神様の人助け
暮れ時
意地悪な神様
※このお話は二作目の『救い方が下手な神様』とつながっています。読み終わった後は”彼”目線のもう一つのお話を読んで見てください。
私は神様が嫌い。誰がなんと説得しようとも嫌い。だってさ、神様って、私と違って欲しいものは必ず、何としてでも手に入れようとするでしょ。
いや、奇跡が起こる人だっているんだから、別に存在の否定なんてしないよ。
ただ好きじゃないだけ。そう思うようになったきっかけだって大いにある。
小学生の頃は大好きな両親が、両親の愛車ごと連れて行かれた。三十二歳だった。
中学生の頃は、飼っていた猫のミイが。
だから私はおばあちゃんに育てられてきた。
命日になると必ず思い出していつも泣いてしまう私におばあちゃんは、
「そんなに泣かなくたって、見えないだけでみんなあなたを見守っているのよ。”神様はいつも一人でさみしくて、美しく咲いてる花ほど、自分のそばで飾っておきたくなっちゃう”のかもしれないね。みんなその一輪に選ばれたんだね。あなたが大きくなって、いつか神様に選ばれたときには、とても綺麗で美しい花束が飾られているよ。」
と、慰めてくれた。
確かにそう言われたらそうかもしれない。神様も一人で寂しかったんだね。
だからって同情する気なんてない。むしろもう少し我慢してくれてもいいんじゃない?あ、神様の気持ちが理解できないのが問題?
だからきっと私は神様に恨まれているんだろうな。
____________
私 「ねぇ、それなんのパズル?」
彼 「これはフランスの町並みがプリントされたパズルだよ」
私 「こんなに細かいのに完成するの!?」
彼 「毎日ずっとしてるから、いつかは完成するね」
私 「私もやりたい!」
彼 「もちろん。一緒にしよう。未完成になったとしてもサグラダ・ファミリアみたいでロマンがあるし。」
私「あーなんか未完成のやつだよね?なんだっけ。」
彼「あれは___ 」
私がなにか聞けば、知的な彼は私の知らないことをなんでも教えてくれた。
彼とは同い年で幼なじみ。
両親やミイが連れていかれたときに真っ先に彼のもとへ走ったほど私の大切な人。
まだ高校二年生っていうのに、年相応なものには彼は興味を示さない。
彼が大人になればきっと私の父親のようにかっこいい男性になると思う。
流行を追いかけたいにわかで飽き性な私とは正反対で、好きなことへの興味が人一倍強くて何事も継続するのが得意な彼。
全て真逆なのに、彼は私と会うのが唯一の楽しみだといつも照れ笑いながら言ってくれた。
毎日訪れている彼の部屋にはベッドと本棚とテレビ、そして窓際に引き出しもついていない机と椅子しかない。
本棚には東田京吾をはじめとしたミステリー作家の本や難しそうな本がずらりと並んでいる。到底私には読めそうにない本だらけで、私なら一時間もせず飽きてしまいそうな部屋にいつも彼はいる。
ある日、ベッドのそばにあるテレビで彼はニュースを見ていた。
世界初の最新電車の完成が近づいているらしい。
私 「この電車っていつ走るようになるの?」
彼 「んー、走るのにはあと五年はかかるって前にニュースで見たんだけどどうなんだろう。詳しくはまだわからないね。」
私 「そうなんだ。っていうか、ずっとニュース見てるじゃん?映画とか見ないの?」
彼 「映画もいいけど、僕はもっとこの世界のいろんなことが知りたいんだ。この電車に乗るのが今の僕の夢。」
そう言って少し照れる彼を見ながら
「ふーん、そっか。じゃあ、あと五年後が楽しみだね」というと、
彼は「うん。そうだね。」って静かに私を見て微笑んだ。
そんな彼の微笑む表情が好きだった。
_________
電車に乗るのはいつぶりだろうか。上京してから職場までは自転車で通勤していたし、電車なんて高校生ぶりかもしれない。
そんな私は、最新電車のチケットが無事に手に入った今、彼に職場で出会った恋人との結婚の報告をするために二人で彼の実家まで行こうとしている。
ちょうど五年前の今日、春の風が心地よく入ってくる大きな窓のある部屋で、この電車について彼と話したことを思い出した。
神様は何年経っても意地悪で、私が一番ほしかった彼の気持ちは手に入れることができなかった。
彼と会話をしたのは高校の卒業式の後が最後で、上京して就職することが決まっていた私は彼と会うのがこれで最後かもしれないことは察していた。
そんな私の気持ちにも気づかずに彼は
「最後のお別れじゃないんだから、笑ってよ。」といいながら優しく笑っていた。
その彼の顔が未だに忘れられない。いや、忘れたくない。
「景色が綺麗だね。まだあの山には雪が積もってるよ、何でなの?」
今の恋人にこんなことを聞いたって、
「いや、わからない。調べてみるね。」って、彼と違ってすぐに答え合わせができない。
ただ、自分が気になったことを自分で調べて分かる喜びも今なら理解できるし共感する。
この喜びを教えてくれたのは今の恋人で、私の大好きな人。
幼馴染の彼は、何度見ても写真の中にしかおらず、口を開くことも、表情が変わることもやっぱりなかった。
生まれつき体が弱く、病気をしがちで院内学級に通っていた彼。
私は学生時代に彼と登下校を共にすることも、一緒に外で遊ぶことも、遠くまで出かけることも出来なかった。
そんな彼が亡くなってから今日で二年。一年経ってやっと外に出ることができる直前に神様に連れて行かれたのだ。そんなに神様は何でもできる彼が私と一緒にいたのが羨ましかったのか。
せっかく持病も回復に向かっていたのに。神様は本当に意地悪だ。
彼の訃報を聞いてすぐ駆けつけたとき、今の気分には似合わないくらい眩しい太陽に照らされて、私は人生で初めて上を見上げた。
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