?」

「はぁ……はぁ……あらあら、ご客人でしたがこれは失礼しました。見ての通りの筋トレです」

「筋トレ? シスターが……? ふむ、珍しい御仁なのだな」


 シスターはフラフラと立ち上がる。紺色の修道服がジットリと濡れていて、桃色の長髪から汗が垂れている。

 そんな恰好で筋トレだとクレインは疑問に思ったが、彼女の恰好は驚くほど軽装であった。上半身の半分までしか服の布がなくて、胸には垂れ幕のようなものが一本ずつ降りているだけだ。まるで乳にかけるカーテン。横にも下にも覆う布も無かった。 

 彼女は真正面から横乳が分かるほど巨大で、きっと腕立て伏せをしたら乳房が地面に着くのではないか。汗ばんだヘソが丸見えで、下にはスパッツだけ履いている。よく発達したフトモモはムチムチとしている。

 頭のベールはとても長く、それでシスターは額の汗を拭った。修道女らしいそれは汗拭きタオル代わりらしい。


「シスターって清貧を表す恰好をしているんじゃないの、えっちなんだけど」

「あらあら、魔法使いのバニーさん神の家は初めてですか。布地が少ないからこそ、清貧を表せるのですわ。贅沢な恰好は出来ませんので、これが教会の正装なんですのよ」

「ごめんねウチのものが。でも、ウマ界一般から言わしてもらうと……君はとてもエッチエチだね。爆乳エロシスターが! 」


 バンシーが修道女の二の腕や脇腹をタッチしていく。


「あぁん! こら触っちゃダメですよ。今筋肉をイジメいたから、とても敏感で……いやぁん!」


 シスターは痙攣するように、ビクビクと身体が跳ねている。


「これで本当に鍛えているのかな、柔らかいんだけど」

「い、インナーマッスルを鍛えているのですわ……っ! 馬耳のお嬢さん」

「そんなムチムチで? 爆乳おっぱいで!?」

「知らないのですか、巨乳はこの大きな乳房を支えるために肩や胸の筋肉が発達するのです。バストサイズは力持ちの証なのです」

「へー、ウマ初耳だよ」

「ワタクシとしてはお嬢さんたち、ご一行にとても興味が湧きますわ。普通の冒険者ではありませんね。ですが、王国のメイド騎士がいる以上、これは込み入った事情なのですわね。何も聞きませんわ」


 修道女はバンシーの小さい頭を撫でながら、カトラリーにウィンクする。


「ありがとうございます。大司教まで、ご連絡をお願いします。レフェルガベル親衛隊、隊長カトラリー・マリオネットの名前で分かると思います」


「かしこまりですわ。パワー教徒、第一教会修道女、案内係。エンジェルン・アスパラガスがご案内いたしますわ。まずは武器をあそこの棺の中に置いてください」


 シスターは教会隅に置かれた棺桶を指さした。それは大きく物々しい黒いハコで、金色の文字が呪文のように彫られている。


「教区は武器を持ち込めないのか」

「はい、いかなる武力もダメですわ。教会は武器を持つことを許されていません、それは神のご意思です。この場所は完全平和を成し遂げているのですから」

「了解した」


 クレインは背中の大剣を外し、棺の中に置いた。


「えー、杖もダメなの」

「もちろんですわ、バニーちゃん。魔法も武力ですので、禁止されています」

「僕はなーんも持ってないよー!」

「これでいいですね、行きましょうご主人様」


 カトラリーはレイピアと短剣を机に置いて、クレインを急かした。

 踵を返す彼女のロングスカートをエンジェルンが掴み、たくし上げた。


「ひゃん!」

「お待ちください、メイドのカトラリーさん。まだ武器をお持ちですよね」

「しょ、証拠はあるのですか」

「神は全てお見通しです。そのスカートの中の全てをお出しして頂かないと、教会の先へは進むことは叶いませんわ」


 鏡が太陽の光を反射するような、鋭い光が漏れた。一瞬、エンジェルンの片目が発光しているように見えた。


「申し訳ありません、ご主人様をお守りするために一本だけでも持っていこうとしたのですが」

「私のことを思ってくれるのはありがたいが、大丈夫だ。しっかり出しなさい」

「はい、分かりました」


 エンジェルンはメイドのスカートをめくりあげた。ふとももを這い上がるガーターベルト、黒レースの下着が晒される。雲の隙間から雨が降り注ぐように、スカートの中から剣が続々と落ちてくる。

