第6話 爆弾高気圧
「いらっしゃいませ、首なし騎士様ご一行ですね。奥の席へご案内します」
城下町のボロ屋から、リリスが出てきた。
追手の騎士から逃げ、辿り着いた隠れ家。そこは生活感がないとクレインは感じていた。
「私が囚われている間に、こんなのを用意していたのか」
「用意していたというか元からあったみたいだよ。よっと、ほら僕みたいなウマもそのまま匿える。ここはレジスタンスのアジトだってさ」
バンシーがそのままくぐっていく。中は思いきや広い。他の馬が二頭も繋がれていた。他にも人間が五人ほどいた。
「お前が首なし騎士か。リリスから話は聞いている、伝承が俺たちの味方になってくれるのなら心強い」
リーダー格らしいガタイの良い男が、馬上のクレインを見上げている。クレインは降りて、彼と握手した。
「国家転覆を目論んでいるのだな」
「彼らがね、クレインが処刑場に運ばれるって教えてくれたんだ」
ロップが手を振ると、レジスタンスの彼らも手を振り返していた。
「リリス、お前はずっとレジスタンスだったのか」
「そうです。お父さんの過ごしやすい国をつくるために、私達で変えてみせる」
「我々は圧政の王を打倒するレジスタンス! 王国騎士に刃を向けるものはモンスターであろうと同志じゃねえか」
レジスタンスのリーダーが腕を組むと、鍛え上げられた両腕がよく見えた。彼は頼れる男に見えた。
「頼もしいな、具体的な案はあるのか。この国をよくするための」
「ああ、それはもちろんじゃねえか。俺たちの天才参謀、リリスから作戦の発表がある! どうぞ!」
「はい! 承りました! 明日の祭りで襲撃してやるんですよ。馬鹿みたいなパレードしているところをです。見てくださいよ」
巨乳巨尻のリムルは、自分の谷間を指さした。そこには棒状で硬そうなモノが挟まっていた。
「見ろって言っても、どこだ」
クレインは視線を外そうと、頭を回す。カラカラと空の兜が音を出す。
「分かっている癖に、ここですよ」
リリスが指さす谷間に、クレインは思わず手を伸ばした。その瞬間、棒状のものが飛び出した。硬い鉄の筒、コツンとクレインの兜に当たった。
「むっ」
「あははっ! どうよバネ仕掛けの仕込み筒! これに爆竹でも仕込んでおけば王をびっくり仰天、馬車から落ちてお陀仏って寸法です」
「はっはー! 流石俺たちのリリスだ! 天才だぜ!」
レジスタンスたちは盛り上がっていた。指笛を鳴らしたり、手を叩いたり、まるで猿のように飛び上がっている連中もいる。
「こいつら本当に大丈夫なのか……?」
「乗りかかった船というか……まあ悪い子じゃないしさ」
ロップは頭を掻きながら言う。
「僕はまだ捕まってない組織なだけマシという判断でーす」
クレインはズレた頭を抱えた。
「はぁ……聞いてくれ、私は今夜王城に忍び込み、王の寝込みを襲う予定です」
「うわっ! いきなりですね……王は城の中で一番高い塔にいます。その塔は頂上に王の寝室だけがある、特別なつくりになっています」
「それは信頼できる話なのか」
真面目な喋り口になったリリスに、クレインは疑問を抱かずにはいられない。
「この街の国民なら誰でも知っていますよ。王は星を見るのが趣味なのですから」
「信じよう」
「でもさ、クレイン様。王の寝室が分かったところで、本当にそれが王かは分からないよ。影武者ってのを普通は用意するものさ」
バンシーが蹄で部屋の地面をたたいた。
「うむ、私は王の顔すら知らぬ」
「それならそこに肖像画が置いてあるぜ」
レジスタンスのひとりが部屋の奥を指さした。そこには絢爛豪華な絵画のレプリカがあった。王冠を被り、赤いローブを被った熟年の男がたたずんでいる。威厳と栄華を感じさせるがその絵には、絵具でバツが大きく書かれていた。王の瞳にはナイフが刺さり、口には焙られたのか焦げていた。
「にっくき倒すべき相手だからな、予行練習はバッチりしていたぜ」
レジスタンスのリーダーは楽しそうに言っている。
「なるほど、傷が無ければイケメンという事だな。顔は分かった」
「クレインさん、王は鎖骨の下にホクロがあります。そこだけは影武者でも偽ることはできません」
「信頼できる話なのか」
「私の父がまだ冒険者だった頃、王に謁見できる立場だった時に、教えてもらったことがあるのです。私の父の名に誓って、本当のことです」
「信じよう。レジスタンスの諸君は街で騒ぎを起こして、王国騎士の目を引いて欲しい」
レジスタンスのリーダーは太い腕を組んだ。
「おいおい、俺たちも一緒に殴り込みにいくぜ」
「潜入するのには人数が少ない方がいい。それに、君たち人間では耐えられる方法で城に入るつもりはないのだ。高い城壁に無数の兵士、真正面から門をくぐれるわけはなかろう」
クレインはロップの頭を撫でた。カチューシャのウサミミがペタンとなる。
「んあっ! な、なに!?」
「ロップ、君に任せる。君の魔法で、私を王の寝室まで運んで欲しい」
「も、もちろん! クレインのためならなんでもしちゃうよ! でも……どうやって?」
「簡単さ、必要なのは火力だけだ」
◆
「王様はお城の一番てっぺんで寝泊りしているんだってね」
月光がラバー状のバニーガール衣装に反射している。ロップは地面に長い杖を刺した。長いと言っても、すぐ傍の城壁が途方もなく高いせいでそうは感じない。もし登る気であるなら、この杖を二百本は繋げなければいけない。
「嫌だねえ、偉そうな奴ってのは見下ろすのが大好きでさ」
バンシーは長い首を伸ばして、天を仰ぐ。
「それを引きずり下ろすのが私の仕事だ」
遠くで花火のような音が聞こえた。街の中心の方で、リリス達レジスタンスが騒ぎを起こしたのだろう。さっきから城の門では、騎士を運んでいるだろう馬の足音がひっきりなしに聞こえる。囮はよくやっているようだ。
クレインはロップの頭を撫で、「頼む」と言う。
「クレイン、確認だけど本当にこの作戦でいいの?」
「構わない、私は頑丈だからな」
「じゃあやるけど、粉々にならないでよ」
「うむ、魔法を撃ったらすぐにバンシーに乗って離れてくれ。ここにもすぐに騎士が集まってくるからな」
「もうあのメイドには会いたくないから、すぐに逃げるわよ」
ロップはしなやかに大げさに動いて、地面に刺した杖を登った。ポールダンスの踊り、股間を満月に見せつけるように突き上げる。片腕は城壁すらも壊す竜の尻尾のような動き。
「地の底より湧き上がるもの、白日の炎熱よ天を焦がせ! ドラゴンテイル・エクスプロージョン!」
大規模な魔法がクレインの足元で爆発した。騎士の大隊を飲みつくした炎は、ただ一人に向けて放たれた。噴火のような爆轟に押し上げられ、クレインはまるでロケットのように発射された。
「ぬおおお!」
爆炎が城壁を砕いていく。ひび割れが天へと昇ると共にクレインも直上に飛んでいく。衝撃が、鎧の軋みをあげた。身体が粉々になるほどのパワーだ。壊れても治せるよう、意識だけは強く持って、クレインは飛んでいった。
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