第5話 神隠しの森
森をしばらく進むと空中を漂うクラゲのような魔物が現れた。
マントレックスだ。
スキルに風操作を保有している魔物で、風の力により自身を浮遊させ、攻撃時には風の刃で攻撃してくる。
複数体になると討伐難易度が跳ね上がるが、単体では紙装甲であることからそこまで強くない相手だ。
遠距離での戦いだとマントレックス有利になるので、相手が気づく前に一気に間合いを詰める。
「ウギョッ!?」
敵が気づいた時には俺の剣は上段から振り下ろされていた。
「ブギャアーーー!!」
断末魔の叫びの後にマントレックスは粒子となって離散していく。
マントレックスはスキルに風操作を保有していて、討伐するとそのスキルをコピーすることができる。
俺は迷うことなく念じる。
(スキルコピー)
【マントレックスからスキルポイント10を使用して、風操作を取得しました】
風操作は序盤から終盤までスキルレベルを上げていけば、普通に使えるスキルだ。
コピーしといて損はないな。
スキルレベルを上げる為にはスキルポイントを5使用する必要があり、スキルポイントは通常魔物など敵を一体倒すごとに1ポイント得ることができる。
コピーやスキル融合は10ポイント必要なので、残ポイントには注意が必要だったな。
但しユニークスキルの場合は1レベル上げるのにスキルポイントを20消費する必要がある。
ユニークスキルがそれだけ強力な故なのだが、俺が保有するコピースキルとスキル融合はスキルレベルを上げたところで恩恵が少ないので、スキルレベルを上げる必要はなかった。
マントレックスが離散した後に残った小さな魔石を地面から拾う。
魔石は売却することができ、これでお金を稼ぐことができたよな。
「た、助けてくれーーーっ!!」
その時、森の中から人の叫び声が聞こえた。
新米冒険者と思われる男が走って逃げてくる。
男の後方からはマントレックスが複数体迫ってきていた。
「後ろに隠れてろ!」
「あ、あんたは……ぐ、グレイス様!? 外れスキル持ちがこんなところで何を? 無理です、あなたなんかにあの魔物の群れを倒せるはずがありません!!」
「いいから下がってろ!!」
冒険者の男は渋々、後ろの木の影に隠れる。
そうこうしているうちにマントレックスは目前まで迫ってきていた。
『風刃!!』
俺は早速覚えたスキルでマントレックスを攻撃する。
「ギョギョッ!?」
あっという間に一体のマントレックスが粒子となって離散し、続けざま攻撃する。
『風刃、風刃、風刃、風刃ーーー!!』
次々とマントレックスを討伐する。
マントレックスは遠隔攻撃をしてくる敵と遭遇したことがないのだろう。
おどおどと混乱するだけで、攻撃に転じる様子がなかった。
「お前で最後だ」
最後に残った敵を両断して切り捨てる。
【レベルが7から8へ上がりました。ボーナススキルポイント20を取得しました】
レベルアップ通知がされる中、地面に落ちた魔石を拾っていると――
「あ、ありがとうございます。すみません、グレイス様があんなにお強いとは知らなくて……」
冒険者を鑑定で調べるとレベルが3しかなかった。
レベル3でこの森を訪れるのは、いくらなんでも自殺行為だ。
「気にしないでください。それより、そんな低レベルでこの森に訪れるのは自殺行為ですよ」
「はやくレベルを上げたくって……、でも今回の件で馬鹿だったことがよくわかりました。グレイス様は命の恩人です! 本当にありがとうございました!!」
冒険者の男は深々と頭を下げると、走ってその場を去っていった。
その後、マントレックスなど魔物を何体か討伐していき、順調にレベル10まで上げてスキルポイントも溜めていく。
低レベル帯の魔物は風刃さえあれば討伐難易度は低くくなり、初期のレベリングには最適なのだ。
ただ風刃は魔力を1消費するので、枯渇すると都度魔力ポーションを飲まなければならないのが難点だった。
他のスキルも絹の糸を操る霧状の魔物のシルクファントムからは微細操作手に入れ。
周囲の色に合わせて身体の色を変えることで、環境に溶け込む魔物のカメレオンストーカーからは色彩操作を手に入れた。
そして最後に、
「おらっ!!」
光を屈折させて複数体見えるように錯覚させるラディアントスネークを切り捨てる。
(スキルコピー)
【ラディアントスネークからスキルポイント10を使用して、光屈折を取得しました】
「よし!!」
狙っていたスキルがすべてコピーできたので、思わずガッツポーズする。
「じゃあ、帰るかな。レベルも上がったし、スキルも手に入ったし、順調すぎる。一旦帰って、英気を養おう」
ぐぅーっとお腹がなる。
帰還するとなったらとたん緊張感が薄れた。
今日の夕食はなんだろう?
そんなことを考えていた、その時――
ガサッ
草木がこすれる音がしたのでそちらの方向を振り返ると背筋が寒くなる。
その巨大な存在は、草木の間からゆっくりと姿を現した。
荒々しい息遣いが響き渡り、木々の影から浮かび上がったのは、牛の頭を持つ怪物――ミノタウルスだった。
その黒々とした瞳には狂気の光が宿り、真紅の目が不気味に輝いている。
その体は筋肉の塊で、まるで石を彫り抜いたかのように張り詰めた筋が肌の下で動くたびに波打つ。
剛腕は一本の大木ほどの太さがあり、肩から背中にかけてはまるで鋼鉄の板で覆われたような分厚い筋肉が盛り上がっていた。
鑑定をすると――
「くそっ、レベル32だって? レベル10の俺が勝てるわけないだろ!」
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