 棺に十何本もの剣がぎゅうぎゅうと押し込まれた。どこにそんなに入っているのだろうか、毎度ながら彼女の剣には驚かせられる。


「ひゃんっ!」

「こんなにも沢山咥えこんでいるのですわね。たっぷり出してもらわないと困りますわ」


 エンジェルンがスカートの中に手を突っ込み、一本ずつ丁寧に武器を抜いていく。


「んっ! も、もう終わりです! スカートから手を離してください」


 カトラリーが強くスカートを抑えていたが、エンジェルンの手の動きが止まることは無かった。


「あと一本ありますわよね。そのパンツの中に」

「うっ……そこはダメです! 出します! 出しますから!」


 エンジェルンによって素早く、メイドのパンツがずり下ろされた。シスターの顔が邪魔で中は見えなかったが、彼女は勝ち誇ったように小さな針のようなナイフを掲げていた。それには小さな鞘が付いていて、少し前にバンシーの寄生虫の粘液にまみれていたせいかヌメっていた。


「さて、これで全部ですわね。武器はお帰りの際に、お返しします」

「うぅ……メイド失格です」


 棺に鍵が掛けられた。その時、教会の扉がまた開いた。


「あらあら、今日はお客様が多いですね」


 入ってきたのは冒険者の男が三人。全員が筋骨隆々の身体をしていて、急所のみを守る軽鎧をまとっていた。旅のベテランという風格があり、彼らには倒してきた魔物の返り血らしきものが付いていた。


「邪魔するぜ」

「クトーニアン王国領の教会は初めてきたな。可愛いシスターちゃんがいるといいな」

「おいおい見てみろよ、当たりだぜありゃ」


 男達はエンジェルンを見て鼻息を荒げている。手をわきわきとしている。冒険者らしい日焼けして荒野の岩みたいな肌が、ニヤケて砂崩れみたいになっている。


「ようこそパワー教会へ、冒険者の皆様。ここから先は武器の携帯を禁じておりますので、お腰につけた剣を預からせてもらいます」

「おいおい、シスターさんよ。俺達冒険者はこの剣で魔物を倒して生きてんのよ。これが傍にないと夜も眠れないってね」

「ですが、ここから先は神の家ですわ。何人たりとも、例外なく武器の所有は認められません」

「分かってないな、爆乳さん。教会じゃ誰も武器を持てないって知ってるから、襲いにきたんじゃないか。金を持ってこいよ、あとそのおっぱい揉ませろ」

「あらあら、そうでしたか。ご理解しました」


 まずい略奪者だ。そう思った時、クレインは駆け出していた。その時、エンジェルンは振り返り、ご心配なくというように唇に指をあてていた。


「おら、従えよ!」


 男の手が伸びるより早く、エンジェルンは開脚し、腰を落とした。男の拳が彼女の頭上を通過していく。


「よく理解しました。貴方たちには神の裁きが下りるでしょう。神の一撃、ゴッデスハンマー!」

「あ? なんだ……ぎゃああ!」


 握り拳を男の腹に送る。腰の入った正拳突き。男の腹に巻いた鎧ごと砕き、屈強な肉体を吹き飛ばした。

 残りの二人の冒険者は、即座に剣を抜いた。


「な、な、な! こいつただの修道女じゃねえ! 武闘家シスターだ!」

「バカ野郎! いくら格闘家だったといって剣に敵うはずねえんだ!」

「不敬な貴方たちに教えてあげましょう! 我らの主神パワーは鍛錬と筋肉を司るもの! この教会で身体を鍛えていない信徒は一人としていないですわ! 見なさい、これがシスターの戦い方です!」


