第2話 オフパコ~ビッチを添えて~②~

 枕炎上匂わせバズ。その期待に俺はウキウキしていた。俺はルンルン気分でマチアプを弄っていた。そんな時だ。


「ちょっといい?」


「はい?」


「はいじゃなくて。あんたでしょ?これ書いたの」


 目の前にいたのはさっき企業ブースで列を作っていた声優さんだった。手には俺の同人誌があった。


「そうだけど」


「…まじなのね。まじなのね!!くうぅううううう!!」


 声優さんは俺の前でガッツポーズを取っている。すごくうれしそうに見える。だけど俺がまじまじと見ていたからか、顔を赤くして。


「べ、べつに勘違いしないで。これを書いた人に会えて嬉しいからであって、あんたに会えたから嬉しいわけじゃないんだからね!」


「あ、はい」


 ツンデレば行き過ぎて日本語がおかしくなってませんか?


「はいこれ」


 そう言って声優さんは俺に同人誌を差し出してくる。


「返品は受け付けてないんだけど」


「ばっかぁじゃない!?サインに決まってるでしょ!」


「え?はい」


 俺はサインしようと思ったけどペンがない。


「すまないけどペンがないんだよね。持ってない?」


「え?…じゃあこれで書いて!」


 そう言って差し出してきたのは、鮮やかに赤いリップだった。これで書けと?俺は受け取ってペンネームの新彼方と彼女の同人誌に書いた。


「へぇ。字は全然うまくないのね」


 そう言いながらも、にへらとなんかキモい笑みを浮かべてリップを唇にぬりぬりした。…なんだこいつ。


「あんたの小説そこそこ面白かったわ」


「ん、はい。ありがとうございます」


「とくにペピータが愛用の鞭で元婚約者のxxxを縛ってねじ切るシーンはスカッとしたわ!」


 一応ファンらしい。


「あのときはなんか筆が乗っちゃってノリノリだったよ」


「そうなの?!道理でほとばしるロックでエモい地の文と哀愁漂う台詞のテンポが弾けていたはずだわ!」


 その後声優さんは一時間くらいずっと俺の小説について一方的にしゃべくり倒した。そして。


「あ、まずい。休憩時間終わっちゃうんだけど。あたしのこと引き留めすぎじゃない?」


 勝手に喋ってただけだろ。その言葉を俺はぐっと飲みこむ。


「あー戻らなきゃなぁ」


 といいつつもチラリちらりと俺の方をスマホを持ちながら伺っている。理性が結論を出した。これはいける。


「今度創作裏話しようよ。連絡先言って」


「そんなつもりじゃないんだからね!ただあんたの小説について話したいだけだから!」


 俺たちは連絡先を交換した。そして声優さんはルンルンとスキップしながら俺の前から去った。これはワンチャンあるな。声優さんが推してるって呟いてくれればPV伸びるんじゃね。あるいは週刊誌にオフ会を撮られてスキャンダルになって俺がバズったり。夢が膨らむ。期待がドキドキ止まらない。








 俺が炎上商法するネタを二つもゲット出来て俺は最高にメラメラしていた。マチアプでのお相手探しも捗るもんよ。そんな時だ。


「すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」


 いつの間にか目の前にさっき見た同人漫画家さんがいた。おっぱいがでっぱい。


「なんでしょうか?」


 相手に合わせてしまい思わず俺は敬語になった。


「サインください!ファンです!」


 漫画家さんは俺に持っていた同人誌を差し出してくる。


「あのペン持ってないから貸してくれるかな?」


「ペンまで借りていってくれるんですか!どうぞ!!」


 俺はGペンを借りて彼女の同人誌にペンネームをサインした。


「私のペンをにぎってりゅぅ。はぁはぁちゅぅ」


 漫画家さんはペンをおっぱいで挟みながらペン先をチュチュと吸い出す。あまりの奇行に我ドン引きなり。


「わたし。ペピータちゃんが追放先で美貌のタイクーン様が乗馬デートに誘ってくれたのに、馬のケツ蹴りながら袖にするシーンめっちゃどちゃぬれでワンしこKOです」


 とりあえず面白いと言っているようだ。やっぱり創作者としてファンが喜んでくれるのは本当に嬉しい。


「あのシーンは難産だったんだよ。自分で馬になりきっておもしれー女考えるのホント大変だった」


「それわかります!キャラの心情を考えるのってホント大変ですよね!でもそれを乗り越えた時ってもうくちゅくちゅで指でピンって弾くだけで全身びりびりにビクンビクンになっちゃうんですよねぇ!」


