勇者と魔王

  

 ふと気がつくと、元いた世界に戻っていた。


 まさか、あんなに長い夢を見たのか、とびっくりしたが、そこが病院のベッドだと気づき、さらに混乱した。


「大丈夫?」


 姉が私を覗き込んで、私の名を呼んだ。そういえば、私はユーシャじゃなくて、その名だった。


 そういえば、召喚されたあの日は姉が遊びに来ていたのだった。じゃあ、飼っていた猫も無事だろう。


 よかったよかった、と思いつつ、まさか自分が1年以上もベッドで眠りこけていたということにびっくりした。


 じゃああれは、長い長い夢だったのか、と思っても、なんとなく信じられなかった。


 リハビリをすると、かなり早く一人暮らしに戻ることができた。いや、正確には猫と二人の暮らしだ。


 久しぶりの猫、なんて可愛い!

 久しぶりのおしるこ、なんて美味しい!


 私は幸せだった。でも一つ、やっぱりあの夢が気になっていた。それで、眠る前にやっていた、猫とおしるこのブログを再開することにした。


 ただ、なんとなくあの夢を諦められなくて、名前をユーシャに変更した。


 そうして更新を始めて、ある日のこと。


 コメント欄にとても熱いコメントが届いた。私はあの時、とてもとても嬉しかった。猫を可愛がりながらおしるこを食べている時のような幸せな気分だった。


『僕も、猫とおしるこが大好きです。このブログ、1年前から見ていて大好きでした。再開したと聞いて、居ても立っても居られなくてコメントさせていただきました。お久しぶりです』


 そのコメントをした人物の名前には、こう書いてあった。


 魔王、と。

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猫とおしるこ 鷹司 @takatukasa

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