 エンジェルンの拳は、冒険者が振り被る剣を真正面から砕いていた。どうやら拳は鋼より硬いらしい。

 その拳が男の頬を殴りつけていた。岩のような肌が衝撃で波打ち、モンスターのように歪んだ顔で飛んでいった。


「もう無茶苦茶だよ」


 クレインは呟いた。最後の一人は逃げようとしたところを押し倒された。エンジェルンは馬乗りになる。スパッツを履いた滑らかな腰使いで、男を足で拘束した。


「ひいい! 助けてくれ!」


「まだ教義は終わっていませんよ。人を殴る時や剣を振る時、または筋トレをするとき。人は叫ぶと身体が活性し、普段よりも力が出ます。我らはここぞという時、神の名を叫びます。このように」

「やめっ! やめっ! ぐふぅあ!」

「パワー!」

  

 彼女が殴ると男の歯が何本も飛んで行った。流石歴戦の冒険者なのか、まだ意識を失っていない。


「パワー! パワー! パワー!」

「あがが」

「もし改心し、同じ信徒になってくださるのなら、ぜひ唱えてみてください。無限の力が湧いてきます。さあご一緒に……パワー!」


 何度も馬乗りのまま殴打し、やっと彼は大人しくなった。エンジェルンは立ち上がり、汗ばんだ髪をかき上げた。


「お見苦しいところをお見せしましたね。あらためまして、教区をご案内いたしましょう」

「見事だ! 腰の入ったパンチ、無駄のない動き。美しく、そして力強い。まさしく女神の戦いだ。その肉体美に私も目を奪われ……!」


 クレインは前かがみになって、兜がズリ落ちた。からんという音と共に、エンジェルンが鎧の中を覗き込んできた。


「あら、お兜が……大丈夫ですか? 中身がないですわ」

「よせ離れていろ、君は刺激が強すぎるのだ……うっ!」


 汗のように溜まる、じっとりとした劣情。鎧の内側で乾くことのない液体が、聖なる色になって噴き出した。


「いやんっ!」


 ベールの上からエンジェルンを汚していく。桃色の髪が真っ白になって、液体が胸の垂れ幕を湿らし、横乳を這いまわるように流れて、丸見えの下乳までを舐めていく。汗と白濁液が交わり、いつもよりも滑らかに女体を滑っていく。白い水たまりに、エンジェルンはへたり込んだ。


「すまない、私は人間ではないのだ。化け物が神の家を汚してしまった」

「あらあら、これはいっぱい出ましたね~。ぜんぜんいいですよ、神は平等です。それに白は聖なる色ですから」


 エンジェルンは唇を舌でぬぐって、白濁液を舐めとった。ごくりと喉を鳴らしていた。


「濃厚ですわね、貴重なタンパク質をありがとうございます」

「お、おう」


 笑顔で飲み込むエンジェルンを見て、クレインは気圧された。


「なに教会でやらかしているの、クレイン様!」

「追い出されたら、どうするの!」


 バンシーに兜を無理矢理ハメられて、上からロップに叩かれた。

 カトラリーがハンカチを取り出して、エンジェルの身体を拭き始める。


「ご主人様が粗相をしまして、申し訳ありません」

「いいえ、大丈夫ですわ、これも筋肉の糧になりますので――むしろ、もっとください! 騎士様、もっとぶっかけてください!」


 エンジェルンは液体が滴るなか、立ち上がり迫ってくる。


「いや……あの、ちょっと。賢者タイムです」

「賢者タイムとは何でしょうか」

「その、クールタイムというか。溜まるまで時間がかかるんだ」

「なるほど、祈りの時間という訳ですわね。待ちますわ、終わりましたら教えてください」


 エンジェルンは指についた分を舐めとって、キレイな指で手招きした。


「では首なし騎士様ご一行、教区をご案内いたします」

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首なし騎士のぶっかけ異世界転生 宮野アニス @a-miyano

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