第8話 運河の国バハルビクトリア~アメジスト王妃視点~

「金が無ければ隣の国から貰えばいいじゃない」


 王妃アメジストの発言に、一族一同は深く頷いた。王家の会議室は最早リビングである。

 右手を振れば金が降ってくる、そんなポジションに彼女は満足している。


「素晴らしい、自慢の娘ね」


 王女を引退した母の笑顔は、昔は怖かった。でも今はしわくちゃの顔で、娘の私をよいしょするだけの身内だ。


「そうでしょう、私は母の子だから」

「アメジストは昔から聡明だったねえ。


 叔父も祖母も弟も……一族はみんなアメジストを褒めちぎる。政治の道具として売ったくせに。そんな感情を押し殺して、アメジストは謙遜をする。


「いいえ、皆さんに育てられたおかげですよ」



 この運河の国、バハルビクトリアに政略結婚で送られた時、彼女は絶望していた。兄は一国の王で妹の自分は、ご機嫌取りに売られるという落差。

 けれど天罰だろうか、一国の王である兄は死んだ。自殺だったらしい、それを隠したいのか隣国クトーニアンは従順になった。そのまま強請っても良かったけれど、一族を抱き込んで国外逃亡させ傀儡政権にした。兄の研究していた黒魔術のせいか、あの国にいたら呪い殺されると言ったら、簡単に一族揃ってこっちに亡命してくれた。

はした金をせびるより、政権を奪った方が兄の愛した国から尊厳を奪える。我ながら完璧な作戦だったと、アメジストは思う。

 向こうの国民がどうなろうと、構わない。自分が幸せならそれでいい。一族みな、そう思っている。


「ではクトーニアン王国へ書面を送ります」


 アメジストの傍に仕えるメイド騎士が、後ろから声を発した。

 

「頼むわ、シトリン。文面はこうね、『拝啓、いやしいメス豚メイド達へ。黄金で出来た客船が欲しいから、とっとと金をよこせバカヤロー。敬具』

「かしこまりました」


メイド騎士の一人が、アメジストの元へ紅茶とケーキを配膳してから部屋の外に出て行った。


「さすが我が姫、素晴らしい文章センスだ。君に外交を任せて正解だった。いいや、君と結婚して余は幸せ者だ」


 バハルビクトリア王、年の割に若く甘いマスクをしていて、惜しげもなく王妃に笑顔を見せてくれる。運河の国を統治し、最も平和で豊かな国と称えられた賢王も、今や妻の尻に敷かれている。

 当たり前だ。王は運河の国だけを統治している。アメジストはこの国と隣国クトーニアン、両方を支配しているのだ。王さえも私におべっかを使う。アメジストは、その事実に笑みがこぼれる。


「ふふっ、お上手ね。ダーリン」


 机の上にあるチーズケーキに、アメジストはフォークを突き立てた。大口をあけて咀嚼すると、彼女はすぐに顔をしかめた。


「うっ……変な味がする」


 口に入れたチーズケーキを皿に吐き出すと、真っ赤だった。血の味がしたけど、口の中に痛みは無い。もう一度アメジストはえづいた。吐き出されたのは蚊の死体。血を吸った虫がいつのまにか入り込んでいたようだ。


