第6話 スキル融合の真価

 なんでこんなところにボスキャラのミノタウルスが?

 ミノタウルスは神隠しの森のボスキャラで深部にいかないと出現しない。

 思っていた以上に神隠しの森の深部へと入ってしまっていたということだろうか?

 

 いや、そうとしか考えられない。

 レベルアップで浮かれてしまったのだろう。

 まるでNoobヌーブのようなミスだ。

 せめてミノタウルスと邂逅する前に深部近くで出現する、もう少し高レベルの雑魚キャラとエンカウントすれば気づけたのに……。


「グォッ!」


 その時、ミノタウルスが片手に持つ巨大な斧を丸太ほどの太さの腕で軽々と横薙ぎに払う。

 俺は横っ飛びをして必死にその攻撃を回避した。

 幸いミノタウルスは体力と力は桁外れに高いが、素早さはそれほどでもない。


 ドガドガドカーーーー、と轟音とともに近くの木々がなぎ倒される。


「グゥーー」


 ミノタウルスは俺に向かってニヤリと口角を上げた。

 それで俺は気付いた。ミノタウルスは俺との間に存在する実力の大きな力の彼我ひがの差は分かっており、こちらを舐めて嬲り殺しにするつもりであることを。

 

「くそっ、舐めるなよ! 素早さだけならまだこちらにアドバンテージはあるんだ!」


 俺は一足でミノタウルスとの間合いを詰めて、横薙ぎ腹部に剣を振るって、そのままミノタウルスの後方へと通り過ぎる。


「どうだ!」

 

 しかし、ミノタウルスが振り返ると腹部には何の傷も入っていなかった。

 武器が貧弱すぎてミノタウルスにはダメージを与えられない。

 

 俺の絶望を感じ取ったのか、奴は悪魔のような笑みを浮かべて高笑いした。 


 「グフャフャフャフャ!!!」


 逃走の二文字が頭に浮かぶ。

 だが、ゲームシステム上では通常ボスとエンカウントすると逃亡できない。

 それに逃亡に失敗すると必ず敵の攻撃ターンとなる。

 この世界ではどうか分からないが、今の俺はミノタウルス攻撃を一撃でも食らえば即死だ。

 そんなリスクは冒せなかった。


 まてよ?

 突如現れたミノタウルスに気を取られて気付けなかったが、俺にはこいつを倒せる手札をもう持ってるじゃないか!

 焦っていた心が一転、冷静さと余裕を取り戻す。


「グォ?」


 ミノタウルスも俺の変化を読み取ったのか、訝しげな表情をしている。


(スキル融合! 微細操作 + 風操作)

  

【スキルポイントを10消費して精密風刃を獲得しました】


 俺は後方へ少し下がり、ミノタウルスと距離を取る。

 そしてすぐに獲得したスキルを発動した。


『精密風刃!!』


 目に見えないほど細かな風の刃がミノタウルスに直撃する。


「…………」


 ミノタウルスはその体を見ているが、何も変化がなかった。

 奴がニヤリとまた余裕の笑みを浮かべた時――

 

「グァーー!?」


 突如、ミノタウルスの身体中から鮮血が吹き出した。

 精密風刃は微細な風の刃を作り出し、鎧や防御を貫通する攻撃が可能になるのだ。

 一撃の攻撃力がそこまで強くないのが玉に瑕だが、防御力が高い敵でも確実にダメージを与えられるため大変有効な攻撃スキルだった。


 ミノタウルスの顔が怒りで真っ赤になる。

 格下と思っていた相手に傷をつけられたのが、余程腹がたったらしい。

 精密風刃が直撃はしたが致命傷にはなっておらず、まだまだ余裕はあるようだった。


「おい、バカ牛野郎。刻んでソテーにしてやるから楽しみにしてろ!」


 俺はコイコイと指でゼスチャーしてミノタウルスを挑発する。


「グォオオオオーー!!!」


 怒りにかられたミノタウルスは猪突猛進に俺に突っ込んでくる。

 その時、俺はこっそり手に掴んでいた砂をミノタウルスの顔面目がけて投げつける。

 砂はミノタウルスの目に直撃して、足止めになった。

 

 今がチャンスだ!