 とりあえずこいつは変な奴だ。その後漫画家さんは一時間くらい一方的に俺の小説についての創作論を早口オタ並みにマシンガントークしまくった。


「あ、ごめんなさい。わたし創作になるとつい夢中になって…もう戻らないと…」


 そう言いつつも彼女はスマホをぎゅっと握って俺の方をじーっと見詰めていた。俺の悟性が悟った。これいけるわ。


「こんど挿絵とか頼みたいから連絡先教えてよ」


「ペピータさん書いていいんですか!公式認定!?神キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」


 俺たちは連絡先を交換した。そして彼女は雄たけびを上げながら走り去っていった。イケてる漫画家さんの挿絵が入るPV爆増。ラノベは絵が100%ですよ!これは勝ったな。期待がもうパンパンで弾けそうだぜ!









 俺は浮かれていた。マチアプでデートの予定を二件も取り付けてしまった。そんな時だった。


「…あ、あの…」


「なんじゃい!いまいそがしいんじゃわ!」


「ひぃ!す、すみませんすみませんすみません!ボクごときミジンコ。すみませんミジンコ様に失礼でした。マクロファージ以下の価値しかないボクごときがはなしかけてすみません!」


「あ、ごめん。ちょっと今色々あってハイになってた。なんかよう?」


 目の前には紙袋を被った謎の女がいた。だけどニーソとおっぱいの形と声であの時のVの者だとわかった。


「…ふひぃ…え…へ…。へへ。あ。ボク。さ、さいん。神様のサイン。ほ、ほほ、ほしいいいいいぃいいい!」


 すごく挙動不審な様でVの者は俺に持っていた同人誌を差し出してきた。


「すまんがペンを持ってないんだ」


「や、やややややっぱりりりりりりりりぃぃぃぃごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいボクごとき塵以下のボクが神さまにおねだりすること自体がまちがってまちぁたあああ!」


「ちがうちがう。まじでペンがないんだ。持ってない?」


「持ってきたら書いてくれますか?」


「ああ。いくらでも書くよ」


「しょーーーーしょうおまちおおおおぉおおお!」


 そう言ってVの者は近くにいたオタクに体当たりしてきた。そして。


「なにぶつかってんだこのやろう!セクハラで訴えてやる!ペン出せ!ペン出せば許してやるよああん?」


「ひぃい!?ど、どうぞ!」


 Vの者はペンをカツアゲしてきた。そしてそれを俺に差し出す。俺は怖くなってきたので、黙ってペンネームをサインした。


「ふぃひ!か、かみのな!な!な!な!ななななななななななぁあああああああああああああああああああ!!!」


 こわ?!こいつまじでこわい!