「ちっ、忌々しいメスメイド! シトリン……後でお仕置きね」





「ひっ! ごめんなさい! ごめんなさい! 王妃様っ! お許しください!」


 王城にあるアメジストの三つ目の自室。王ですら入れない防音室に、メイド騎士の嬌声が響き渡る。アメジストが響かせる。

 鎖を両腕に巻き付け、天井から吊り下げられたメイド騎士。黄色髪のシトリン。後ろからムチで打つたび、メイドの身体がビクンと跳ねる。


「よくも私に虫入りケーキを食わせたわね! このっ! このっ! あれほど料理には気を付けろと言ったのに! 」

「申し訳ありません! お出しする前に確認したのですが……どこからか……」

「なに? つまりは私の不注意だと言いたいのかっ!」

「い、いえっ! 滅相もありません! 口が滑りましたっ、もうこれ以上はや……ひゃぐぅん!」


 ムチを更に十回も振るう。メイド騎士はびくんと震えて、動かなくなった。


「まったくこの国には舐めた使用人しかないわね」


 アメジストは窓を開けた。椅子に腰かけ、冷めた紅茶を飲む。淹れなおして貰うにも、使用人が気絶しているのだから我慢するしかない。

 景色は良い。この国の繁栄の証である運河が、王城の自室からよく見える。この運河による貿易のおかげでこの国は豊かなのだ。

まだ昼には早い陽光によって、運河は照らされている。激しい照り返しの中、輸送船がひっきりなしに往復しているのが見える。

 その運河のほとりに立つ、人影が目に入り込んできた。遠くにいるはずなのに、なぜかはっきりと感じた。

 小さな子供。フリルのついたドレスは分かったが、表情は分からない。けど、なんだか笑っているように見えた。こっちに手を振っていたからだ。いや、向こうから城の部屋を覗けるわけがない。


「あぅっ……ぺっ! な、なんなのよ」


 紅茶を噴き出した。舌の中に感じる違和感。吐き出したら、そこには千切れた羽がカップに浮いていた。


「また虫……」


 顔を再びあげると、運河にいた子供はいなくなっていた。代わりに一頭の馬がいた。船に乗る、貿易商人の持ち物だろうか。




「王妃さまっ! おやめください、それはおじさんの大切なきんのたまですぞ」


 昼下がり、輸送船の船倉をアメジストはひっくり返した。貿易商は嫌な顔をしていたが、いつものことで無視した。港に入る船に不審なものがないか視察する、姫の公務を邪魔しないでもらいたい。


「我が国が関税をとても安くしているのは分かるでしょ。だから暗黙で献上品を頂くことになっている、それはこの国と商売しているなら誰もが知っているでしょう」

「そ、それは存じておりますが……その黄金球は取引先の指定の品でありまして、それがありませんとお得意様と、今後取引が出来なくなってしまいます」

「王妃の私が金の玉を気に入ったと言っているのですよ。たかが一つの取引先を潰されるのと、この船を不審船として接収されるのどちらが良いですか。私の騎士が入口のそこにいますよ」


 貿易商が船倉の入り口をチラと見た。メイド騎士のシトリンが、腰につけた剣を少しだけ鞘を抜いた。その仕草に、貿易商人はビクと身体を震わせた。


「は、はい。分かりました、どうぞ好きなだけ持っていてください」


 貿易商人は船倉の外に出て行ったので、アメジストは荷物を自由に物色した。

 珍しいサラマンダーのなめし皮に、ゴーレムの魔力石ランタン。魅力的な品がいっぱいあった。


「シトリン、あれとこれとそれとそれも持っていきなさい」

「かしこまりました」


 メイド騎士は私のオーダーした分の木箱をいくつも重ねた。天井につくぐらい大量の荷物を軽々運んでいく。大の大男でもつぶれそうなほどの重量だけど、彼女は汗一つかかずに運んでいった。メイド服の内側は、指導鞭撻で赤く爛れているだろうに気丈なことだ。そういう性格だから、アメジストはシトリンを一番身近に置くのだ。


「ああっ!」


 船倉を出ようとした時、アメジストは床を踏み抜いた。海水と湿気で緩んでいたのか、下に落ちてしまった。


 下は水をためるバラスト室だったのだろう。少しだけ水が残っていて助かった、ドレスが濡れた。水は満タンではなく溺れる心配がないのが良かった。


「シトリン! 落ちたわ、助けに来なさい」


 大声をあげるが、全く来る気配がない。あの駄メイド、帰ったらお仕置きね。

 アメジストの手に何かが触れた。小動物のようなくすぐったさ。上からの穴からの微かな光を頼りに、その動物を見た。それは首のないネズミだった。まるで刃物によって首が断絶されている。首のない顔でこっちを見た、生きている時のように何かを嗅ぐ動作をして、後ろ足で立ち上がった。