(スキル融合! 光屈折 + 色彩操作)

  

【スキルポイントを10消費して幻影迷彩を獲得しました】


 よし!

 俺は早速、獲得したスキルを発動する。


『幻影迷彩!!』


 ミノタウルスは涙を流しながらもすぐに視力を回復させ、前方を仰ぎ見る。

 するとそこまでいたはずの俺の姿はもうそこにはなかった。


「グォ?」


 必死になって周囲を探すが俺の姿はどこにも見つからない。


『精密風刃!』


「グァ!?」


 微細な風の刃がまたミノタウルスを切り刻む。

 ミノタウルスはまたキョロキョロと俺を探すが、その姿は見つけられない。


『精密風刃!』


 またミノタウルスが身体中から鮮血を飛ばす。

 ミノタウルスからは先程までの余裕は完全に消えて、その顔は恐怖に染まっていた。


「グァアアアアアーーー!!」


 パニックに陥り、悲鳴を上げる。

 冷静さを無くした時に勝敗は決まる。勝負あったな。

 

『精密風刃』

『精密風刃』

『精密風刃』

 ……




 地面には俺が魔力の回復に使用した魔力ポーションの小瓶が複数個転がっていた。 

 その傍らには、絶命したミノタウルスが地面を真っ赤に濡らしながら倒れている。

 粒子となったミノタウルスが消え、大きな魔石がそこから出現した。


 よし!

 俺はその魔石を手に取り、小袋に入れる。

 ここまでの大きさの魔石ならかなりのお金になるはずだった。

 小遣いをはたいて購入した魔力ポーションを今回多く使ってしまったが、収支はかなりのプラスになるだろう。


 すると、システムアナウンスが鳴り響く――

 

【レベルが10から11へ上がりました。ボーナススキルポイント20を取得しました】

【レベルが11から12へ上がりました。ボーナススキルポイント20を取得しました】


 レベルアップ通知がしばらく続く。


【レベルが20から21へ上がりました。ボーナススキルポイント20を取得しました】


 流石高レベルのボスキャラだ、一気にレベルが上がった。

 一体どのくらいのステータスになったんだろう?


(ステータスオープン) 


 名前:グレイス・カイマン

 年齢:16歳

 身分:カイマン公爵家三男

 レベル:21

 体力:32

 魔力:30

 スキル:鑑定lv3、風操作lv5、微細操作lv1、精密風刃lv1、光屈折lv1、色彩操作lv1、幻影迷彩lv1

 ユニークスキル:コピーlv1、スキル融合lv1

 保有スキルポイント:482


 保有スキルポイントに大分余裕があるな。

 とりあえず鑑定と風操作、精密風刃に幻影迷彩のレベル上げておくか。

 何かあった時の為に100だけは残しておこう。


 スキル:鑑定lv18、風操作lv20、微細操作lv1、精密風刃lv15、光屈折lv1、色彩操作lv1、幻影迷彩lv15

 ユニークスキル:コピーlv1、スキル融合lv1

 保有スキルポイント:100


 幻影迷彩は完璧な擬態能力を持ち、背景に溶け込んで姿を消すことが可能になるスキルだ。

 スキルレベルが上がれば物音をたてることはなくなり、匂いもしなくなって、気配もある程度遮断される。

 ここまで聞けば無敵に聞こえるかもしれないが、終盤以降では気配察知を高レベルで持つ敵が多くなるため使えなくなる。

 

 この幻影迷彩と精密風刃のスキルを使えば格上相手でもこうして危なげなく勝つことが可能になる。

 これでもう中盤までは安泰といえる。

 今回のようなイレギュラーなケースがなければだが……。


 俺は少しフラッとする。

 少し魔力を使いすぎたし、初回にしては出来すぎなほどにレベルを上げられた。

 今回はこれくらいにしておこう。


 俺は疲労感とともに満ち足りた充実感を感じながら、帰路へついた。

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