第4話 オフパコフラグ~ビッチを添えて~④~

 カノハとのデートコースはシンプルだ。事前にアキバに行きたがってるのを知っていたので、ここをチョイスした。


「とりまメイド喫茶行こう」


「はい。お供いたします」


 顔立ちは外国人そのものなのに、振る舞いは大和撫子そのものだ。育ちの良さを感じる。


「ここがメイド喫茶ですのね」


 アキバにある老舗のメイド喫茶に来た。ここはガルバのように接客はしてくれないが、ゴシックで上品なメイド服を着た店員さんを拝むことができる。


「素敵な空間ですわね。こういうところでコスプレしてみたいものですわ」


「レンタル衣装もあるよ。やってみるといい」


「あら?!そうなんですの!ぜひ!」


 俺は店員さんを呼んでレンタルの衣装を頼む。店員さんはカノハを連れて更衣室へと向かった。そしてメイド服を着たカノハが帰ってきた。


「どうでしょうか?」


「うん。とてもかわいいね」


「ありがとうございますわ。ふふふ」


 その後俺たちはまったりと会話を楽しんだ。


「わたくしポルトガル語だとカノハ・エリザンジェラ・ホザマリア・アブレウ・コウケツになるのですの」


「名前なが!」


 俺の小説についてだけではなく、彼女のプライベートについても話した。その後俺のおすすめであるレトロゲーばかりのゲーセンに行って二人で昔のバカゲーを楽しみ、夜は川沿いにあるバーレストランで料理を楽しんだ。そこで俺は一つ仕掛けを施した。一方的に自作の小説についての創作裏話を長めに語った。向こうは興味津々で聞いていた。そうしたらラストオーダーの時間さえ過ぎて、気がついたら終電の時間になっていた。二人で駅に向かう。


「ほらほら。急いで」


「だめですわ。和服がくずれちゃいますわ」


 手を引っ張ってわざと急かしてみる。だけど向こうは早足にはならなかった。だからもう十分理解した。男女の間に言葉はいらない。ノンバーバルなコミュニケーションこそが大事だ。


「ああ、終電逃しちゃったね」


「そうですわね…」


 彼女が繋いでいた俺の手を強く握り返してきた。俺は彼女を抱き寄せて、その唇にキスをする。あとは何も言わなくてもいい。俺はそのまま彼女と一緒に歩く。そしてラブホの暖簾をくぐったのだった。



















タイトル:またなのね。


本文:私はこんなにもあなたを大好きなのに、あなたはまた私を裏切ったんですね。そんなにセックスは大事ですか?たしかに私は関係が壊れるのが怖いからあなたとセックスしたくないです。でもあなたが望むなら応える用意もあります。ちゃんとお話し合いをするべきではないでしょうか?目先のやれる女よりも昔から傍にいてあなたのことを真剣に思ってくれる幼馴染である私のことを考えてはくれないのですか?股をすぐに開くような女なんてどうせあなたをすぐに裏切ります。なんども女性に振り回されてもまだ懲りないのですか?私はあなたが私以外の女を抱くたびにいつも泣いています。枕が濡れるたびにあなたを嫌いになろうとするけれども、あなたの本当の優しさを知ってしまった私はそれから離れることができないのです。体を交らわせるよりもまずは私とお話しませんか。お返事待ってます。





 捨て垢からDMが届いた。だから俺はそれをブロックする。幼馴染のメンヘラになんか付き合えない。







 次の日俺は渋谷に来ていた。今日のデートの相手は五百旗頭いおきべ白愛はくあ。現在ブレイク中の新人声優さんだ。交差点近くの改札前にて俺は彼女を待っていた。すると金髪ツインテールにサングラスをかけた女に話しかけられた。


「待たせたわね」


「はぁ?誰?俺はお前じゃなくて別の人待ってるんだけど。ちゃんとマチアプの写真でも確認しろ」


「ちょっと!マチアプって!あっごめん。スプレーで髪の毛の色変えたからわかんなかったのね。ほら」


 サングラスを外すと金髪の女がハクアだと気がついた。


「おお、変わったなぁ」


「そうなの。べつに勘違いしないでね!ファンが清純派を求めてるのを裏切るつもりじゃないの!あんたと出かけたのをばれないようにするための工夫なだけなんだからね!」


 ファンにツンデレするのやめいや。てか俺に合ってる時点で十分アウトだと思う。まあいいけど。


「じゃあ飲みに行くか。でもその前に」


「なによ。どこ行くの?早く小説について話したいんだけど」


「まあまあ楽しいからついてこいって」


 俺は白愛の手を取る。


「あ、手」


「え?恥ずかしいの?」


「そ、そんなんじゃないし!こんなの普通よ普通!…でへへ」


 拒絶は感じない。頬を少し赤く染めて瞳を濡らしている。僕好感度高いです!