「いやっ! なによあれ」


 ネズミは何回かアメジストの匂いを嗅ぎ、そしてパタリと倒れて動かなくなった。アメジストは立ち上がった。この部屋は水に濡れているのではないということが分かった。自分の手についているもの、ドレスを濡らしているのは血だった。


「いやあああっ! 助けて! シトリン! シトリン! シトリン! 」


 壁を叩いて大声をあげた。上の穴からは何の気配もしない。


「うっぐ……ひっく、ひっく」


 隣の区画から少女のすすり泣くような声が聞こえる。輸送船の中に少女がいるはずがない。


「いやあっ! いやあっ!」


 アメジストは壁から離れて後ずさる。また動物が感覚がして、アメジストは暴れた。

「いやだっ! 殺さないで! 殺さないで!」

「王妃様、どうされたのですか! しっかりしてください、シトリンです。貴方のメイド騎士ですよ」


 後ろから羽交い絞めしてきたのはシトリンだった。気づかなかった、いつのまに降りてきたのか。


「血がっ! 血が!」

「王妃様よく見てください、大丈夫ですよ」


 手や身体を濡らしているのは、ただの海水だった。血などなかった。でも首のないネズミの死体は、そのまま船室の隅っこで転がっていた。





「どうされたのですか、いつもの社交界の時間ですよ」


 城に戻って、アメジストは布団を被って震えている。シトリンが心配して外に連れ出そうとしてきたが拒否した。


「ふざけないで! あんたはこっちの国の人間だから分からないのよ! 首なし騎士の伝承を! あのネズミはその暗示……奴が暗闇から来ているの」

「首なし騎士ですか」

「首のない不死者は彷徨い、無差別に切り殺す。会わなければいい、違うわ。追ってくるのよ沼の底から這いよるように。死人の船に乗って、死を与えにくる」

「王妃様は何も罪を犯してはいません」


 アメジストは覗き込むシトリンの胸元を掴んだ。


「違うのよ! 私達王家は売国奴なのよ! 王家の人間として最大級の罪を犯したのよ! 私の国の伝承が、私を殺しに国を超えてきたのよ! あの怪異が殺すのは悪い人間だけだもの!」


 ノックがした。


「お客様ですね、お迎えにいきます」

「待ってシトリン、扉を開けてはダメ!」


 シトリンは扉の前で立ち止った。疑問を浮かべたようにこっちを向いた。その時、扉が外から開けられた。


「きゃああっ!」

「おい、王に扉を開かせるのか」

「も、申し訳ありません」


 シトリンがすぐに頭を下げる。入ってきたのはバハルビクトリア王であり、アメジストの夫だった。


「王、わ、私の部屋に何の用ですか」

「いつもは社交界でパーっとやるのがお前じゃないか、具合でも悪いのか」

「い、いえそういうわけじゃないわ……昼間、輸送船の視察に行って疲れただけよ」

「そうか、また好きなものを貰ってきたんだな。今度はどんなおもちゃを奪ってきたんだ」


 部屋の隅に、シトリンが持って帰ってきた木箱が積まれていた。その一つの箱が空いていた。


「えーと……シトリン、箱を開けましたか」

「いいえ、触っておりません」


 王が開けた扉が閉まった。燭台の火が立ち消えた。暗闇の中、何かが蠢いた。床がギシと鳴ってたわんだ、重量物だ。わずかな月光に照らされて、金属らしきものがチラリと光った。


「あばば!」


 王の身体が宙に浮いた。頭を何かに鷲掴みにされているのだろう、首が不自然に伸びている。呼吸が乱れ、壁に投げつけられた。王はピクリとも動かなくなった。


「いやあああっ!」

「おさがりください、王妃さま!」


 シトリンが何者かと、アメジストの間に割って入ってきた。腰の鞘から、剣を抜いた。わずかに入る月光に、刀身が一瞬煌めいた。その光は、闇の化け物からも発せられた。向こうも剣を持っているのだ。