「ぼ、ボク、天使ペピータ様が革命起こして女王の座についた瞬間全身が震えて天国見ました。天使様ペピータ様天使様」


 やだこわい。この子絶対怖い。


「そ、そうか。あのシーンはまるで天から降ってくるような感じでインスピレーションしたんだよね。我ながら神ってたと思うよ」


「神が神ってる?!神神とかまじで神じゃないですか!OH My GOD!!」


 Vの者のマスクの下から涙らしき液体がぽろぽろと零れてきた。その後俺の小説の感想という名の、信仰告白を一時間以上続けて。


「神よ。我に天啓を!」


 その場にVの者は跪いてスマホを俺に差し出した。俺は黙って連絡先を交換した。


「て、天より授かりし聖なる紋章我に刻まれん。神よ、一時の猶予を」


 そして彼女は土下座スタイルのまま器用にまるでゴキブリのようにかさかさと地面を這って去っていた。


「こわい!」


 でもあのVの者が俺の小説を朗読とかしてくれたらきっとバズるんだろうな。俺のことを讃えてくれねぇかな。マジでバズりたい。俺は神に祈った。











 そして撤収作業を終わらせたころ、出口のゲートで萌と再会した。


「あれ?お前まだいたの?」


「うん。それよりご飯行こうよ。今日は奢ってくれるんでしょ」


「まあいいけど」


 俺たちはとりあえずそこから新宿に向かった。そして知る人ぞ知る寿司屋に入った。


「好きなもん食えよ」


「あれ?いつもはけちるくせに今日はおおらかだね」


「おおらかじゃなくて鷹揚じゃね?まあチャンスが来たからな。俺の小説もはばたく日が来たようだ」


「四部しか売れなかったのに?」


「量より質っていったのおまえじゃなかったっけ?」


「でもホストとかはボトルいっぱい入れると喜ぶよ」


「比較がくそ!そんな奴らと比べるな!」


 とりあえず乾杯して、寿司を堪能する。


「マグロメッチャ美味い。やべぇ」


 噛む必要もなく舌で溶けていくような食感がマジエモい。


「え?マグロなのにえっち上手いの?」


「なんなんですかてめぇは!ビッチマン煩悩捨てろよ!」


「白子って精子なんだよね。でも美味しいね。人間のは美味しくないけど何が違うのかな?」


「だから比較がおかしいんだよ!」


「ねぇそれよりさぁ!なんかコスプレしてた人まじでイケメンだったよ!ちょいケバかったけど」


「ふーん。そうなん?」


「でもあっちのほうもコスプレ被ってた!ウケる!」


「たとえがヤバい!え?つーかなに?え?ヤッてきたの?」


「あ、うん。意気投合してトイレでやった」


「コミケのトイレは混みこみなんだよ!そんなところでやるな!迷惑なんだよ!つーか友達と会うんじゃなかったの」


「それが聞いてよ。本命の彼女が来ててね。友達が突然、カノジョと別れて私と付き合いたいとかいいだしてさぁ。めんどくさくなって人ごみの中に逃げた。人ごみって普段はほんとウザいけどマジで今日は感謝した。オタ迷彩!」


「うあぁくずぅぃ」


 目の前の花川萌は正真正銘のクズビッチである。こんなやつが幼馴染とか俺不幸すぎる。


「本命彼女を目の前で振って断れない感じの空気作ってくる方がクズでしょ!私は悪くないし!」


「控えめに言っても彼女いる奴とお友達セフレな時点でまごうことなきクズだよ」


「きこえなあい!」


 安定のスルー。どこまでも自己本位極めてる。


「そっちこそどうなんだよー。イベントで出会いとかなかったのー?」


「まあ会ったけど。ちょいまずなんだよね。連絡先はこうかんしたんだけどさ。四人」


「ふーん。四股とか安全圏で遊びすぎでしょ。同時並行攻略とか誰か一人くらいは確実にヤれるよね」


「むしろ修羅場一直線だけどね。むしろ炎上狙いだよ。だけどスマホの連絡先の名前と顔が一致しねぇんだよ。焦って失敗した」


 さらに言えば一人は顔さえわからない。Vの者の中の人とか見ていいものではない気がする。


「でも名前も知らない人とやるのって普通じゃない?」


「そんな普通あってたまるか!普通の基準がおかしいぃ!」


「それより二軒目どこ行く?私AV女優さんと会えるガルバに行きたいんだけど」


 女の子の口から出てきていい店じゃねぇ。だけど俺も行ってみたいのでお会計を済ませてその店に行った。だが。


「はぁ?!もうやってないんだけど?!」


「残念過ぎる…」


「はぁ萎える。せっかく聞きたいことあったのに」


「何聞くつもりだったの?」


「ちゃんとした3pのやり方」


「はぁ?」


「うん。あれ?言ったことなかったけ?3pしたことあるんだけどね。その時なんかこうたいへんでさぁ」


 余りの衝撃に俺は口を閉ざしてしまった。3pって?え?あの3p?


「MMF?FMF?」


「なにそれ?」


「男二人?」


「うん。まあ誘われたからそういう経験もありかなって」


 人生には経験しなくてもいいことがあると思うんだ。


「でもなんか微妙でさあ。喉奥もごもごされるし、代わるときなんか空気微妙だし。AV女優さんなら慣れてるだろうからコツ聞きたかったんだよねぇ」


「AV女優さんのは仕事なんだけど」


「AV女優さん見たかった…仕事だからこそおっぱいとかお尻とかきれいなんだろうなぁ」


 話の話題がもう飛んだ。とりあえず案内所に入ってどこの店に行くのか相談することにした。


「どんなお店をお探しですか」


「おっぱい」


「え?あの…彼氏さん」


 案内所のおじさんがめっちゃ困ってる。


「彼氏じゃないです。違います。なってたまるか」


「おっぱい触れる店あるって聞きました。行ってみたいです」


 萌は案内所のおじさんに朗らかに告げた。


「わかりました。女性でもオーケーなセクキャバご案内しますね」


 あるのか。さすが歌舞伎町。ぱない。そしておじさんに案内されてセクキャバに向かうことにしたのだった。

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