救い方が下手な神様
※このお話は一作目の『意地悪な神様』とつながっています。よければ、”彼女”目線のお話を先に読んでから見てください。
僕にとって神様は何者でもない。好きか嫌いかでいうなら普通かな。
特別敬う存在ではないし、神のご加護をなんて期待もしない。
まぁ、神様はいると思う。救い方が下手だとも思う。
きっと空気を読むのが苦手なんだ。
それとも、もしかすると救うのにはモノや人数、種類とかにも、限りがあるんじゃない?
だから奇跡だって起こるし、助かる人もいる。神様はいつも人助けで忙しいのかもしれない。そう思ってしまう僕もいるから、僕は神様を嫌いにはなれない。
ベッドの周りを大勢の人に囲まれている人は次の日にはそのベッドの上にいなかった。
小さい頃どこかの病室でたまたま見かけたその光景が不思議だった。
大きくなればその理由も理解出来るわけで、入院生活をしていて物覚えの早い僕は、常に”それ”隣り合わせな日々を送っていることに気がついた。
それに気づいてから僕は泣くのを我慢した。
大切な友達がもう会えない状態になっても、お別れの時が来ても。
泣かずに前を向くことにした。泣いたって帰ってこないから。会えないから。
ここはきっと神様の監視の目が光っている場所なんだと思っていた。
だからいつか僕にそんな日が来てもしょうがないんだ、と。
彼女は僕と同じ年の女の子で、幼馴染で、毎日僕の病室まで遊びに来てくれた。
たくさん話してたくさん笑って一緒に絵本を読んだり宿題をしたりした。
ある日大泣きの彼女が走ってきて来て僕に言った。
「パパとママが連れていかれちゃった、、」と。
それから何年かして、今度は飼っているらしい猫が連れていかれたと泣いていた。
その時僕は無意識に同情してしまうような、僕と同じような、そんな気がした。
彼女も僕と同じ、”いつも隣り合わせ”な感じ。
でも彼女はいつも笑っていた。
すぐに気分が落ち込み、弱気な僕とは正反対で、いつも明るく優しく元気な彼女。
彼女は、困っている人に手を差し伸べることができる雅な大人になるんだろうなと思った。
いつも新しい話題を持ってきてくれる彼女と話すのは楽しくて、彼女が来る瞬間を待っていた。彼女は、自ら遊びに来ておいて、「私といてつまらなくないの?」なんて聞いてくる面白い子だった。第一、一人で病院にくること自体普通の子供じゃなかなか出来ないだろうに。
僕は、彼女のどんな話題にもついていけるようにたくさん勉強した。
その甲斐あってか、彼女の話題で答えられないことはなかった。
__________
彼女 「ねえこれ見て。じゃーん!おばあちゃんがお正月に買ってくれたんだ!」
僕 「うわ、すごい!一番新しいゲーム機じゃん!いいなあ。」
彼女 「そう言うと思って、おばさんたちに(僕の名前)の分買ってもらったよ!」
僕 「え!?なんで??」
彼女 「いつも本とかゲームとかで楽しくなさそうだなって思ったの。ゲームなら私も一緒に出来るし、さみしくないかなって。」
僕 「僕の親、説得するの大変じゃなかった?」
彼女 「んーん、全然。おばさんたち、私にはすっごく優しいから!ゲームソフトも持ってきたよ!何がいい?」
僕 「じゃあ、これで。」僕はオンライン対戦ができるゲームを選んだ。
彼女「お兄さん、目が高いね~!」彼女が目を細めて言った。
僕「目が高い、って。意味知ってるの?」
彼女「え?分からない、。でも教えてくれるでしょ?」
そういって彼女は屈託のない笑顔で笑った。
そんな彼女の笑顔が好きで、その笑顔がまた見たくて色んなことが知りたいと思った。
________
卒業式が終わってから、制服を着て胸に飾りを付けた彼女が病室に来た。
「卒業おめでとう。」
そういうと彼女は
「ふふ。気づけばもうすぐ社会人だよ。」と涙を浮かべて言った。
「早いね。上京してからも元気で過ごすんだよ。」
僕と話す彼女はずっと泣いていた。腕の袖で涙を拭きながら。
僕までつられて泣きそうになるのをぐっとこらえて鼓舞するために彼女に
「最後のお別れじゃないんだから。笑ってよ。」と伝えた。
彼女が上京してから僕は英語の勉強を始めた。大きな夢を持ったから。
それは彼女と外の世界を一緒に知ること。今は無理でもいつかきっと。
太陽のような彼女のおかげで僕は強く生きようと思えた。
強がりに見えて泣き虫な彼女。
どれだけ家族に叱られようが、天気の悪い日だろうが、毎日僕のいる病室まで来てくれた。
そんな彼女に僕はまだ何もしてあげられていない。
将来は彼女を連れて天気のいい日に公園を散歩したい。そしておいしいご飯を食べに行こう。
最近またニュースで報道され始めた最新電車に二人で乗りに行こう。
昔約束したこと、彼女は覚えてくれているかな。
彼女のことを考えて、目標を立てて、夢が叶う前に僕は神様に呼ばれてしまった。
悔しかったけど、迎えに来た瞬間、満足してしまった自分がいた。
ここまでか…。
僕は分かってしまった。受け入れたら終わりなんだと。
神様に、最後に彼女に気持ちを伝えたいと訴えたが、
「残念だが、来た道はもう戻ることが出来ない。」と言われた。
僕は後悔を残してしまった。最期に彼女に気持ちを伝えることが出来なかった。
「僕はなぜ今日連れていかれるのですか?」
神様は口を閉ざしたまま、何も言わなかった。
せっかく彼女に会えるところまで順調にいっていたのに。本当に意地悪だ。
どこまでも救い方が下手だなぁ、
せめてもう少し待ってくれれば、彼女の顔を見れたかも知れないのに。
僕は笑いながらも歪む視界の中で、人生で最後の日光を浴びた。
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