「ここお勧めの店なんだよね」


「へぇ。ラーメン屋?宅配アプリ以外で入るの初めて」


「女子は意外とそんなもんだよね。ささどうぞ」


 店の中は清潔感がある内装になっている。俺たちは個室席に通された。


「カウンターとかじゃないんだ」


「最近のラーメン屋はまったりとできるようになってるんだよ。これメニュー」


「うーん。よくわかんない」


「じゃあこれ二つね」


 俺たちはこの店自慢の一品を頼んだ。そして淡麗スープが美しい醤油ラーメンが出てきた。


「ここは醤油が絶品なんだよ」


「スープがすごく綺麗ね。素敵」


 ハクアはラーメンをパシャリとスマホで撮る。そしてSNSを操作して呟いた。


「美味しい!」


「だろ。こここそ日ノ本一のラーメン屋だから」


「あはは!日ノ本ってウケる!」


 俺たちはラーメンを堪能した。そして道玄坂に出て二人でゆっくり歩く。


「なあどうせ飲むなら、ついでに踊らない?」


「踊る?それってどんな店?」


「クラブ」


「クラブってあのクラブ?行ったことない!行ってみたい」


「じゃあ行こう」


 俺たちはクラブに向かう。中に入るとハクアは興奮気味に周りを見回していた。


「すごいすごい!キラキラしてる!」


「席取ったからついてきて」


 俺たちはダンスホールに面するVIP席に座った。別料金をがっぽり取られるけど、まるで王様気分を味わえて楽しい。俺はシャンパンを頼んで、二人で乾杯する。


「こんなところ来るの初めてだからなんかドキドキする」


「じゃあもっとドキドキする?踊ろうか」


 俺はハクアの手を取ってダンスホールに連れていく。テンポのいいミュージックが俺たちの興奮を高めていく。俺たちは手をつなぎながらリズムに合わせてステップを踏んだ。俺はダンスを習っていたことがあるし、声優のハクアは基礎訓練でダンスも知っているようなので、上手だった。周りから俺たちに声援が飛んでくる。


「どんなステージに立つよりも楽しいわね!いいわこれ!さいこー!」


 ハクアはすごく楽しそうだった。俺はデートの成功を確信する。そして俺は最後のダメ押しを実行することにした。


「ちょっとトイレ行ってくる」


 俺は席を外してハクアの目の届かないところに身を潜ませる。するとガラの悪そうな男がハクアに絡んできた。


「俺と遊んでよ」


「はぁ?ちょっと!いや!」


 男はハクアの手をつかんだ。無理やり踊ろうとする。俺はすかさずハクアのもとに駆け付けて、男の手をはたく。そして男からハクアを引き剥がして、彼女の肩を抱いて。


「俺の女だ。失せろ」


「ちっ!」


 ガラの悪そうな男は去っていった。


「うう。怖かった…」


「ダイジョブだいじょぶ俺はそばにいるよ」


 ハクアを抱き寄せて彼女の頭を撫でる。彼女はだんだんと笑みを取り戻す。それと共にダンスホールの音も段々とムーディーなものになっていった。


「ねぇ。さっきさ。俺の女って…」


「ああ。あれね」


「はったりだよね。なんか漫画みたいでちょっとかっこよかった」


「違うよ。はったりじゃないよ。だから嘘にはさせない」


 俺はハクアの頬に手を添えて、そのまま彼女の唇を奪う。最初彼女は目を見開いていた。だけどハクアの手は俺の背中に回って絡まってくる。あとはもう簡単だ。俺はハクアの腰を抱きながらクラブの外へ出る。そしてすぐ近くのラブホに入ったのだった。













タイトル:声を聞かせて

本文:今日もあなたのことを思って泣いています。また新しい女を抱いたんですね。そんなにも私を避けるのですか?あてつけているんですよね?私があなたとセックスできないのは事情があるからです。それはあなたもご存じだと思います。どうしても過去のトラウマがよぎって仕方がないのです。でもあなたに抱かれてみたいと思う気持ちだって本当なのです。むなしくはないのですか?ただただ体を交わすことに意味があるのでしょうか?私には理解できません。いつもあなたを思っています。いつだって傍にいたい。でもあなたの隣にはいつも私以外の誰かほかの女がいます。その場所をどかしたいといつだって思っています。でもそうするとあなたは烈火のごとく怒ります。それが私のトラウマを刺激してますます私たちが結ばれるきっかけというものを遠ざけていくのです。怒らないで欲しいのです。私はいつもあなたを思っています。たしかに私はかつてあなたの信頼を裏切りました。ですがもう許して欲しいのです。あの時はやむなくそうせざるを得なかったのです。あなたのためを思った行動だったんです。私だけがあなたの傍にいられる。最初の女にはなれなかったけど、最後の女にはなれるはずです。声を聞かせて。お願いだから。寂しいの。声が聞きたいようぅ。



 またも幼馴染から捨て垢でDMがきた。俺は即ブロックしてやった。いい加減鬱陶しい。裏切られた側の気持ちは消えることはない。それを彼女だって知っているはずなのに、彼女は自分のことばかり考えている。俺のことなんて放っておいて欲しい。

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