第7話 給仕
「ただいま」
「おかえりなさいませ！」
屋敷に帰ると、敷地内でメイドが洗濯物を干していた。
「悪いが、この後部屋に軽食を持ってきてくれないか？ 神隠しの森でのレベリングして消耗してしまってさ」
「悪いが？ あの、グレイス様が……か、かしこまりした！ すぐにお持ちしますね！」
「ああ、すまないが頼む。いつもありがとうな」
メイドは狐につままれたような顔をしていたが、何か変わったことでもあったのだろうか？
俺はそのまま自室に着くとベットに倒れこむるように寝転がった。
体力は限界で空腹で力入らない。
夕食までは持ちそうになかったから、面倒だろうが軽食をお願いしたという訳だった。
極限の疲れの為か、急激な眠気が襲ってきてそのまどろみ中にすぐに飲み込まれた。
「グレイス様が私に「悪いが」って言ったのよ。それに「いつもありがとうな」っとも言ったのよ！ メイドの私によ、信じられる？」
「信じられないわ、傲慢の化身のようなグライス様が…………聞き間違いじゃないの？」
「ほんとよ！ それに高圧的な感じなくて、お願いするような紳士的な感じだったわ」
「益々信じられないわよ。ちょっと前までは、おい、ちょっとお前、何か腹が膨れる美味いもん持って来い！ それでちょっと俺の部屋に留まれよ。飯食った後にはお前のことを可愛がってやるからな。ぐへへへへ。みたいな感じで誰が給仕するかじゃんけんで決める罰ゲームだったじゃない」
「どうしたの？」
そこにメイドのマリアが通りかかる。
これこれこうでね……っとメイドたちはグレイスの変化について説明する。
「たぶん気の所為なんかじゃないわよ。私はグレイス様から今朝感謝の言葉とともに誕生日プレゼントもらったもの」
「何よそれ！」
「詳しく聞かせなさいよ！」
「そんなことなんで黙ってたのよ、あんた！」
「ちょ、落ち着いて、一時の気の迷いかなって思って話せなかっただけだから」
マリアはグレイスとの顛末について説明する。
「じゃあ、グレイス様は変わったってこと？」
「でもそうやって見せてるのは、また痴漢行為を及ぶための罠かもしれないわよ。みんなあの変態には何度も騙されてるでしょ」
メイドたちは苦々しい表情を浮かべながら黙って頷く。
「性欲の塊のようなあの男がそんな紳士にすぐに変わるわけないものね」
「そうよね。もう少し様子見よね」
「ねえ、聞いた。神隠しの森で新米冒険者がグレイス様に助けられたって？」
「「「何よそれ！！」」」
新たに訪れたメイドの情報提供にメイドたちは色めき立つ。
「だから言った通りよ。先程冒険者ギルドから使者が来て礼状を当主のセドリック様に渡してくれって」
「グレイス様が人助けなんて信じられない！」
「じゃあ、ほんとに変わったってこと？」
「一体何がグレイス様を変えたの？」
「それよりグレイス様に軽食を給仕しないといけないのじゃないの？」
メイドたちの時が一瞬止まる。
グレイスは元々かなりのイケメンだ。
変態から紳士へジョブチェンジしたとすると、かなりの優良物件になる。
メイドから妾となって、ゆくゆくは夫人になることも不可能ではないのだ。
「私が行くわね」
一人のメイドが機先を制する。
しかし、すぐさま別のメイドからカウンターが入る。
「ちょっとお願いされたのは私よ！」
「グレイス様の専属のメイドは私だけど？」
「今まで専属だからなんて一度も言ったことないじゃない！」
「「「「なによ！」」」」
メイドたちは火花を散らす。
その後も少し揉めてコックへ食事の用意をお願いするのを忘れていたことから、グレイスへの給仕はもう少し後になるのであった。
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