第2話 孤独戦争

 分からなかった。何一つ。何が正解か分からない。

 俺は正義を為している。俺の行動は等しく正義なのだ。



 目が覚める。操縦席の中。室温は寒いくらいだ。

 今俺がいるのは中衛国の北の方、ロサアとの境界線の近く。

 俺はこのままロサアにも攻撃を仕掛けるつもりでいる。

 どうしてかって?日本の敵になりえる国は全てにケンカを売るつもりだ。なお、アメリアを除いて。日本はアメリアに負けているが、それでも近年までアメリアは日本よりだった。だから攻撃は最後と決めている。


 拳を強く握りしめ、動け、と念じる。機体が音を立て動き出す。



 十二時ちょうど。作戦決行。


 ロサアの軍事施設を攻撃する。


 ヴェルトゼートはマニュアルを見るに、機体の半分がゼフラミネートと呼ばれる装甲で出来ている。こいつはどうやら既存のアシッドの兵器を無効化出来るらしい。だからCC社のアシッドも一方的にぼろ雑巾にできたのだが。



 〇

 某日、ロサア軍事基地上空、細いライフルを携えた蒼い機体がそこに居た。

 観測をする軍人が捉えた敵影は、世間を騒がしているあのテロリスト機に酷似していた。


 蒼い機体、呼称名ヴェルトゼートはまず、出撃口を迅速に破壊した。

 出撃できたロサア機は僅か三機。それも練習機だった。

 ヴェルトゼートは機体性能が段違いに良い。

 練習機に乗っていたのはドミトリーとフェリクス、そしてヴィクトルの三人。

 どの兵士も優秀なアシッド乗りだが、相手が悪すぎた。

 相手は縦横無尽に宙を駆け回れる。だがロサアのアシッドは空を飛べない練習機だ。

 するとヴェルトゼートは地上に降りてきた。両手を広げ、無抵抗のアピールをする。

 フェリクスが、ライフルを構えたまま近づいて…。


 次の瞬間には真っ二つだ。


 ドミトリーが、クソッったれ、と叫ぶ。フェリクスの機体が雪の上に落ちる。

 爆発はしなかった。うまい斬り方だ。とヴィクトルは思った。

 ヴェルトゼートは左腕の実体剣を展開しあざ笑うように近づいてくる。


「ヴィクトル!逃げろ!!」

「俺だけじゃ…逃げられない…!!」


 ヴィクトルは冷静にライフルを射撃する。が、攻撃は装甲に弾かれて効き目がない。

 ドミトリーがビームソードを抜刀しヴェルトゼートに接近する。

 少しの間鍔迫り合いをし、ドミトリーも腕を落とされ、コクピットに剣を刺され動きを停止した。


 後がない。


 ヴィクトルはライフルを撃ちながら徐々に後退する。


 何処に?

 仲間は戦死した。今度は自分の番だ。


 ビームソードをフリーの右手で抜刀する。

 自分の持てるすべてをもって、時間稼ぎを行わなくてはいけない。

 弾切れ。ライフルを捨て、両手でソードを握る。汗が噴き出る。視点が定まらない。

 ヴィクトルはヴェルトゼートに斬りかかった。

 簡単に防がれ、隙をつかれ徐々に削られていく。勝機など正直なところ無かった。

 増援が来るまであと三分。耐えきれる自信などヴィクトルは持ち合わせていなかった。

 鍔迫り合いを起こしている時、ヴェルトゼートの動きが止まった。

 そして電子音声でロサアの母国語で喋ってきた。


 内容は

「仲間になれば、助けてやる」

 というような言葉だったと思う。

 ヴィクトルは一瞬迷ったが、


「断る。この国は俺の国だ。裏切ることなどできない」

「そうか、残念だ」


 そういった瞬間、ヴィクトルは真っ二つになっていた。

 あ、と声を上げることも出来なかった。反応も一切できなかった。

 強すぎる。

 斬撃は辛うじてコクピットを避けていて、ヴィクトルは生き残った。

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社不戦記/正義は何を示すのか/ @seli1120

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