社不戦記／正義は何を示すのか／

第1話 社会不適合者、ロボットに乗る

　正直、この世の中は生き辛い。俺の場合などそうに決まっている。

　管理された生活、制限された金、抑圧された欲望。

　全てが雁字搦めのこの生活が、俺にとっては地獄なのだ。

　〇ニュース

　昨晩、人型騎兵（ラムダ）アシッドの大手エルドア社の新型、ヴェルトゼートが何者かによって強奪されるという事件が発生しました～。

　〇正義視点

　こんなニュースなんて、俺には関係ないと思っていた。

　だって、例え身近にある存在のアシッドだとしても、大手の新型、それもヒロイックな正義面した機体が俺の家の近くの山に投棄されているなんて思いもしなかった。

　朝、日課の散歩に出かけたとき、山の斜面から巨大な足が突き出ていたからびっくりしたものだ。近寄ってみればどうしたことか、昨日ニュースでやってた機体が斜面に倒れているんだものびっくりするもんだ。

　近寄ってみて操縦席を覗いてみれば人はいない。

　周りも誰もいないんだもの。

　そりゃ、俺だって男の子。操縦席に乗り込み、いっけー！とか喋ってみるよ。

　そしたらどうしたって？

　機体が喋りだして、パイロット認定しますとか言い出して、そのまま操縦席に閉じ込められて今に至る。

　まあ、アシッドの操縦の仕方なんてのは、リングに手を入れて念じるだけで動くのは小学生の頃に習ったけどもね。まさかこんなことになるとは思わないじゃない？

　動け。

　そう念じると機体が宙に浮いた。操縦席から見える景色は三百六十度開けている。

　武器は…右手にライフルみたいなやつ、弾は無制限っぽいね…。あと左手に実体剣がついてるっぽい。弾が無くならないのは頼もしいね。動力は分からんけども。

　あと、このヴェルトゼートってやつはどうやら宙に浮けるらしい。

　さっきからずっと空に浮いてるからね。

　さて、これからどうしようか。

　とりあえず日本に戦争仕掛けようとしてる組織を潰しちゃうか。

　まあニュース情報なんですけどもね。確証もないけど。

　この機体ならそれが出来そうだからね。

　なぁに、男なんだやってみないことには、分からんからね。

　じゃあ、やってみるか。

　〇ニュース

　先日、強奪された人型騎兵ヴェルトゼートが、アメリア国の上空に出現し、同国の軍事組織CC社を攻撃、壊滅させました～。

　民間人などに多数の被害が出ており～。

〇正義視点

　パチンコでめっちゃ勝ってる時の感覚に近い。

　俺の経験上そんな感じしか表しようがない。

　CC社とドンパチやったとき、楽しかったし嬉しかった。

　敵、まあ、CC社のアシッドが豆粒みたいに思えて、潰すのが楽しくて仕方なかった。

　正義執行！みたいな感じで。

　だから民間人の被害なんて考えてなかったし、この機体にニュースが入ることを知ってニュースを見たとき、マジかと愕然としたもんな。

　どう考えても悪役ムーブじゃん俺。

　でもやっちゃったんだからもう仕方ないってのも事実なんだよな。

　ニュースを見る限りどうやら世間は俺をテロリストと認定したらしかった。

　俺は俺の正義を為しただけなのに。俺は日本を守ったのに。

　なんで俺だけ悪者にされなきゃいけない？

　昔からそうだった。

　いつも除け者にさえれて、悪いことは全部俺のせいだし、働かなけりゃ人間扱いされないし、地獄だった。

　こうなりゃ行けるとこまでやってやる。俺は日本を守るんだ、徹底的にやってやる。

　〇ニュース

　先日、アメリア国のＣＣ社を壊滅させた謎のパイロットとヴェルトゼートは中衛国の軍組織を攻撃しました。地球同盟軍は対象をテロリストと認定し～。