「た、頼んだよシト……」


 一瞬でメイド騎士の身体が飛ばされた。剣の破片とメイドがアメジストの横を抜け、カーテンと窓を吹き飛ばして王城の五階から落ちていった。


「王国最強騎士が一撃……あはは! やははは!」


 アメジストは振り返って全力で走った。割れている窓から飛び出した。五階分の高さなんて気にしている暇など、無かった。


「ひゃぶっ!」


 何かがクッションになって着地した。ヒキガエルを潰したような声がしたが、無視した。アメジストは脇目を振らずに王城の庭を走り抜ける。


「お、王妃……さま……ご……ぶじ……ごぶっ! お待ちくださ……」


 変な声がしたが無視する。構っている余裕はない。死んでないなら、死ぬまで尽くせ。私は逃げる。

 庭に集まってきた王国騎士達の悲鳴が背後から聞こえた。お伽話の死なない化け物に敵うはずがないのだ。アメジストは振り返らずに逃げた。




「助けなさいよ! 私はこの国の王妃よ! 誰か、誰かいないの!」


 王城を捨て、街の中を走る。誰もいなかった。沢山の家があるのに誰も出てこない。巡回の騎士もいない。ひとっこひとりいなかった。だが、とてもうるさく、黒い煙のようなものが街を覆っていた。いや、それは煙ではなく蚊の群れ。羽音がオーケストラのような大音量で流れている。


「なんなのよこれは! 誰かいないの! 助けなさい! ここに王妃がいるのよ出てきなさい!」


 アメジストの叫びは、大量の蚊の羽音に掻き消された。

扉を叩いても出てこない、当然だ。こんな爆発的な大量発生に、恐れおののき、吸われまいと逃げ出した。どいつもこいつも閉じこもっているのだ。蚊は疫病を運んでくると伝われているから。


「どうなっているのよ、この国は! もう嫌だ! 故郷に帰りたい! 帰らせて!」


 やがて街の中心にある運河が見えてきた。この国の繁栄の証であり、安らぎのせせらぎ。青い流れに身を任せれば、故郷のクトーニアン王国まで流れ着くかもしれない。


 アメジストは運河の前で立ち止った。その場で膝から崩れ落ちた。原因がそこにあった。


「なんで……そんな」


 運河の水が真っ赤だった。鉄臭いにおい、むせ返るような血の匂いが入ってきてむせた。この血の流れに引き寄せられて、あんなにも蚊が大量に湧いていたのだ。

 魚たちは白い腹を見せて大量に死んでいる。死肉を貪ろうとした鳥たちも蟲にたかられ、血の川に落下していっている。

 もうこの国は終わったのだ。と、アメジストは思った。


「あはは!」


 少女の笑う声が聞こえたように感じたが、それは幻聴だった。大量の蟲の羽音が、叫び声や笑い声に似たノイズを発している。

 大群の蚊がアメジストを飲み込むようにやってきた。群れの塊はまるで雷雲のように漂ったかと思うと、集まり一体の動物のように振舞った。それは魔法のようにして実際の馬になったのだ。美しい金のたてがみと闇のような黒馬が目の前から出てきた。


「びっくりした? いいよ、おもらししても」

「ひぃい! 馬が喋った!」

「なに、そんなに驚かないでよ。クレイン様と違って僕の知名度ってないのかな? そうだね、嘆きの亡霊バンシーとして覚えておいてくれたまえよ」

「うっ! 蚊が! 蠅が!」


 羽音が聞こえる。一匹の蚊が腕に止まった時、アメジストは身体を震わせた。


「ああ、血を吸われたら病気になるかもね。五百年ぶりに使ったから加減は難しいかもしれない。疫病を撒き散らすのが僕の能力だ。虫や家畜を手足のように使って感染させるだけじゃないよ、毒素を強めたり弱めたりもできる。君を内側から自在に苦しめることが出来るんだよ」

「いやっ!」


 アメジストは手に着いた蚊を潰した。なんてことはない、その蚊の身体からは血が出てなかった。


「あーあ……まあ、身体に気をつけてよ。僕はクレイン様を迎えに行かないといけないから」


 それはまるで幽霊のように、滑るようにして王城の方へかけてゆく。


 また別の蚊の大群が次々にやってきた。あの馬がばら撒いた蚊は血の運河によって育まれ、どんどんと生まれているようなのだ。この血の運河がある限り、永遠に疫病を媒介する蚊が増え続ける。


 蚊がたかり始めた時、馬の足音が聞こえた。蹄のなる音が近づくにつれ、その音に怯えるようにして蚊がアメジストの身体から離れていく。

 そして、その馬はお伽話を連れて帰ってきた。

そして、金属の鎧をつけた騎士が現れた。

 金のたてがみをした黒馬に乗り、兜のない鎧を着た騎士。



「この国の騎士は弱いな。クトーニアン国のメイド騎士たちはもっと強かった。この程度の武力でよくも、あの国を好き勝手搾取できたものだな」


 首のない鎧が、顔もないのに流暢にしゃべり始めた。


「首なし騎士いぃ! 私を殺しに来たの」

「殺しはしない。王も王家の人間も、誰一人まだ殺してはいない。全員が全員、屈服したぞ。この国を牛耳っているのは王妃アメジストだと恨み言を言って……」


 淡々と騎士は言った。全ての騎士を倒し、王家を脅して、国をのっとった風な口ぶりだ。いや本当にそうなのかもしれない。鎧のところどころには返り血が付いていたし、シトリンが負けたのははっきり見ている。メイド騎士筆頭の親衛隊が破れれば、誰が勝てるというのだろうか。


「私に……何を言わせたいの」

「他の人間は全員意識が無いからな。王妃、貴様が決めろ、クトーニアンへの傀儡政権を今すぐやめ、不平等な条約も解消を求める」


 首なし騎士は剣を抜いた。それはメイド騎士と切りあったのだろうか、激しく刃こぼれしていた。赤い刀身が砕けて、まるでノコギリのようになっている。それが自分の肌に触れる、そんな想像をしただけで身の毛がよだつ。


「ひっ! こ、これ以上何かするっていうの!」

「血の運河も、数日もすれば自然の自浄作用で元の綺麗な水が流れてくるさ。だが、クトーニアンへ何か一つでも不義を起こせば、私はもう一度来るぞ」

「僕も一緒だよ。クレイン様が運河を血に変えて、僕が疫病持ちの蟲をばら蒔くんだ。どうなるか分かったでしょ。血の川がある限り、無限に蚊は増え続けるんだ。僕が撒く蟲はほんの少しでいい……さて、次は本当に、君の血を吸わせるよ。病気ってこわーいんだよ。一生寝たきりにすることだってできるんだ」


 馬が喋る。二つの蚊柱がどこからか沸き立ち、ゆっくりとアメジストに近づいてきた。

 アメジストの首筋にたった一匹の蚊がついた。血を吸われたら、きっとよくないモノを注入されるのは確実だった。痒みはいつまで経ってもこない。その蚊はただじっとりと付いていた。命令を待つ忠実な騎士のように。

 私の次の言葉を待っているのだ。


「はい……クトーニアン王国に二度と手を出しません。傀儡政権を取りやめます……バハルビクトリアの……運河の神に誓って!」


 アメジストは地面に頭をこすりつけた。王妃という身分では決してやらないことを、身体が本能的に平身低頭していた。身分も国の力も怪異の前には無力だった。


 しばらくして頭をあげると、馬も騎士も消えていた。ただ血生臭い匂いと羽音はいつまでたっても消えなかった。

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